――えー、クズ君来てくれるの? 超うれしー――
――小那と二人でフードコートで暇してるから、早く来なね――
「暇してるじゃねぇよ、二人してこんな場所で何してんだ?」
「えー、もう来てくれたんだ、クズ君会いたかったよー」
「っていうか写真見て驚いたけど、机とかどうしたの? 本当に寝取っちゃった感じ?」
「そんな感じ……とも言えんのかな。何もしてねぇけどさ」
腰まである超ロングゆるふわヘア、当人曰くパーマなんて掛けてないって言い張る波打つロングヘアの、前髪部分だけをまとめて上で縛ったへんてこな髪型にしたのが、|片栗《かたくり》|小那《こな》。
男を誘う身体をした天然って雰囲気だが、知る限りではコイツが男に抱かれたって話は聞いた事がねぇ。むしろ前噂だけが広まっちまって、学校でストーカーに襲われそうになってから一度も登校してない、健全な不登校児だ。
隣にいる黒髪をウルフカットにしたのが|三林寺《みりんじ》|白湯《さゆ》、完全にクラスで孤立してるツンデレのツンだけの女だな。グループにも一切属さないし、誰かと仲良くしてるのを見た事もねぇ。言い換えれば、唯一の親友が小那だったんだが、彼女が学校に行かなくなってからは、一度も登校してない。
トップクラスの頭の良さなんだが、それゆえに敵も多く、一年の時はイジメも結構あった。
小那の事件以降、学校に行く意味なんかないと言い張り、今に至る。
「えー、クズ君がしたいんなら、いつだって小那が抱かせてあげるのに」
「ねー、寝取るってよりも、クズ君は自分が女に寝取られるタイプだよね」
「なんだそれ。冗談はその大きいおっぱいだけにしろよな。俺が小那に手を出す訳ねぇだろ」
小那め、んふーって満足そうな顔しやがって。
小那は男アレルギーみたいなもんだからな、俺以外の男とは一切口を開かない。
襲われたのがトラウマになってんだろうな、全く、|世の中《よのなか》野獣だらけかよ。
「それで? 実の所は?」
「ん? ああ、先週の金曜日、二人と遊んだろ?」
「ああ、そだね」
「そのあと、帰り途中のロータリーで女がうずくまって泣いててよ、そんで声かけたんだよな」
俺にしがみつきながら、ゆるふわヘアの小那が見上げて一言。
「さすが女ったらしのクズ君」
「下心満載で優しいねぇー」
「それ褒めてねぇからな」
まぁ、そんな感じでみーみー泣いてる女の子に声を掛けたら、平坂ちゃんだったんだよな。
道端で泣いてる女の子なんざ、ここらにゃ掃いて捨てる程いるからな、珍しい事じゃねぇ。
だから誰も声を掛けないし、気にも留めない。
だが、俺はそういうの見逃せねぇんだよな。
――――あの日
「どしたん? なんで泣いてるん? 相談乗ろか?」
「……ヒック……いいから、ほっといてよ……」
定番のクソ男ムーブかましたのにスルーかよ。
結構、切羽つまった感じか? 声の感じ同世代だと思うんだが。
「いやいや、道端で泣いてんのなんか見過ごせねぇんだわ。しゃがんだだけでローライズパンツみてぇに下着丸見えだしよ。ここら辺思ってる以上に悪いお兄さんがたむろしてっから、怪しいお店に誘われちまうぞ?」
そこまで言うと、女は立ち上がり下がっていたパンツをぐいっと持ち上げた。
下着を気にするくらいの貞操観念と常識はありそうやね、なら平気かな。
袖口で涙をぬぐいながら、女は振り返る。
「そうやって男は……女をなんだと思って見てるのよ」
「エロカワイイ存在」
「あっそ、良かったわね」
「っていうか、あれ? お前、どっかで見た事あんな」
長い髪を束ねて前で留める感じ、強い目力に涙袋がチャーミングなのも特徴だな。
やせ型だけどクラスの中じゃボチボチある胸に、くびれた腰つき。
「制服じゃねぇから一瞬見間違えたが、同じクラスの平坂ちゃんじゃねぇか」
「……え、ウソ、葛霧君?」
「お、名前覚えててくれて嬉しいね。どしたんこんな場所で? 彼氏は一緒じゃねぇの?」
「彼氏……彼氏は」
そこまで言うと、平坂ちゃんはまたポロポロと泣き始めた。
女を泣かせたまま放置は出来ねぇよな、だから近くのマックに行ったんだが。
「ほい、コーヒー俺の奢り」
「……ありがと」
「ちっとは泣き止んだか? まぁ、人生色々だよな」
こうしてみると、化粧は泣き崩れちまってるが、元々素材がいいんだろうね。
整った顔してて、普通に可愛いや。
彼氏付きじゃなかったらこの状況だって、諸手で喜んでたとこだよ。
「……ねぇ、葛霧君ってさ、女遊びが激しいって、本当?」
「言い方が酷いが、女友達は何人かいるぜ」
「その中の何人かとは、その……セック……とかも、してるの?」
「そりゃもちろん」
誰ともしねてねぇけどな。
バッキバキの童貞だよ。
だけど見栄ぐらいは張りたいもんだ。
「……そっか」
そのまま平坂ちゃんは黙って俯いちゃってるから、俺もスマホを眺めて時間を潰す。
たっぷり一時間くらいかな、この無意味な時間いつまで続くんだろーって思ってた辺りで。
「ねぇ、葛霧君」
「んぁ?」
「私と……したい?」
平坂ちゃん、急にこんなこと言ってのけやがった。
十七歳童貞の俺からしたら垂涎もののお誘いは、断る口実すら見当たらねぇ。
だが、そんな俺にも残念ながら常識と良識がある。
「彼氏はどうすんだよ」
「いいよ、もう。だって今アイツ、ラブホにいるんだもん」
「……それ、マジ?」
「見てたから……デートの後、こっそり付けてったら他の女とホテル入ったの」
写真もバッチリ撮ってたみたいだな……あー、こりゃマジだ。
しかも駅から近くのお安いホテルじゃん。お休憩二千円の幽霊が出るって噂の。
「そんで? 悔しいから俺とセクスして憂さを晴らそうっての?」
「憂さを晴らすっていうか……和人にも、悔しい思いをさせたいって言うか」
「まぁ、俺は何でもいいけどよ。マジで行くんならマジでするぞ?」
そんなやり取りがあって、いざホテルへと向かったんだよな。
互いに交代でシャワー浴びてよ、おっぱいとか舐めたりしてたのにさ。
――――
「蓋を開けたら何も出来ねぇし既にバレてるし、まぁまぁ酷い目にあったって訳よ」
「そんな安い女について行っちゃダメだよー?」
「ねー、だから抱くなら小那にしとけって何回も言ってるじゃん」
小那の事件知ってるから、そう簡単に抱こうとは思えねぇんだわ。
おっぱい大きいのは知ってるし? それを揉んでる白優だって十分可愛いんだけどよ?
「でもさ、結構酷くない? クズ君何も悪いことしてないじゃん」
「こんなに机ボロボロにされて……しかも呼び出しもされてたんでしょ?」
「行かなかったけどな」
もしかしたら学人が行ったかもしれねぇが。
まぁ行った所で当人じゃねぇんだ、何もねぇだろ。
「こういうの、仕返ししないの?」
「何かするなら、小那達協力するよー?」
「別にいいよ、したって楽しくねぇし。それよりも、カラオケとかどっか行かね?」
「お金がないのー」
「クズくぅん、奢ってぇー?」
コイツ等、金がないから俺が来るの喜んでいやがったな?
ホテル代も結構痛かったのによ……でもまぁ、いいか。
女と楽しく過ごせるくらいの金は、クソ親から貰ってるしな。
どうせアイツも今頃……。
……まぁ、いいや、考えるだけ無駄だな。