ふと昔書いたノートを読んだ。
私が、学生だった時に書いたノートだ。
どんなノートかと言うと、エル・ドラードについて書かれたもの。
ページをめくると、南米の地図。
南米の密林の奥深くにあると言われる、エルドラードの地図が・・・・。
そして、書かれている文字。
「パンチャコーヤには、パイチチ(ケチュア語)があると伝えられる。
スペイン語で言えば、エルドラードである。
パンチャコーヤは、クスコから北北東に直線でも150キロ以上あり、人跡未踏の地と言われている」
そして、ずらりと並ぶ、インカ帝国関係の本の題名。
「アンディス文明ー石器からインカ帝国まで」「インカの遺跡」「インカ帝国」「インカ帝国年代記」「インカ帝国の興亡」「インカ帝国探検機」「インディアスの破壊についての簡潔な報告」「最初のアメリカ人」「新大陸の先史学」「アメリカ先史文化」「インデェオ文明の興亡」「エル・ドラード」「旧世界と新世界」「世界、人工衛星写真集」「謎のアンデス文明」「考古学とは何か」「埋葬されたシルクロード」「ナイルに沈む歴史」「失われた大陸」「マルコ・ポーロ」
等。
おそらく、私が読んだ本の参考部分にあった本を、一生懸命書き写したのだと思う。
その中で、実際に読んだものは、数冊程度だったけれど・・・。
インカ帝国にとても興味があった。
本を読むと、ゾクゾクしたものだ。
あの、当時の技術では考えられないような灌漑設備、農業のやり方、考えられた町づくり、どれをとっても子供心に凄いと思え、その文明を築き上げてきたインカの民に、尊敬に近い念をもっていた。
毎晩、毎晩、インカ帝国の姿を思い描く。
ごろりとベットに寝転がって、クスコの曲を聞いて、カーテンを開けっぴろげた大きな部屋の窓から、遥か彼方の星を眺める。
それが、学生時代の私の姿だった。
おしゃれしたり、着飾る事には全く興味がなかった。
色恋沙汰にも疎く、夢想家で、風変わりな女の子であったのは確かだろう。
過去を思い出しつつ、次のページに。
出て来たのは、インカ王朝のあらまし。
歴代の名が、十三代まで連ねてあった。
それから、
「ウリンクスコとアナンクスコの違いは、アナンの方は皇帝に、ウリンの方は皇妃に従ったものが住むようにと、クスコの町を二分してそう決めたという」
と、殴り書き。
そのまた横に、
「インカの王朝は、十三人のうち第七代までが伝説上の人物であり、第八代ビランチャは半ば伝説的、半ば歴史上の人物とされ、それ以下の皇帝は実在人物であって、彼らに関する伝承は大体において事実に基づくものである、と言われている」
と、また殴り書き。
一生懸命、調べたのだろうな。
謎が知りたくて。
分からない事を調べる事が、とても好きな少女だったので。
自分が分からないという事が、嫌で仕方なかった。
何も知らない、無知な人間になりたくないと、必死に思っていた。
実際は、無知だらけだったのだけれど。
遥か昔に、滅びた文明があった。
かつての惨劇も、時が経過すれば夢の跡。
最高の技術を持っていた文明が、滅んでしまう様は物悲しく感じたものだ。
だが、今は知る事のできない謎があるような気がして、ひどく心が誘われた。
何時か、我々の文明も滅びる時が来るかもしれない。
そう思うと、よりいっそう、滅んだ文明を恋しく思ったものだった。
今も昔と同じように、自然のままに行きている人々がいる。
我々は、それより遥かに豊かな文明を持っているけれど、きっと、失ってしまったものも多くあるのではないかと思う。
だからと言って、今の文明から逃れられないのもまた事実であり、そんな自分が後ろ暗い気分になる時もある。
そして、何時か滅びてしまうかもしれない文明の中に埋もれながら、過酷であっても自然のままに生きようとする人々に、いつまでも消えない憧れをもち続けていくのだと思う。