東京銀経社アンソロジー「いつかあの空を越えて」の「ブラインド・パイロット」『だけ』長文感想を書きます。
なぜか。それはアンソロジー中で唯一、感動した作品だからです。
商業作品でも、うまいとか面白いとかはあっても、
感動できる作品はなかなかないですよね。
そして私が感動したのはごくごく個人的な理由によるものなので、
他の執筆者の方はあまり気にしないでください。
ちなみにこの感想は、いつもの阿諛追従レビューとはちがい、
(カクヨム内レビューは、人におすすめするためのものだと認識しているから)
あまり人目を気にしないで書いています。
まず、ホテルの内装のイメージが湧かないww
そういう設備があるのはわかるんですけど、調度品の雰囲気とか、客層とかよくわからん。
宿泊料金はいくらの設定なのだ。
こんなに都合のよいホテルがあるのか。
豪華客船の中のようにも、ユースホステル内の光景のようにも思える。
でもまあ、すべては象徴的設定なので、そのへんはどうでもいいです。
象徴的設定といえば、主人公の生い立ちもそうで、
彼女の父親は、ヘレンケラーのような三重苦を背負っているのか?w
とでも考えなければ成り立たない、現実的には無理な設定です。
あと面白いのが、作中作の使い方です。
「砦」はそのまんまカフカが書いていてもおかしくないですね。
作中に他の芸術のことを出すと、やたらとスノッブくさくなるか、
「それがいいの? 俗物」となるのだが、これは成功していると思う。
「ブラインド・パイロット」
このタイトルだけ見ると、戦闘機ものハードSFを連想する。悪天候の中で交戦だ~、みたいな。でもぜんぜんそうじゃない。
これは作中作に使われている映画のタイトルで「目をえぐりとられて、無理矢理飛行機を操縦させられる人」のお話。
パイロットは豪華な暮らしを楽しめるが、そこから脱出しようとすると眠ってしまう。
これもまた象徴的意味がたっぷりと含まれている。
めちゃくちゃ俗っぽい言葉でいえば、
この作品は「コンフォートゾーンから離脱しようとする話」なんだと思う。
主人公は自殺しようとしているが、それは決して真の脱出にはならず、
生育過程において埋め込まれたプログラム(愛の欠如)が発動しているだけではないか?
「何もかも満たされたホテル」=「自殺に至る人生の過程」
が相似していて、で、そこから抜け出すためのきっかけを見つける話。
なのかな~、と。
それで厳密にいえば、主人公を救うのは恋人ではない。
きっかけではあるけれども。
映画「ブラインド・パイロット」では、パイロットは自分で眠ってしまうため、飛行機から下りられない。
主人公は自分で眠りから覚める(=ホテルから出る)ことを選択しなければならない。
このへん語りすぎじゃないかとも思ったけど、ここまで書かないと一般読者にはわからないかも。
ちなみに、私が感動した個人的な理由とは、私も主人公のような環境で育ったからですね。
まあ現実的な範囲で、ですけど。
私は主人公的な感情には「スキル:瞑想」で対応している。
孤独とか分離感とか欠乏感とかいろいろあるんだが、最終的に「私は母から愛されていなかった」という結論に行きつくと、心が落ち着く。
ふつうの人には「なんでそれで落ち着くの?」と理解不能だろうと思う。
それが真実だからだ。
この作品には愛された(という設定の)子が登場するが、間違いなく、そっち側も歪んで育っていると思う……。
いろいろなことが巧みに隠された家庭で、明るくまっすぐ育つのは不可能だからだ。
人を癒やすのは愛ではない、真実だ。
と、私は思う。
この作品には現実的なリアリティはほとんどないが、真実はある。
そこが良かった。
こういう事情のある読者にとっては面白かったが、一般の人にはどうだろうか。そこは興味ある。
さあ、残り一部で再販なし! 電子書籍にはなるらしい?(未定です)
https://tginkei.booth.pm/items/6332626