こちらの話も若干イチャついているシーンが含まれますので、苦手な方、読むのにふさわしくないとご自分で思われる方は、こちらをお読みいただければどんな話だったのか把握できるようになっています。
↓ここから↓
ビーの「好き」という言葉に喜んだマクシミリアンは
「私もだ。ビー、あなたを心から愛しているよ。もう観念した。愛らしい少女を庇護しているだけだ、これはヴェヌスタの機嫌を損ねぬための契約結婚だ、などという言い訳は、もう出来そうにない」
と自分の気持ちを吐露します。だからこそ、不用意な発言は避けるように、と忠告したうえで「次、そのようなことを言ってきた時には、あなたの覚悟が出来た時だと判断する」と自分はあなたに対して下心があるぞ、と明確にしました。
こんな男を相手に抱き枕になるだなんて、身の危険を感じるだろう?とベアトリスの提案を断る理由にしようとしますが、彼女はそんな彼を引き留めます。
そして、意味が分からないのか?となっている彼に「意味はわかっている」と言い、彼から求められている事実が嬉しいと感じます。
そして、唇へのキス。
先へ進めようとするマクシミリアンですが、ベアトリスは自分の胸に刻まれた紋について思い出し、彼にどういうことなのか、と問いました。
以下、原文そのまま掲載いたします。
「妖精たちが暴走した時に、あなたの命ごと止めるための術が掛かっているという証だな。この魔法を掛けるにはどうしても素肌に触れる必要があったのでな、他のものになど任せられなかった。あなたの肌に私以外が触れるなど、我慢ならなかった」
「これは、マクス様に掛けていただいた場合には、誰にでも刻まれるものなのでしょうか?」
「うん?」
「私以外にも、その、マクス様の紋が刻まれた方がいらっしゃるということ、で」
じっと見つめられてしどろもどろになった私にじわじわと目を丸くした彼は、やがて弾かれたように笑い出した。
「はッ、はははッ! あなたはなんて可愛らしいことを言うのだろうね」
ぎゅうっと抱きしめられて、彼はベッドに転がる。私をおなかの上に乗せるようにして抱き上げ、今度は自分が寝転がった姿勢でこちらを見上げてくる。
「それを、ビーは嫌だと感じたんだな?」
「……心が狭くて、申し訳ございません……」
情けなくなる私に、上半身を起こしたマクス様はまた優しくキスをして、額を合わせて笑う。
「いや、嬉しいよ。私が術を掛けた召喚魔導師は他にも数名いはするが、それはあなたにしかない。本来は、その紋の周囲にある文字しか刻まれないものなんだ。誰が掛けたものなのかが重要ではなく、きちんと発動するかどうかが問題になるものだからな、署名のようなものは、本来は不必要だ」
「では、なぜ……」
「それは――私の、我儘だな」
わがまま? と小首を傾げれば、マクス様は私の肩口に顔を押し付ける。
「さっきまでは、あと少しであなたを手放さなければいけないのだろうと――思っていたから……せめて、あなたが、私の元にいたという印、に」
彼は唸って、私を強く抱き締める。
「……いや、一生涯刻まれるものに、迂闊にそんなものをつけるべきではなかったな。うん、やはり私は、あなたに関してだけは冷静でいられないようだ。魔導師でなければそれがなにかはわからないし、ただの植物の文様に見えるだけだろうが、次の……あなたの夫になる男がそれを見たら、まあ、いい気分はしないだろう」
私が、あなたの命を握っているという事実でさえも、必要だとは言えどう考えても気持ちのいいものではないだろうに。マクス様はそう言って、すまない、と落ち込んだような声を出す。
「ビー、あなたは、このように余裕のない私は、好まないだろう……?」
まるでちょっと悪いことをしてしまった子供のような不安げな表情に、口元が緩む。
なんて愛らしい人なのだろう。
エルフ族の長で、魔導師の塔のマスターで、この国の辺境伯で。誰もが見惚れるような美貌と、豊かな才能を持っているような、なんでも持っているような、なんでも意のままに出来るだろう方なのに、こんな小娘の気持ちひとつにこんなにも不安そうな顔になるだなんて。
「いいえ?」
「本当のことを言ってくれ」
「可愛い、と思います」
「……かわいい?」
ええ、と頷けば、彼は戸惑いを浮かべる。そんな顔も愛しくて、彼の頭を抱きかかえた。
「でも」
ぽつりと言葉が口から洩れる。
「ほかの方にも、あのように唇で触れられているのには、少し嫉妬してしまいそうです」
必要なものだとわかっているのに、私は本当に心が狭い。彼の妻としての、余裕など全然ないのが情けない。
しかし、私のそんな言葉を聞いた彼は、んぐ、と変な声を出して、そっと視線を逸らした。
「……ない」
「なんですか?」
「必要、ない。本来は、指先で充分、だ」
「……マクス様……?」
では、なぜ唇で?
そう問う私に、彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。そして、大きく息を吸うと、一気にまくし立てた。
「私も色々と限界だったんだ。言い訳はしない。あなたの肌に触れたかった。その柔肌に私の痕を残したかった。ずっと、あなたの命が尽きるまで、あなたと私は繋がっているのだという証を残したかった。いや、これがどれだけ独善的で卑怯なふるまいだったかは充分に理解している。でも――いつか、あなたがほかの男に肌を晒す時が来るのだとしても、その時に私の紋がそこにあったのなら、少しでも、思い出して、もらえる、のではないか、と……多分、一瞬でそこまで考えてしまったのだと、今ならわかる。すまなかった、本当に申し訳ないことをした。ビー、こんな私を、許して、貰えるだろうか……?」
『独占欲の強い男、こっわいですねぇ……』
クララの声が耳の奥によみがえる。
――なるほど、こういうことね。
ビー? と眉を下げるマクス様を見て、私は妙に納得していた。
↑ここまで↑
この内容を3,800文字かけて書いています。
この日のマクシミリアンの挙動不審具合は、主にコレウスとベアトリスのせいです。
(コレウスがなにをやったか、は近況ノートに1話分くらいの長さの話を載せています)
独占欲の強い愛が重い男、創作の世界であったなら最高なんですけどねぇ。
あと知ってます? 男を可愛いと思い出したら、それはもう沼なんですよ。
次回更新もよろしくお願いいたします!