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お題掌編:悠里とツバサ


『2を手に入れて幸福そうに微笑む1 ほろ苦く笑い返す2』

二人で住み始めた部屋のダイニングテーブル。
悠里が優雅にお茶を飲んでる隣にツバサは立っていた。
まさかのお題にツバサは悠里の顔を何度か見返す。

「あの、悠里?」
「何かしら?」
「ほんとに、これからするの?」
「ええ、問題がある?」

小首を傾げる姿には疑問は少しも見られない。
大学生になってから麗しさに磨きがかかった悠里がそうすると女神のようで何も言えなくなる。
でも、さすがにこれは……。
ツバサは確認するように言葉を重ねる。

「いや、他の人達とか、もう少し控えめな奴からやってるみたいだけど……」
「控えめじゃない」
「あ、そうですか」

そう言われてしまうと、ツバサに言えることはない。
これが控えめ。
その意味を確かめるのも怖くなる。
もう少し学生らしく「だーれだ」をしてみたかった。
シオン学園ではそのチャンスはなかったからだ。

「私、1だから。2をツバサがしてくれる?」
「え、そっち?」
「1がいいの?」

当たり前のように言われた番号にツバサは目を丸くした。
キョトンとした悠里がティーカップ片手にこちらを見上げてくる。
ツバサは両肩を竦めた。

「まったく自信はないです」
「私を手に入れられて、幸せじゃない?」

演技に自信がなさすぎて、ふるふると首を横に振っていたら、悠里から思いもしない言葉が返ってきた。
何を、バカなことを。
悠里の隣にいるために性別まで偽っていたのに。
たまに酷く不安気な顔をする悠里がツバサにはもどかしかった。

「そんなわけないじゃん!」

慌てて悠里の隣に膝をつく。
椅子に座ればよかったのだけれど、その数歩さえ無駄に思えた。
そっと悠里の太ももに手を置きながら、下から悠里の顔を見上げ、苦笑した。

「いや、演技力にまったく自信がなくて、ほろ苦く笑い返すとか……どうするの?」
「任せて」

するりと頬に手を添えられ、顔を近づけられる。
避ける間もなく悠里の美しい顔に意識を奪われた。
体を反らすにも限界があるし、顔は悠里にホールドされている。

「ちょ、悠里、さん?」
「ツバサ」

柔らかい感触が唇に残っていた。
かすかな残渣さえ甘い。
やっと焦点を合わすことができる距離になって、幸せそうに微笑む悠里に包まれた。
なんて強引で、困った人だ。こんなことをされたら何も言えなくなってしまう。

「その笑顔は、反則ですよ」
「お題にピッタリでしょ」
「ほんとに……わたしが恥ずかしい以外は完璧です」

悠里の頬に指を滑らせる。
いたずらに笑う顔はちゃんと恋人になってから、見る回数が増えたもの。
至近距離で悠里の笑みがさらに深まった。

「ワガママ許してね?」
「……しょうがないなぁ」

ツバサは苦笑しつつ、悠里の可愛いワガママを受け止めるしかなかった。

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