〈作品紹介〉
2021年度の『犬人に会う』で多くの読者さんに認知していただいた園山制作所ですが、実はそれよりも前── なんと2020年夏季にヤンデレ・ライトノベル研究のために企画され、執筆を経て公開していた作品がありました。
それは『海上都市のお嬢様は監禁したい。』という作品です。
『海上都市のお嬢様は監禁したい。』(以下『海上お嬢』)は、2020年7月から2021年2月までカクヨムで連載されており、ノベリズムという他の小説サイトにも連載していた時期がありました。活動をカクヨムに絞ったこともありますが、現在はカクヨムにおいても非公開となり削除済み。どこにも公開していないので、著者の私以外には誰も読めないようになってます。
簡潔に言ってしまえば、ボツという扱いになっているのです。
〈作品データ〉
『海上都市のお嬢様は監禁したい。』
・世界観
2030年代の近未来。
次に来るであろう津波災害に対抗するため、巨大堤防の建設プロジェクトが立案され、堤防建設のために海上の至る所にプラットフォーム型の海上都市が築かれている時代の日本。そこでは働く人々が海の上で暮らし、地上では地元住民から堤防建設の反対運動などが起こっていました。
・ストーリー
巨大財閥の会長の愛娘こと小夏と交際していた男子高校生である檀原は、ある日、三河湾を囲う堤防建設の足がかりとして生まれた海上都市・シャルドネへ強制的に引越しさせられてしまう。
なんとそれは小夏の陰謀だったのだ。陸の故郷に返してほしいと小夏に懇願するが、彼女は頑として断り、徐々に檀原を束縛していく。
海。夏──。それぞれの思惑の中、青春をかけて、檀原は都市からの絶望的な脱出を試みる!
・総文字数:約12万文字。
・話数:25話前後。
・ヤンデレ濃度:濃い
・世界観設定濃度:薄い
〈開発経緯〉
本作はヤンデレ自体の研究──ではなく、あくまでも「ヤンデレ分野のライトノベルはどのように書くのが良いのか?」という手法模索のために書かれた作品でした。
以前の私は専ら、一般文芸や古典文学、哲学書、分野ごとの専門書全般を嗜んでいましたので、そちらから得られた知見のみでオタク文化を紐解こうと試みていました。
とはいえ、それにも流石に限界があり、ヤンデレのボリューム層であるライトノベルという形式の中のヤンデレに目を当てることを求められるように感じてきました。それに当たって、否応なしに自分でもヤンデレ・ライトノベル作品を執筆することになり、本作の企画が開始されたのです。
当時、小説作品に関して、ほとんどSF系統の一般文芸しか知らなかった私は、ウェブ小説のライトノベルには大変疎かったので、とりあえず書き方をそれっぽいものに変更することから始めました。
作品形式を三人称から一人称にし、地の文を極力減らして台詞を増強し、あとはコメディ色を強めるなど、いわゆるオタクの読者さん向けの調整の数々を行いました。それ自体は作風の変更ということなので、特段おかしな判断ではなかったのですが──。
〈問題点〉
一番問題だったのは、そうしたライトノベルの一般的な手法で、ヤンデレとSF設定が盛られた世界観を無理に混ぜてしまったことです。
また、ヤンデレ読者層の最初の興味を掴むため、なんとヒロインが病んだ原因を作中ほぼ明記せず、初めから病ませた状態で主人公を溺愛させて、パターン化されたステレオタイプのヤンデレを使用するという──許し難い暴挙すら行っている始末(今の私からすれば、こういうことは本当に許されるものではありません)……。
当然のごとく『海上お嬢』は恐ろしくカオスな作品となってしまい、悪い意味でとんでもないものになったのです。
おまけに作品内容にも不備がありました。
海上都市という設定が深堀されていない点が多々見受けられましたし、世界観の割には不得意なコメディの描写を強いられたわけですから、今読み返すと、随分苦労している感じやこんなの書きたくないオーラが笑えるほど窺えます。
〈その後〉
この『海上お嬢』の反省から、作品の書き方を大人しく戻しました。
ステレオタイプのヤンデレヒロインの全面禁止化はもちろんのこと、制作形式を三人称へリターンし、コメディ風味の会話を制限。心理描写とテーマ性の増強、精緻な設定という作風を全面に押し出すという本来の書き方を曲げずにきちんと伸ばす方針にしたわけです。
散々ひどいことを書いてますが、先述の通り『海上お嬢』は元々、単にヤンデレ・ライトノベルの制作手法の研究として試作されたのですから、最適な書き方と改善点をいくつも発見させることに貢献しただけでも、ある意味は成功作ですが……。
やはり内容自体がアレなので、私の中では、未だに残念ながらお蔵入り扱いなことに変更はないです。
反面、収穫は多くありました。
本作で描ききれなかった「お嬢様」というヒロイン像は『雨籠もりの吸血嬢』へ応用されることになりました。
また、世界観と密接な関わりを有するメインヒロインを配置し、なにかしらの事情を抱えた主人公をそこに放り込むという──現在の私のヤンデレ・ライトノベルの構図を初めて採用したのは、実は『犬人に会う』ではなく『海上お嬢』です。
それだけでなく、園山制作所のガジェットでもあり、トレードマークでもある白髪・暗い青い目のヤンデレヒロイン像(現在の著者のTwitterアイコン画のキャラ)を最初期に実装した作品も『海上お嬢』です。
そういうことなので、全体的に見ると、実験作としては無視できないほど素晴らしい成果を挙げたのです。
小夏さん。今更ですが、ありがとう!
〈余談〉
既にお気づきになった方もいらっしゃるかと思われますが、『海上お嬢』と『雨籠もりの吸血嬢』はところどころ似ている箇所があります。
一時は、この2作品は実は同じ世界観で、ヒロイン同士は血の繋がりが……なんて裏設定も考えましたが、年代や各自の世界観を合わせると矛盾まみれだったので破棄しました。因みに2作ともメインヒロインの苗字が津吹なのはその名残です。
〈最後に〉
兎にも角にも、ヤンデレとライトノベルは奥が深いようです。今後ともオタク文化の研究の傍ら、この両者を私の中で開拓して発展させていきたいばかりです。
さて、最初の【活動裏話】はいかがだったでしょうか?
今後とも我が園山制作所の活動、作品を見守っていただけると幸いです!
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〈表紙絵制作スタッフ〉
・キャラクター原案:園山制作所
・キャラクターデザイン/イラスト:くるせらー 様
・ロゴデザイン:Elsel 様
「ちなみに私も読書が大好きなんですよ」