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しょうもなおじさん"海野千鶴"

 海野千鶴(ウミノ チヅ)、32才、バツイチ独身、京都出身。
 元探索者だが、協会ではなく民間の探索者組織に所属していた過去がある。

 本人は探索者協会に所属したかったが、当時付き合い婚約もしていた恋人Aが件の探索者組織の幹部であり、更に海野にも自身が所属する組織への参加を要望した事から、Aの為に安定を捨てた形だ。この時、海野は25才。母譲りの艶めいた黒髪は彼女の誇りだった。

 海野とAは良く二人で組んで探索をしていたが、荷物の類は全て海野が持っていた。更に、モンスターの気を引いて攻撃を誘発したり、危ない時は身を呈してAを庇ったりと、海野はかなり献身的に尽くしていた。

 海野自身はそれを苦だと思わず、むしろ自身のAに対しての愛情表現だとすら思っていたのである。

 ただ、Aは屑であった。
 モンスターとの戦いで昂ったりすると、ダンジョン内の物陰で海野に口で処理をさせたりというのが屑エピソードでもナンバー2の酷さだろう。勿論3から下のエピソードも中々酷い。

 だが一番は何かと言えば、とあるダンジョンで海野とAは燃え盛る車輪のイレギュラーと対峙した時の事だ。

 "火車" と名付けられたそのモンスターは、文字通り燃える車輪を胴体として、車軸部分に人の顔がついている。
 車輪を生かした高速機動が持ち味なのだが、恐るべきはその炎の性質と場所を選ばぬ縦横無尽ぶりだ。

 炎は付着すれば中々消えず、消火剤の様なものを使って初めて消えるという代物で、機動もまた尋常ではない。何もない宙に炎の軌跡を残しつつ、立体的な襲撃を繰り返してくる。

 結果から言えば、Aは海野を囮として逃亡した。
 海野は奮戦し、なんと単独でこれを撃破するに至ったが、その時には全身を焼け爛れさせて自慢の髪の毛も焼け焦げ、そればかりか頭皮も酷い火傷を負ってしまった。顔は言わずもがなである。

 ダンジョン探索者協会所属が探索者がもっとも多い理由としては、こういった場合に手厚い治療を受けられるからである。医療技術も協会は厳重に管理されており、外部に漏れる事はなかった。
 勿論スパイめいた連中が送り込まれる事は日常茶飯事だったのだが、日本政府はこれらの行為に対してかなり厳しい姿勢を見せている。具体的に言えばそういった者達は全員殺されている。

 親方日の丸を良い事に各地にドカドカと関連施設を建設し、探索者の保護と囲い込みに余念がない。

 だが、それでも外部団体に所属する探索者はいるにはいる。
 それは報酬面での魅力が大きいからだ。
 探索者協会は報酬面で大分しみったれている…というか、探索者達からピンハネした分を福利厚生にドカドカ費やしているので、実際にはしみったれてはいないのだが、まあ手元に残る現金は外部団体よりは大分少ない。

 当時の海野も、もし協会所属であったならばスーパー・バイオなんちゃらだとかナノ・ブーストなんちゃらだとかの治療措置を受ける事が出来たはずなのだが…。

 全身火傷で、とりあえず民間の医療センターに運び込まれた海野だが、余りにも重傷過ぎて手の施しようがなかった。
 というより、一般人なら既に死んでいるはずなのだ。
 だが兎にも角にも彼女は焼石に水という様な措置を施される。
 とはいえここまでなら屑エピソードナンバー1はゲットできなかっただろう。それにしたって酷い話ではあるが。

 海野は所属していた組織から切り捨てられた。
 彼女の治療を支えるだけの金など無かったし、組織の幹部であったAも彼女との関係を潮時だと判断したからだ。

 海野は死んでいてもおかしくはなかったが、怨みと憎悪、そして探索者としての生命力でなんとか日常生活ができる程度には回復する事ができた。しかし代償は大きい。まずは財産。
 探索者としての稼ぎは殆ど治療費で消えた。
 だがなによりも容姿である。

 控えめにいってもモンスターか何かであった。
 自殺か、復讐か。
 海野は悩み、結論を下す。
 だが、彼女の結論が現実のものとなる事はなかった。

  "桜花征機" が彼女を拾ったのだ。
 社に尽くすなら、容姿も何もかも、元通りにしてくれるという。
 財産を失って生活ができないというのなら、当座の生活は支えてやるという。

 海野は一も二もなく承諾した。

 ちなみに探索者協会も彼女に食指を伸ばしたのだが、これは拒否された。海野はもう探索者なんてやりたくなかったからだ。

 そして彼女は "桜花征機" の様々な "強化拡張手術" を受けるに至った。

 現在の海野は "桜花征機" 本社、警備部所属。
 年収は額面で約2000万円。
 社への忠誠心は人一倍高い。

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