「葛霧、お前、昨日どうして来なかったんだよ」
白優と小那の二人と仲良く遊んだ翌日の下駄箱。
朝っぱらからくどい顔した幸島が俺を睨みつけてやがんな。
しかも一人じゃねぇの、他にも連れが何人もいやがるぜ。
「行けたら行くっつったろ。大事な用があって行けなかっただけだ」
「最初から来るつもりなかったんだろ?」
「そうは言ってねぇよ? 男との約束よりも女との約束の方が大事ってだけの話さ」
「女か……それって、俺の彼女との約束じゃないだろうな?」
そんな訳ねぇだろうが、バカなんじゃないかコイツ。
というか、この感じから察するに平坂ちゃんは本当の事を喋ってねぇな。
喋ってたらむしろ俺に対する謝罪があってもいい。
……いや、さすがにねぇか。
「答ないってことは」
「ちげぇよ、お前には関係のねぇ話だ」
「……まぁいい、今から一緒に来い」
「朝のホームルームに間に合うならいいぜ?」
「それは、お前次第だな」
手首握られて、そんで円陣組んで楽しい場所へとご案内っと。
さてはてどうすっかなぁ……まぁ、適当に遊ばせとけばいいか。
無駄に暑い六月終わりの太陽さえも届かない、蒸し暑い校舎裏。
雑草生い茂って草むしりした方がいいんじゃねぇの? って場所で話し合うったってなぁ。
「ここクソアチィから、涼しい場所にしねぇ? 食堂とか朝から開いてんぜ?」
「ここにいる奴等は俺の親友とも呼べる男達だ。コイツ等になら俺は本音で話が出来る」
「いやだからよぉ、校舎裏じゃなくてだな?」
人の話し聞いてねぇな。
|幸島《こうじま》|和人《かずと》、二年一組ボクシング部。
平坂真由那との付き合いは一年生の夏、幸島から告白したって噂だ。
若干一年の付き合いで愛想を尽かすことも無く、仲睦まじい姿はクラスじゃ有名だ。
だが、この男は他の女とホテルに行ったって平坂ちゃんが言ってたんだよな。
写真もあったし、そこは間違いねぇだろう。
それが原因で俺と一緒にホテルに行く、なんつー蛮行に及んだ訳だが。
「だから、俺の彼女の不貞問題もコイツ等になら相談できるんだよ。葛霧|正人《まさと》、お前、俺の彼女とホテルに入ったらしいじゃないか。どういう事か説明して貰おうか?」
「……さぁ? 平坂ちゃんから聞いたのか?」
っとぉ……、目にもとまらぬ速さで拳が目の前に飛んで来たんですが。
喰らったら一撃で昇天しそうだ、拳タコがすげぇ。
「真由那はなぁ、涙ながらに言ってくれたんだ。お前に脅されてしょうがなくってな」
「……へぇ」
「真由那は俺が初めてだったんだ。俺以外の男を知らない、俺も真由那以外の女を知らないんだ。なのになんでお前なんかが割って入ってきたんだ? お陰で俺は真由那を見るたびにお前を思い出し、それまで出来てた事が出来なくなったんだよ」
この年齢でEDっすか、ご愁傷様っすね。
下半身を見るに、立派なものを持ってそうですけど。
「話を聞いた時は、お前を殺すつもりだった。だが、コイツ等に止められたんだ。とりあえず葛霧の意見も聞いておこうってな」
「そりゃどうも」
「それで……まだ答えを聞いてないが。どうなんだ、俺の真由那とはホテルに行ったのか?」
ぽりぽりと頬を掻きながらも、ちと悩む。
んー、だが、ウソは嫌いだから、正直に。
「行った、裸のお付き合いもさせて貰ったよ」
「そうか――――じゃあ、お前を殺すしかないな」
ビュンッって、あり得ない速度で幸島の拳が俺の真横を通過していきやがった。
肩の動きでギリ避けれたが、直撃したら一発で死ねるぜ?
「待て、待てよ和人!」
「うるせぇ! 俺はコイツを殺さないといけないんだ!」
「お前、来月インターハイなんだぞ!?」
「こんなとこで暴力事件起こしたら全部ダメになるんだぞ!?」
「真由那の為にも、俺はコイツを殺さないといけないんだ! 離せよクソがぁぁ!!」
周囲の奴等、俺の為じゃなくて幸島を抑える為に集まってやがったな。
多分全員ボクシング部か、その関係者ってとこか。
「葛霧! お前もとっとと行け!」
「お前がいたら和人が止まらねぇだろうが!」
「離せ! 邪魔すんならお前らだって容赦しねぇぞ!」
「バカ、和人やめろ!」
……まぁ、俺は平和主義者なんで。
喧嘩だなんだは御遠慮出来るんなら、その通りに動くだけさ。
「待てよ葛霧! クソ野郎があああああぁ!」
遠吠えは適当に流しちゃって、俺はとっとと教室に戻るとするかね。
しかし色々と腑に落ちねぇな、幸島の奴、浮気してたにしちゃ純情過ぎねぇ?
んー、もしかして平坂ちゃん、何か隠し事でもしてんのかね。
「クズ君!」
「んお?」
幸島のパンチ並みの速度で飛びついてきた可愛いの。
ゆるふわロングヘアの前髪だけ上に結んだのが特徴な、おっぱい大きい小那ちゃんだな。
後ろには体の前で腕を組みながらも、優しい眼をした白優の姿もありやがる。
「小那と白優じゃねぇの、二人揃ってどしたい?」
「クズ君が心配だって小那がうるさくってね」
「そうだよ、またイジメられてたら可哀想って、小那思ったの」
「まぁ、こんな感じ。しかも学校来てみたらクズ君どこかに連れてかれてるし、何か大声で叫んでるしで、こちとら心臓止まるかと思ったよ」
ウルウルしちゃって可愛いね、しかし二人とも制服が眩しいこって。
スクールシャツの上にパーカー羽織って、スカートは限界まで織り込むとか。
二人そろって動画デビューでもしたら、即日万バズ間違いなしだね。
「……なに?」
「いや、制服似合ってるなって思ってよ」
「性的な意味で?」
「クズ君、こういうのが好きなの?」
「……ま、否定はしねぇな」
「えへへー、じゃあクズ君が喜ぶなら、小那、毎日制服着てあげるねー」
「おう、ありがとな」
二人できゃっきゃしてんの見るのが、一番心安らぐわ。
「あ! 片栗さんに三林寺さん!」
「あー、お母さんだー」
「本当だ、お母さん、急に叫んだらビックリするよ」
「急に叫んだりもするよ! やっと学校来てくれたの!?」
ぱたたたーって走ってきて、二人をぎゅーっと抱き締めるお母さんこと保健室の先生。
|牧島《まきしま》|七海《ななみ》ちゃん、今年で二十四歳。学人が狙ってる一人でもある。
年齢の割に面倒見が凄く良くて、今年の一月に起きた小那の事件の時に、俺達三人はめちゃめちゃお世話になった。
この人が居なかったら、小那は今頃ここに居なかったと思う。
それぐらい、仲の良い先生の一人だ。
「とにかく、来てくれて嬉しい。保健室行く? 小那ちゃんの好きなお菓子あるよ?」
「えへへー、行くー」
「白優ちゃんも来るでしょ?」
「アタシは……ちょっとだけ野暮用があるから、教室に行こうかな」
「……大丈夫なの? 無理してない?」
牧島ちゃんが眉を下げて心配そうに白優を見る。
一年の頃、白優もイジメを受けてたからな、そりゃ心配にもなるだろ。
成績優秀が故の僻み、白優は負けん気が強いから、そんなの気にせずトップを走り続けた。
結果としてそれが敗者の恨みを買う事となり、白優は壮絶なイジメを受け、心に傷を負っちまった。
いじめの張本人は停学を喰らい学校からいなくなったものの、白優自体も小那の事件があって学校に来なくなっちまった。牧島ちゃんからしたらイジメに関わった二人が二人ともいなくなっちまったんだ、それなりに思うところもあったんだろうね。
「……大丈夫だよ、クズ君が一緒だからさ」
「……そうかい、頼ってくれて男冥利に尽きるってもんだ」
「えー、白優ちゃん行くなら、小那も行くー」
「小那……まぁ、大丈夫かな。牧島ちゃん、何かあったらすぐ連絡いれっから」
物凄く心配そうな顔しちゃってよ。
あーいう人が母親になってくれてたら、真人間が育つんだろうな。
残念ながら、俺の母親はそうじゃなかったけどさ。
朝のHRギリギリになっちまったが、間に合うなら問題ないっしょ。
両手に花の状態で教室へと向かうと、早速クラスメイトの奇異の視線が飛んできやがるね。
小那は前髪を下ろして見えないようにし、更に俺の背中に隠れてるし。
白優もそれまでの表情をキュッと険しいものに変えちまった。
「おー! 何だよ二人とも来るんなら連絡くれよな!」
「学人君……えへ、なんか、ちょっと安心した」
「君だけは変わらないね」
氷のように冷たい教室だが、ここだけは暖けぇな。
いつかは白優と小那も、この教室に戻って来てくれると嬉しいんだけど……って、白優?
アイツ、一人歩いて平坂ちゃんのグループのとこに行っちまいやがった!
「……なんですか」
「真由那に会いに来たんだ、話がある。休憩時間、ちょっと付き合ってもらうよ」
§
以上三話です。
宜しければ作品への期待する展開等教えて頂けたら嬉しく思います。