『サンドイッチを作るために忙しく食材を切り分ける2 具を挟むお手伝いを慎重に頑張っている1』
用意してきた食材をテーブルの上に積む。
キッチンもある程度の大きさがある部屋を選らんで良かったとザクロは思った。
ぴらぴらとお題が書かれた紙を片手に琥珀が頬を膨らます。
「ねぇ、こんなのからやるの?」
不満そうな顔。
ザクロは淡々と頷くだけ。
「簡単なものから終わらせるのが、仕事の鉄則ですよ」
「仕事って……イチャイチャしろってだけじゃない」
簡単に言い放った琥珀に、ザクロは視線を上げた。
ニマニマした琥珀がこちらを見ている。
ザクロは深いため息を吐いた。
「それが仕事じゃないと?」
「こわーい」
肩を竦める琥珀はこの状態を楽しんでる。
作るのはサンドイッチ。大して難しくない。
危ない食材の切り分けは自分がするし、琥珀は挟むだけ。
「大体、家事が壊滅的なあなたが普段からしてそうな内容じゃないですか」
「あなたが一人だと包丁触らせてくれないんでしょ?」
「危ないですから」
琥珀は少しだけ唇を尖らせた。
それは、そうだろう。
包丁なんてなくても、今の時代料理はできるし。
作詞作曲をする彼女の手が包丁なんかで傷つくのは違う気がした。
「ボディーガードなのに怪我させてたら本末転倒ですよ」
「できるのに〜」
その話は取り合わない。
ザクロが鼻で笑うと琥珀は諦めたようにキッチンに入ってくる。
「いつも感謝してるわよ。ザクロの作るご飯は美味しいもの」
見上げる顔。長い髪の毛で隠れて表情が見づらい。
でも、琥珀が照れているのが、琥珀より小さいザクロにはよく見えた。
ふっと頬を緩めて、彼女の色素の薄い髪を耳にかける。
結ってあげればよかったかもしれない。
そんな思いが掠めていく。
「じゃ、その感謝の分、具を挟んでください」
「はーい」
素直に頷く琥珀の姿は、年より幼い。
姿形は大人っぽいのに不思議なものだ。
と、食材に目を落とした琥珀が目を丸くする。
「ねぇ、これ、フルーツサンドじゃないの?」
「琥珀さん、好きですよね?」
さすがに気づくか。
琥珀は苦笑いを浮かべた。
まん丸い琥珀の瞳が覗き込んでくる。
「好きだけど」
「わたしが切るんで、好きなだけクリーム塗って挟んでください」
「どんなのにしようかしら!」
「お好きにどうぞ」
家事が苦手というより、経験がほとんどない琥珀は、手作りが好きだ。
フルーツサンドを作ってみたいと言っていた。確か、テレビ収録で出てきたのだ。
ノリノリでクリームをパンに塗り始める琥珀の隣でいちごを切る。
そっと取り皿に置いたら、紅い雫がついた指を掴まれる。
「好きよ、ザクロ」
視線を上げた瞬間にそんな言葉が落ちてきて。
ザクロは自然な動きで指を外した。
「知ってますよ」
「返しなさいよー」
「言わないって決めてるんで」
「意地っ張り」
とんと肩をぶつけられる。
それさえくすぐったくて目を細める。
まったく、わざわざフルーツサンドの材料を買ってきてる時点で分かって欲しいところだ。