〈小ネタ紹介〉
本作は紛れもなく吸血系統の作品です。というのも本作は一貫して成葉くんをキリスト教圏における「修道士」に、ヒロインの小秋さんを「邪悪な存在(吸血鬼)」として見立てているのです。
例えば、成葉くんが作中で聖書の言葉を引用すると、小秋さんは、無視する・話を変える・嘲笑する……など、不自然なぐらい否定的な態度を取るのです。これは聖書の言葉を嫌う吸血鬼特有の反応である、という演出です。嘘だと思う方は、引用一覧から聖書の一節が出てくるシーンを探してそこの小秋さんの反応を確認してみてください。
※あくまで吸血鬼として振る舞う小秋さんが故意にやっていただけの話です。
また、「吸血鬼は鏡に映らない」という吸血鬼の伝承をもじって、津吹家のキャラクターは作中で鏡に映っている描写が一回もありません。小秋さんも一回たりとも鏡に写っていません。
反対に、吸血鬼ではない人間のキャラクターは台詞が存在している人物ならばどんな脇役でも最低一回は鏡や窓に身体の一部が映っています。雨が重要な要素になる作品なので、車内のバックミラーやサイドガラス、室内の窓、道路の水たまりなど「鏡」になるものが身近に多いのにもかかわらず。
もちろん瘴雨患者はただの人間なので、こちらも演出の意味合い以外には特に深い意味はありません。ですが本作の世界観あってこそ機能する仕掛けとなっています。
もっと細かいものを挙げると、本作は成葉くん(修道士)視点で進行するお話なので、魔を連想させるものが描かれていません。代表的なのは数字です。キリスト教圏において不吉な数字である「13」が作品の枠組みから徹底的に除外されているのです。本作は全13章構成ですが、肝心の13章目は最終章と表記されています。また、各章を見ても最大話数は12話しかありません。話数がそれ以上を超えないように物語が進行しているのです。
ここで軽く触れただけでもお分かりの通り、吸血鬼愛好家の方をご満足させる要素が本作にはぎっしり詰められています。
本作はキリスト教を主とした西洋史や吸血鬼に造形が深い方はより奥深く楽しめて、それらに疎い方でも最後までエンタメとして読めるように設計されているのです。この他にも「分かる人には分かるネタ」が多数埋められているので再読する際はこれらを踏まえてまたお楽しみくだされば幸いです。
〈あとがき〉
企画開始が2020年9月、完成したのが2023年3月なので総制作期間は約2年半。
本作の構築に必須だった輸血・義肢・気象の分野はまったくの素人だったので、専門書を揃えてゼロから勉強しました。
輸血に関しては、実際に献血に行ったり、二週間ぐらい他のことを放り捨てて専門用語が詰まった辞書と格闘してました。それでも本編に使える設定はほとんどない有様でした(輸血に関するルールぐらいしか学ぶものがなかった)。
企画中はふとした時に「私何やってんの?」と我に返ってしまうほどでした。正直に言うと、この作品は全体的な作業量が多過ぎたので心身ともに疲れ果てました。ひたすら小秋さんのお声を頭の中に反響させる毎日に疲れ(アニメ的なお嬢様口調ではなく、良家のお淑やかなお嬢さんの古風な言葉遣いを実現するために五十回以上小秋さんの台詞全てを書き直しました)、軽度の不眠症になって二時間以上寝れない期間が半年ほどありました。
というわけで、筆者自身は本作が大嫌い。二度と読みたくありません。でも大好きです。我ながら、よくこんなものを書けたなと思います。
一番面白いヤンデレ系小説とは何か……?
人によって挙げる作品が違うのは当然です。けれど吸血鬼がヒロインの作品という条件ならば、間違いなく本作『雨籠もりの吸血嬢』が最高峰であることは読後の皆さんなら納得してくださるかと思います。吸血鬼分野において、本作を凌駕するヤンデレ小説は存在しません。そう断言できます。
今はその確信を持たせてくれた本作と、支えてくれた皆さんにただただ感謝したいばかりです。
〈最後に〉
『雨籠もりの吸血嬢』は電子書籍などでの有料の出版は一切していません。今後もカクヨム上で全話無料公開していくつもりです。
カクヨムでの活動のためにも、本作を気に入ってくださった方は応援をお願いしたいです。
・レビュー(星1〜3のランクで作品を評価するもの)
・推薦レビュー(星1〜3のランクで作品をコメント付きで評価し、作品のことを他の読者さんへおすすめするもの)
・いいね(各話を評価するもの)
これらは作品の表示ページから可能です。
傘士になったつもりで、あたかも献血するかのようにお気軽によろしくお願いします。
*
「あら、もうお帰りになりますの?」
「瘴雨が降っていますのに。雨が止むまで、ここで雨宿りしていっても良いのでは……」
「……そうですか。どうしても帰ってしまうのですね」
「わたくしの言うことが聞けない、身勝手で怠慢な傘士さん……いけない人。お父様になんて言いつけてしまいましょうか。なんて、ふふふ……冗談ですよ」
「ねぇ?別に構わないではありませんか。貴方がここにいらっしゃる、たったそれだけでわたくしは寂しい思いをせずに済みます。貴方だって外套を着込む手間がなくなります。お互いにいい事づくめでしょう?……屋敷にはわたくしたち以外誰もいませんから、貴方の血を無理矢理飲んでも咎められないことですし」
「あらあら、うふふ。逃げようとしたって無駄ですわ。この部屋から一歩でも出てみなさい、それっきり貴方のことは絶対に許しませんよ。……さあ、こっちまで戻ってきてくださいな」