新作第四話

第四話 魔王、森の奥でクマさんと出会う。

「いつまでもお前じゃ困るから、お前に名前決めようと思います」
「フゴッフ」
「ボアボア族だからボアちゃんでもいいんだけど……フゴフゴ言ってるからフーちゃんで」
「フゴゴ、フゴ」
「ふふふ、宜しくね、フーちゃん」

 さってと、フーちゃんが持ってきてくれた|鎧《ツナギ》のお陰で触られても痛くないし。
 こんな所で名前なんか決めてないで、とっとと奥地に逃げようかな。

 さっき木を切ったところって、どこだっけ? 
 確かあっちの方だったはず……えっと、あれ? どこだ?



「ないね、フーちゃん」
「フゴ」
「そもそも木を切った場所ってだけだから、戻っても意味ないんだけどさ」
「フッゴフッゴ」
「喋ってたら、空腹が。しょうがない、何か食べ物取りに行こうかな」

 という事で、耳を澄まして川の場所へ。 
 川には直ぐに到着するということは、余り遠くには動けてないってことだよね。

「……この水、飲めるのかな」

 透明な水って、飲んだことない。
 フーちゃんは飲むのかな?

「……フゴ? フゴゴゴゴゴゴ」
「あ、飲むんだ。という事は大丈夫かな――――――あ、美味し」

 冷たいし、めっちゃ喉が潤う。
 もっと飲みたい、お水、お水。

 手で掬って飲もうとしたけど、人族の手ってこういうのに適してないね。
 ダメだなぁ人族は、舌も短いし水も掬えないし。
 アメフラシ族なんか指と指の間に膜があって、そういうのに特化してたりするのに。
 しょうがないから、顔ごと全部――ぶへぁ! 鼻、鼻に入って、痛い!
 
「あーもうヤダ! 私の鼻は敏感なんだよ! どんな匂いでも嗅ぎ分けるのにぃ!」

 鼻の奥がヒリヒリする、水を飲むときは口だけにしないとダメだね。
 なんて鼻を意識してたら、急に獣臭が強くなった。

「フゴ」
「うん、近くにいるね、どんな子かな?」

 水も飲んでさっきちょっとだけ寝たから、魔力が少しだけ回復したっぽい。
 他にもペットが増えるのなら、増やしたいところだし。

 くんくん……あ、川の上流にいる。
 また四つ足か、でもフーちゃんよりも全然大きい。

 ベアーガ族に似てるかな、でも、ベアーガ族は二本の足で立って動くから、違うか。
 それにしても何してるのかな? さっきからじーっと動かないけど。
 
「…………コッフ!」

 大きい四つ足さん、川の中のサカナー族を捉えると、一撃で陸地まで放り投げた。
 すご、え、ああやってサカナー族獲るんだ。っていうか、あんなので獲られちゃうんだ。

 魔界のサカナー族は走って逃げちゃうし、水の中だと一瞬で姿消しちゃうのに。
 それだけじゃない、魔界のサカナー族は口から水を噴出して相手を切り殺しちゃうんだ。

 だけど、そういうのはしないのかな。
 ベアーガ族にやられて、ぴちぴちしてるだけだ。
 
 のっしのっしとサカナー族に近付いて、前に突き出た口で噛みついてる。
 美味しいのかな、サカナー族。臭い的には、あまり美味しそうじゃないけど。

 よし、とりあえず近づいて、まずは共通言語で挑戦。

『こんにちは、サカナー族って美味しいの?』
「……コッフコッフ」
『私もお腹ぺこぺこなんだよね、美味しかったらちょっとだけ分けてくれないかな?』
「コッフコッフ」

 ダメか、人族の空気に触れちゃうと、共通言語が全部通じなくなっちゃうのかな。
 研究してみたいけど、今はそれどこじゃないし。
 ん? なんか、この子怒ってる?

「コッフコッ…………グオオオオォ!」
 
 あ、噛みついてくる感じ? うはー結構迫力あるぅ!
 前の身体ならこのまま組み付いてもいいんだけど、人族の身体じゃもたないから。

「ごめんね、魔力で対処させて貰うからね」
「グオッ! グッ、グウウウウォオオオオオオオオオオオオッッ!」

 魔力注入は、魔界のペットたちも最初は痛いから嫌だって言ってたんだ。
 ましてやこの子たちはほとんど何も経験してない、真っ白なペット達。
 言葉も通じないし、触れる事でしか会話もできない。
 人族の世界に行っちゃうと、こんな感じになっちゃうのかな。
 
「大丈夫になった?」
「コッフ」
「そう、良かった」

 とりあえず、従わせる事には成功した感じかな。
 良かった、これで二匹目のペット確保だ。
 
 ペットって言っても、側にいてくれるだけなんだけどね。
 せっかく回復した魔力も、さっそく全部使い切っちゃったし。
  
 あ、寝る場所とかないし、食べる物もないや。
 どうしようかなぁ……。

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