はじめまして


 5月21日現在、7話まで公開中で、実際に書いているのは11話ぐらい。あまりストックはないので、6月からは更新ペース落ちる予定です。

 少し序盤のネタの解説ですが、1話の「夜明け前に起きてすぐ、厨房に駆けつける修道士」のことを歌う「詩人」とはラブレーのことです。
 十六世紀、フランス文学の巨匠ラブレーです。
 なぜ十六世紀の作家を十三世紀が舞台の小説で引用するのか?
 それを今から言い訳させてください。

 言い訳に用いるのは『薔薇の名前』です。
 二十世紀後半を代表するこの小説の舞台は十四世紀です。この小説の緻密さについては、今さら私がくどくど申し上げるまでもありません(修道院が舞台の小説を書くときに、最も役に立つ日本語の書物が小説であるというのは困ったものです)が、緻密さの裏に仕掛けてあるエーコの遊びについては、一言とり上げてみたいと思います。
 『薔薇の名前』の舞台である修道院の中で最も目を引く施設であるのは書庫です。聖堂より巨大で人を寄せつけない異様な建物。この小説のミステリーの中心です。
 その書庫ですが、なんと蔵書の中に本来存在しないはずの書物があります。これはネタバレになる例の書物だけではありません。
 たとえば先ほど名前をあげたラブレーも、アナグラムという形をとって登場します(しかし作中のラブレーの名前を冠した書物は、ラブレーの書物ではなくラブレーについて書いたバフチンの書物と内容が似ているようです)。
 
 というわけで『薔薇の名前』に二十世紀の書物が出てくるのだから、拙作でも構わないでしょうと言い訳をしたかったのです。

 ちなみに『薔薇の名前』で扱われる二十世紀の書物はバフチンに尽きません。
 個人的には『薔薇の名前』は中世についての小説であるのと同じくらい、二十世紀についての小説なのだと言いたい誘惑に駆られることがあります。
 

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