夜明け前。その花嫁は不安な気持ちを抱えきれずにいました。
彼女は名家の娘さんでこの結婚は両家の意向在ってのものでした。
とはいえ両人の自由意思はあり、歳上のフィアンセにいいなと惹かれる想いは確かにありました。
それでも若い結婚故か、この子はその想いに確信を持てずにいました。
前日から貸し切られた結婚式場。夜明け前には支度を済ませていた彼女は誰もいないフィアンセの控室を訪れます。手ずからしつらえた花束を伴って。
愛情と想いの込められたそれを置いて彼女は去ります。彼がそれを自分に届けてくれるかもしれない。そんな青い期待を胸に。
彼女はいま独り式場で空を見上げています。オープンガーデンの式場は朝露に濡れ、夜明け前の紫は花嫁さんとにらめっこを続けています。
カツン、と足音が小さく響きました。
彼女が振り返る。そこにその人はいました。
世界は音もなく回り始めます。
福音がもたらされるたびその頬は赤く赤く染まってゆきます。
差し出された贈り物に悲哀は溶け、苦い痺れが鼓動にかき消されていきます。
動き出せずにいる彼女の指先を朝日が照らしてゆきます。
ハッと見上げた先には真剣で微かに揺れる瞳がありました。
花嫁は一歩踏み出してそれに手を伸ばします。
その髪は暁の黄金色を湛えて煌めいています。
二色の瞳が交わります。二つの足音が重なりました。
きっと二人は生涯この瞬間を忘れることはないでしょう。
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