新作第二話

第二話 魔王、魔物作ってみる。

 さてはて、獣の匂いもするけど、それにしても随分と木が多い場所だね。
 ダナンケ大森林みたいな雰囲気で、ちょっと心落ち着く。
 
「でも、私が住まうにはちょっと邪魔かな。ごめんね木さん」

 ていって魔力を放つと、目の前の木がスパンって切れてくれた。

 メキメキメキって音を立てながら、他の木にぶつからないように倒れる。
 ふっふっふ、我ながらエルフリンク族にも匹敵する倒木技術だね。

 でも、結構太い木だったけど、一本しか斬れなかったな。
 前ならここら辺一帯一発だったのに。

 あれ? めまいがする? 
 というか……この手、なに?
 甲殻族自慢の硬い皮膚はどこいったの? 

 これじゃまるで、人族と同じじゃない。
 え、ちょっと待って、まさかアンちゃんの人形って。

 確認しないと、えっと、どこかに水は――――、あっちか。
 良かった、水の音は魔界もどこも変わらないみたい。

 そういえば、ここってどこなのかな?
 人族の一撃でふっ飛ばされたって事は、そんなに遠くないと思うんだけど。
 でも、臭いが全然違うから、もしかしたら人族の領地なのかな。

 だとしたら早く逃げないとなんだけど、逃げるにしてもペットちゃんいないと不安だし。
 ペットちゃん育成には時間がかかるし、せめて百匹くらいは欲しいし。 

「あ、川がある。へぇ、川の水が透明なんて珍しい場所なんだ」

 魔界周辺の水は大体が赤か茶色、空の色も紫ばかりなのに、ここは透明なんだ。
 ちょっと、見るのが怖いけど、確認しないとだもんね。
 深呼吸して、両手を地面について、ゆっくりと顔を川に近付けてみると。

「うぁ、なんだこの顔」

 自慢の触覚が無くなってる、というか、まんま人族の姿になってるよ。
 人族の顔なんかどれも同じに見えるけど、この顔は神聖魔法を使ってた方に似てるかな。
  
 なんか邪魔くさい髭みたいのが頭から沢山生えてるし、やたらもちもちしてるし。
 頭のは確か髪って言ったかな、視界の邪魔になるしうっとおしい。

 アンちゃん、元人族だったから、多分人族転生の効果を掛けてたのかな。

 青い瞳に白い髪かぁ、肌も白みがかってるし、なんかちょっとだけ胸肉ついてるし。
 指は……一、二、三、四、五本。
 足も手も五本か、前は三本だったから、使いやすいかも?
 
 それにしても転生ってことは、絶対に戻れない呪術だ。
 え、ちょっと、戻れないの私。

 でも完全に人族って訳でもないみたい。
 角生えてるし、魔力も使えるし。

「って、魔力ぐらい人族も使えるって、あはははは」

 はははは…………ダメだ、早くペット造ろう。
 このままじゃ人族に一撃で殺されちゃう。
 あんな痛いの嫌だから、絶対に逃げ切らないと。

 すんすんって鼻に意識を集中して、周囲の獣の匂いを探す。
 ん……ここからちょっと離れたとこに一体いる。
 よし、まずはこの子からにしよう。


 
 走り辛い。
 っていうか空飛べない。

 甲殻族自慢の翅もないし、魔力も全然足りないし。
 まさか木を切るだけで魔力空っぽになるなんて思わなかった。   
 地面歩くなんて久しぶりすぎて、足が震えちゃうんだけど。

「あ、いた、なんだ、人族の領地にも可愛いのがいるじゃない」

 人族の領地はギルドとかいうのが出来ちゃったせいで、私の可愛いペットはガンガンに狩り尽くされちゃってるって聞いてたけど。
 あれはボアボア族かな? 四つ足で体毛が硬い感じがボアボア族っぽい。
 よし、早速共通言語で語り掛けてみようかな。

『こんにちは、私のこと覚えてる?』
「…………?」
『ボアボア族の子かな? どの子から生まれたの?』
「……フゴッフ」

 あれ? 会話出来ない。
 ウソ、私のペットは全員会話出来る様に、共通言語叩き込んであるはずなのに。

『ごめんね、ちょっと調べさせてね』

 魔力束縛……良かった、ちょっとだけ魔力残ってた。
 えっと、この子の言語中枢は……え、何このミニマムサイズな脳みそ。
 こんなのしか生息してないの? これって私が改造する前の状態以下だよ?
 しかもこの子、これでも大人だ。
 ウソ、私の敷地内で飼ってたペットのボアボア族は、見上げるぐらい大きかったのに!

『えはー! でも可愛い! こんなに小さいのに大人なんだー!』
「フゴゴゴ」 

 くふふ、可愛いのも好きだけど。
 でも、今は人族から守って欲しいから……魔力注入するね!
 
「フゴ? フッ、フッッブギーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

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