第四話 魔王、森の奥でクマさんと出会う。
「いつまでもお前じゃ困るから、お前に名前決めようと思います」
「フゴッフ」
「ボアボア族だからボアちゃんでもいいんだけど……フゴフゴ言ってるからフーちゃんで」
「フゴゴ、フゴ」
「ふふふ、宜しくね、フーちゃん」
さってと、フーちゃんが持ってきてくれた|鎧《ツナギ》のお陰で触られても痛くないし。
こんな所で名前なんか決めてないで、とっとと奥地に逃げようかな。
さっき木を切ったところって、どこだっけ?
確かあっちの方だったはず……えっと、あれ? どこだ?
★
「ないね、フーちゃん」
「フゴ」
「そもそも木を切った場所ってだけだから、戻っても意味ないんだけどさ」
「フッゴフッゴ」
「喋ってたら、空腹が。しょうがない、何か食べ物取りに行こうかな」
という事で、耳を澄まして川の場所へ。
川には直ぐに到着するということは、余り遠くには動けてないってことだよね。
「……この水、飲めるのかな」
透明な水って、飲んだことない。
フーちゃんは飲むのかな?
「……フゴ? フゴゴゴゴゴゴ」
「あ、飲むんだ。という事は大丈夫かな――――――あ、美味し」
冷たいし、めっちゃ喉が潤う。
もっと飲みたい、お水、お水。
手で掬って飲もうとしたけど、人族の手ってこういうのに適してないね。
ダメだなぁ人族は、舌も短いし水も掬えないし。
アメフラシ族なんか指と指の間に膜があって、そういうのに特化してたりするのに。
しょうがないから、顔ごと全部――ぶへぁ! 鼻、鼻に入って、痛い!
「あーもうヤダ! 私の鼻は敏感なんだよ! どんな匂いでも嗅ぎ分けるのにぃ!」
鼻の奥がヒリヒリする、水を飲むときは口だけにしないとダメだね。
なんて鼻を意識してたら、急に獣臭が強くなった。
「フゴ」
「うん、近くにいるね、どんな子かな?」
水も飲んでさっきちょっとだけ寝たから、魔力が少しだけ回復したっぽい。
他にもペットが増えるのなら、増やしたいところだし。
くんくん……あ、川の上流にいる。
また四つ足か、でもフーちゃんよりも全然大きい。
ベアーガ族に似てるかな、でも、ベアーガ族は二本の足で立って動くから、違うか。
それにしても何してるのかな? さっきからじーっと動かないけど。
「…………コッフ!」
大きい四つ足さん、川の中のサカナー族を捉えると、一撃で陸地まで放り投げた。
すご、え、ああやってサカナー族獲るんだ。っていうか、あんなので獲られちゃうんだ。
魔界のサカナー族は走って逃げちゃうし、水の中だと一瞬で姿消しちゃうのに。
それだけじゃない、魔界のサカナー族は口から水を噴出して相手を切り殺しちゃうんだ。
だけど、そういうのはしないのかな。
ベアーガ族にやられて、ぴちぴちしてるだけだ。
のっしのっしとサカナー族に近付いて、前に突き出た口で噛みついてる。
美味しいのかな、サカナー族。臭い的には、あまり美味しそうじゃないけど。
よし、とりあえず近づいて、まずは共通言語で挑戦。
『こんにちは、サカナー族って美味しいの?』
「……コッフコッフ」
『私もお腹ぺこぺこなんだよね、美味しかったらちょっとだけ分けてくれないかな?』
「コッフコッフ」
ダメか、人族の空気に触れちゃうと、共通言語が全部通じなくなっちゃうのかな。
研究してみたいけど、今はそれどこじゃないし。
ん? なんか、この子怒ってる?
「コッフコッ…………グオオオオォ!」
あ、噛みついてくる感じ? うはー結構迫力あるぅ!
前の身体ならこのまま組み付いてもいいんだけど、人族の身体じゃもたないから。
「ごめんね、魔力で対処させて貰うからね」
「グオッ! グッ、グウウウウォオオオオオオオオオオオオッッ!」
魔力注入は、魔界のペットたちも最初は痛いから嫌だって言ってたんだ。
ましてやこの子たちはほとんど何も経験してない、真っ白なペット達。
言葉も通じないし、触れる事でしか会話もできない。
人族の世界に行っちゃうと、こんな感じになっちゃうのかな。
「大丈夫になった?」
「コッフ」
「そう、良かった」
とりあえず、従わせる事には成功した感じかな。
良かった、これで二匹目のペット確保だ。
ペットって言っても、側にいてくれるだけなんだけどね。
せっかく回復した魔力も、さっそく全部使い切っちゃったし。
あ、寝る場所とかないし、食べる物もないや。
どうしようかなぁ……。