新作第三話

第三話 魔王、失敗する。

 私のペットは、最初からあんなに強かった訳じゃない。
 最初は弱くて小さいのを、段々と大きく強くしていったんだ。

「あれー? 魔界の土と風がないせいかな……全然強化されてないや」

 だから、こんなに小さいペットであっても、そんなに変化は無いと思っていた。
 けど、これは想像以上に変化がない。なさすぎる。

『えっと、喋れる?』
「フゴ?」

 ダメだ、会話出来ないや。
 会話が出来ない場合はどうしてたっけかなー。
 
「フゴゴ、フゴ」
『ん? あれ、くっついてくれるの?』
「フゴゴゴ、フゴッフ」
『そっか、ありがとう』

 良かったー、とりあえず懐いてはくれるみたい。
 でも、くっつかれると、その、体毛が刺さって、痛い。
  
 人族の神聖魔法使ってる奴は、そういえば何かヒラヒラしてるの装備してたな。
 神聖魔法だけじゃない、私に切り込んできた奴も色々と重ねてたけど。

 人族の身体じゃ、ああいうのが無いと生きていく事も出来ないのかな。
 現にボアボア族の子の体毛が刺さって痛いし、このままじゃ触る事も出来ない。

 魔力使ってどうにかならないかな? と思ったけど、どうにもならないねこれは。
 この子に最後の魔力注入しちゃったから、もう空っぽだ。

「……寒いし、おなか減ったな」

 どうしよう、人族、弱いよこの身体。
 お前達どうやって生きてきたのさ。
 よくこんな身体で私のペット倒せたね。
 
「フゴゴ」
「あ、お前……ダメか、言葉通じないから、どこかに行っちゃうよね」

 四つ足のボアボア族ちゃん、どこに行くんだろう?
 一緒に行こうと思ったけど、足も痛いし、魔力尽きちゃったし。
 
 このままここで横になるしかないかな。
 沢山の木の根っこに腰掛けて、ぽふんと横になった。

 クーと鳴るお腹。 
 早いなぁお腹減るの。
 前は一回食事したら何日間かは食事しないで平気だったのに。

 目の前に揺れる葉っぱ、これ、食べれるのかな?
 ペットの中には『美味しいっす』とか言いながら食べてるのいたけど。

 うーん……昔だったら余裕なんだろうな。
 甲殻族の時は基本味なんか無かったし。
 不味いのは牙で噛み砕いてたし。

 今の人族の牙じゃ、多分どうにもならないよね、なんか平べったいし。
 でも、一口だけ。

「――――、まっず! なにこれ、ぺっぺっ! え、人族の葉っぱまっず!」

 こんなの食べれない、食べたら多分死んじゃう。
 そもそも魔界の葉っぱと色が違い過ぎるもん、魔界のは赤色なんだよ。

 緑とか、どうやって育てたらこんなになるのさ。
 他に何か食べ物ないか、ちょっとだけ起き上がって回り見てみたけど。
 
 木ばっかりで、下の大地はどこか腐ってる感じがして。
 なんもないし、なにもいない。

 やっばいなぁ、眠ったら魔力回復するかな。
 しなかったら、せっかく生き返ったのに、またすぐ死んじゃうよ。

 アンちゃん……みんな、ごめんね。
 私、失敗してばっかりだ。 

 とりあえず寝ようかな、寝て起きればきっと魔力も回復するよね。
 回復、してますように。

「――――」
「……ん?」

 誰だろ、つんつんって突かれる感じがする。
 あひゃひゃ、やめて、お腹ツンツンされるとくすぐったいから。
 って、今の私のお腹つんつんとか、人族だったらヤバイ、殺される。

「フゴッフ」
「……なんだ、良かった、お前か」

 ほっと一安心だ、いつの間にか戻ってきてくれてたんだ。
 一応、魔力注入の効果があったってことかな。

 主人に絶対服従、魔力注入されたペットは基本私の味方になる。
 人族の領地でも、それは変わらなかったみたいだ。

「フゴゴゴ、フゴゴ」
「え、これ、どこから持ってきたの? なにこれ、人族の鎧、かな?」
「フゴ、フゴゴ」
「……そっか、ありがとう、お前は優しいんだね」

 鎧にしては、随分とヒラヒラだけど。
 えっと、どうやって装備するのかな、これ。
 
 神聖魔法の人族がこれを着るとすると。あ、そっか、両足をここに入れるんだ。
 両足を入れて、肩紐みたいのを通して、ここに頭。うん、出来た。

「わぁ、下まで全部温かい。ありがとう、お前」
「フゴゴ!」
「相変わらず何言ってるのか分からないけど。でも、待って、こんなのがあるって事は、近くに人族がいる可能性があるってこと?」

 ダメだ、逃げないと。
 もう死にたくないし、痛いの嫌だし。
 辛いけど、もっと遠くにいかないとだ。

――
※ボアボア族が持ってきたのはツナギです。

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