タイトル
『クズと呼ばれた俺の上で、泣きながら股を開いて腰を振る女がいるんですが。』
§
裸になり横になった俺の上で、女がすん……すん……と鼻をすすりながら腰を動かしている。
若干日焼けした肌は体操着焼けをしていて、肩口から鎖骨への変色は見られない。
綺麗な肌だなとは思うが、各所に見られる痣がちょっと気になるね。
一糸まとわぬ姿になり、俺の上で泣きながら腰を振っているが、最後の一線は超えていない。
互いのモノを擦り付けちゃいるが、中には入れてないってだけ。
ちょっとズラしたり少しでも腰を浮かせば、すぐにでもその一線は超えるんだろうけど。
「こういうの、|幸島《こうじま》ともしてるん?」
「……うん」
「そっか、まぁ、俺は何でもいいけどさ」
頭の裏で手を組み、俺は裸体のクラスメイトの女を眺める。
|平坂《ひらさか》|真由那《まゆな》、冴霧高校二年二組、俺と同じクラスの女だ。
普段は彼氏の幸島と一緒にいるのを、ちょこちょこと見かけてはいたものの。
まだ成長途中だと言い張るやや硬い胸に、全然その気じゃないって分かる小さい先っちょ。
俺の胸に乗っけた手にはネイルの一つもない、飾り気のない性格を表現するには十分な感じ。
くびれた腰だが、前かがみになると僅かに一本の線が入るくらいには、肉付きがいい。
その腰に手をあてがうと、平坂はすぐに俺の手を払いのけた。
「触るのはダメ」
「いま絶賛下半身が触れ合ってんじゃん」
「そうだけど、|葛霧《くずきり》君から触るのは絶対にダメ」
「生殺しもいい所じゃね?」
「クズなんだから、別にいいでしょ」
へいへい……どうせ俺は遊び人のクズ野郎ですよっと。
しかし一体いつまでこうしてりゃいいんだろうね。
まぁ、俺は気持ち良けりゃなんでもいいけどよ。
「…………やっぱり、やめる」
「へ? ここまでしておいて? ホテル代も俺が払ったんだぜ?」
「私の裸見たんだから、それでいいでしょ」
「いやいや、俺何もしてないんだが?」
「もう帰るから、ここでの事は誰にも言わないで」
「いやいや……って、おい、平坂」
立ち上って凄い勢いで洋服を着こみ始めると、ものの数秒で薄い長そでのパンツ姿になっちまった。下着もちゃんと付けたんだな、ブラも青と白のボーダの下着も何もねぇ。髪を乱暴に櫛で梳いて斜め前に下ろしてゴムで止めると、なんだか冷めた目で俺を見下ろしやがる。
かと思いきや、視線を横にやりながらベッドに片膝を付く。
そんで、まだベッドの上で裸の俺の頬に、ちゅっと音の鳴るキスをしたんだ。
「……ごめん、でも、ありがとう」
「……そりゃ、よござんしたね」
「また月曜日、学校でね」
僅かに浮かんだ笑窪を見て、まぁいいかともう一度ベッドで横になる。
扉を開けて出ていく平坂を見送って、俺は一人無料ポルノを流しながら、軽くため息をついた。
――――
「あーあー……あ?」
月曜日、俺の下駄箱を開けると一通の手紙が入ってやがった。
中を見ると『死ね』の二文字が真っ赤に染められててよ。
まぁ、こんなの今に始まった事じゃねぇし、気にするつもりもサラサラねぇ。
って感じで教室に入るなり、今度はクラスメイトの目が白ずんでやがんの。
「葛霧、お前なにかしたのか?」
「……いんや何も?」
「机、見てみろよ」
クラスの悪友でもある|学人《まなびと》|勇士《ゆうし》が親指で指差す方。
そこにある俺の机ちゃんは、下駄箱以上に荒れた状態で待っていましたとさ。
「カス、死ね、寝取り野郎、バカ……あっはっはっはっは! なんだよこれ、どこの小学生が書いたんだよ! あっひゃっひゃっひゃ! すげぇぞ|学人《ガクト》、机の裏にまでマジックで書いてある! 椅子の上には画びょうっすか!? うっひゃっひゃっひゃ!」
「ここまでされて笑ってられんの、お前くらいのもんだよ」
「あー? 思い当たる節しかねぇからな。別に気にする必要ねぇだろ」
あーこらよっこいしょって席に着くと、周囲の奴等が一斉に視線を逸らした。
んが、最後まで俺を睨みつけてるのが若干一名……幸島、だな。
他クラスのアイツがわざわざ俺のクラスまで来て睨みつけるなんざ、理由は一個しかねぇか。
んで、幸島の目の前で真っ青な顔しながら俯いてんのが、平坂ちゃんですよと。
あー、これこの前のバレた臭いな。
とはいえ俺から何か言う必要はねぇし、厄介ごとに首を突っ込む気もしねぇ。
「まぁ、葛霧が気にしないってんなら、俺は構わねぇが」
「ありがとさん。それより、今日も|白優《さゆ》と|小那《こな》の二人は学校来てねぇのな」
「……そうだな、二人とも、そろそろ出席日数ヤバイぜ?」
「訳アリだからなぁ、ちょっとだけ連絡取ってみっか」
――白優学校にいないんだけど、どこにいるん? ――
――小那学校にいないんだけど、どこにいるん? ――
はい、二人同時に送信っと。
どうせ二人一緒にいるんだろうけどな、そんでどっかで遊んでるんだろ。
色々あったもんなぁ……学校に行きたくない気持ちは分かるけどさ。
絶賛、俺も面倒ごとに巻き込まれつつまるし。
「……なんだよ」
「葛霧、話しがある。昼休みに校舎裏に来い」
「行けたら行くわ」
「……絶対に来いよ、クズ野郎が」
二年一組の幸島君ねぇ。
アイツ確かボクシング部だったっけか? 素手ゴロで勝てる気がしねぇなぁ。
「決闘か? 葛霧お前、本当に何したんだよ?」
「別に? 俺から何かした訳じゃねぇよ」
「俺から……か。喧嘩になるなら力貸してやるから、頼りにしろよ」
「大丈夫だってぇ、俺ってば平和主義者だからさ」
そ、俺は喧嘩なんかしない温厚な人間なんだよ。
面倒ごとには首を突っ込まない、けれども女には人一倍優しい。
だから、何よりも最優先で動くべきは、守るべき女達なんだよ。
§
――わー、クズ君からのlimeだー、小那感激♡――
――二人一緒にいるって分かってるでしょ? 同時に送らなくていいよ、過保護だなぁ――
――クズ君、小那寂しいなぁ。相手して欲しいよぉ♡――
――こんな感じだから、暇になったらこっち来てね――
ずいぶんと可愛い返信ですこと。
ただもうちょっと早く返事欲しいね、送ってから四時間放置とか……カラオケか?
俺が抜け出しやすいように、昼休みまで待ってた可能性もあるけどな。
「お? 校舎裏に行くのか? だったら俺も」
「行かねぇよ、白優と小那が待ってんだわ」
「……そうか、まぁ、そっち優先の方が有意義だな」
「だろ? じゃあ、早退すっから、理沙先生には上手く言っといてくれな」
「分かった、幸島の方も俺が話だけでも聞いておくよ」
「いいってそんなの、学人は寂しい理沙先生相手に精を出してればOKだって」
「バ、バカ野郎、そんなの大声で言うんじゃねぇよ! 理沙さんに聞かれたらどうすんだ!」
顔を赤くしちゃってよ、俺にはもったいねぇぐらい生真面目な悪友だね。
女の趣味は合わねぇがな。二十五歳は俺の守備範囲外だわ。
学人的にはアレぐらいが最高なんだって言ってるけど……まぁ、いっか。
それに、|三林寺《みりんじ》|白優《さゆ》と|片栗《かたくり》|小那《こな》。
この二人を学校に来させる事の方が、一番の最優先事項だって、理沙先生も分かってくれるっしょ。
§
以上が一話目になります。
ストックを見るに三話目まであるのですが、ご要望があれば二話目、三話目も近況ノートにて投稿したいと思います。