新作第五話

第五話 魔王、住処を得る。

 ボアボア族のフーちゃんと、ベアーガ族のコッフちゃん。 
 とりあえず二匹だけペットに出来たけど、まだまだ不安だ。
 
 なんてったって数えきれないぐらいのペットが私を守ってくれてたのに、人族は全部蹴散らしてきたんだ……せめて百匹、少なくとも八十匹、あとドラグル族も欲しいところ。

 ドラグル族は人族の住処を好んで遊び場にしたりするから、本当に頼もしい。

 大きな翼に類を見ない歯牙、刃も魔法も全てをはじき返すあの鋼鉄の皮膚! 育成すると地水火風に勝手に属性変更したりするから全種類集めたくなるし、個体によって魔力総量も違ったりと発見も多く、育てがいがあってたまらない!
 
「でも……人族の領地は空気に魔素がほとんどないから、ダメかな」

 私の魔力回復速度が遅いのも、それが原因の一つなんだと思う。 
 前だったら使っても使っても魔力が枯れることなんか無かったのに。

 人族に適した環境なんだろうね。
 だから私達には厳しい。 

 森の中を好む属性のドラグル族もいたけど、そう都合良くいる訳ない。
 ましてや人族の領地なんだ、いたとしても狩られてるに決まってる。
 
 いつかは皆と仲良く住める場所を、私が創り出してみせるからね。

 ……なんて、そんな先のことを考えるよりも、今日の寝床を探さないとダメだ。
 もう魔力空っぽだし、でも、コッフちゃんのお陰で移動は楽になったけどね。

「ありがとうね、コッフちゃん」
「コッフコッフ」
「コッフちゃんが背中に乗れるくらい大きくて助かったよ」
「コッフ」
「それで、今これどこに向かってるの?」
「コッフ」

 会話になってないなー。
 共通言語ムリヤリ叩き込んでもいいんだけど、多分脳みそ爆発しちゃう。
 前にインセクター族をペットにしようとして、失敗したから知ってるんだ。
 覚えられる許容数を超えた情報を与えると、脳みそが爆発する。

 コッフちゃんとフーちゃんを失うのは痛すぎる。
 いつかは覚えさせてあげたいけど、今はやめておこ。



「コッフ」
「フゴッフゴゴ」
「ん? この穴の中に入るの?」
「フッゴフフフ」
「コッフコッフ」

 コッフちゃん、降りてって言ってるみたい。
 大きな穴だなぁ、山壁に自然に出来た穴かな。
 中は真っ暗だけど、ほのかに温かい。

 でも、臭い。
 獣臭すっごい。

「……でも、それがいい! うはー! コッフちゃんのお腹の臭いがするー!」
「コッフッフー!」
「フゴフゴゴゴゴ!」

 穴の中なら雨風しのげるし、この臭いは私からしたらとっても落ち着く。
 あはは、しかも、二匹ともくっついてくれて温かい。
 幸せだな……早くもっと増やさないと。

 その為にも沢山寝て、魔力回復しないとだ。
 二人とも温かいし、お腹は減ったままだけど、とりあえず寝ようかな。
 おやすみなさい……。



「痒い」

 全身がありえないぐらいに痒い。
 寝る前は痒くなかったのに、二匹と寝たら異常なまでに痒い。
 
「どうなってるの、これ痒すぎて、ヤバイ。鎧の中とかどうなって……、ナニコレ、ドウナッテルノ」

 ぽよぽよだった胸肉とかお腹周りが、めっちゃ赤いポッチでいっぱいになってる。
 え、なにこれ、虫? 小さい点々みたいな虫が沢山いる。

 鎧を脱ぐと、やだ、全身にあるよ……そっか、そういえば前も虫いたかも。
 でもあの時の私は甲殻族だったから、こんな虫ごときに刺された所で何ともなかったのに。
 人族の身体、弱すぎる。

「痒、痒い。痒いよぉ。うぅ……、後ろ、手が届かない」

 肌がジンジンする、掻くと身震いしちゃうくらい気持ち良い。
 でも、掻きすぎると多分この皮膚壊れちゃう。

 でも、痒い、本当に痒い、でも掻いちゃダメ、ダメだけど痒い。
 あああああああああああああ、痒いきゅきぃいうきいいきああ痒い痒い粥いッ!!!

 もうダメ、痒すぎて我慢出来ない!
 痛いのも嫌だけど、痒いのはもっと嫌なの!

「魔力転化! 炎尾よ、私を包め!」

 甲殻族だった時は尻尾があった。
 魔力をそこから放出して、全身を包ませる事ができたんだけど。
 
 良かった、今もそれは出来るみたい。
 尻尾こそないけど、お尻から炎出てるし。

 早く、早く私を包んで、虫を全部焼き殺して!
 あああああ、なんか炎の熱が痒みを刺激して、ヤバイ、気持ち良くて頭おかしくなりそう! 
 いひいいいいいぃ! 快感が身体を支配して、ダメ、変な気持ちになっちゃう!
 熱いの気持ちいいいいいいいいいぃ!!!!! きもちいいよおぉおおおおおお!



 …………ほぅ、しばらくして、ようやく痒み収まった。
 
「……コッフ」
「え、コッフちゃん、どうしたの?」
「コッフコ」
「サカナー族? 燃やすの?」
「コッフコッフ」
  
 もう死んでるのに、さらに殺すのかな? 
 とりあえず燃やしてあげるか、コッフちゃんの玩具になるのかもだし。
 
 尻尾の炎を、サカナー族にあててっと。

 なんか、焼いてたら良い匂いがしてきた。
 人族の感覚が私を誘ってる、このサカナー族、食べれそう。

「コッフ」
「……え、私にくれるの?」 
「コッフッフー」
「ありがと、ちょっとだけ食べてみるね。…………あ、ヤダ美味しい! なにこれめっちゃ美味しいよ! 生だとどうしようか悩んでたけど、焼いたら美味しい! これ、ヤバイ発明だね!」

 お腹もいっぱいになったし、虫も退治したし。
 もう一回寝ようっと! ……あ、でも、二匹と一緒に寝るのはもうやめとこ。
 ごめんね、私の炎じゃ、コッフちゃんもフーちゃんも、こんがり美味しく焼けちゃうから。

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