朝起きて、顔を洗って、軽く身体を拭いて身支度をする。
カメラを背けていつものローブに着替え、次にすることはシロガネの散歩だ。
「ハッハッハッハ」
「おはよう、シロガネ。じゃあいくか」
「ワン!」
リードを持ってはいないがシロガネはこちらの意図通りについてきてくれる。広く高い世界樹のなかを走り抜けていくと、ラタトスクたちがチーズやジュースのお礼に果実や肉を渡してきてくれる。なのでシロガネにとってはこの散歩道は朝ご飯を兼ねていた。
ラタトスクたちが流暢にこちらに挨拶をしてくるので、俺たちも挨拶を返しながら走って行く。
「おはよう、まひろちゃんにシロガネ」
「おはよう、みんな」
「バウ!」
仕事のある日とは違ってゆっくりと進んでいるため、今日はラタトスクたちとも話す余裕がある。
その中で、あるラタトスクのマダムがキィキィとかわいらしい声で毎度の声がけをしてきそうな気配があったので、そろりと逃げだそうとするが……遅かった。
「まひろちゃんもお祈りに行かない? 世界樹の恵みはバルドル様の恩寵あってのものだから、まひろちゃんも祈らないとダメよ?」
「へ、へへ……。その話はまた今度で……」
「もう!」
神様の話が苦手なのはラタトスクたちにも知れ渡っているので強くは言われない。そのおかげもあってこうやって逃げ出しても明日にはなにもなかったかのように付き合ってくれるのでありがたいことである。
おっと、ちなみに今日は通常配信は切ってあるからコメントは流れてこないよ!
いわゆるメンバー限定配信ってヤツ!
それからしばらく幹の外をゆっくりと散歩をして、探索者用の宿泊室に戻ってくる。
「おはよう、まひろちゃん」
「休みの日だってのに早いわね、まひろちゃん」
「おはようございます、お二人とも。シャワー室は空いてますか?」
「ああ、空いてるよ」
「よし、じゃあ行ってきます」
探索隊の二人に挨拶をしたあとシャワーを浴びるべく着替えを持って階下へと向かう。ちなみにここでシロガネとはお別れだ。
その場に残った探索隊の人が困ったようにもう一人に話しかける。
「あの……」
「どうしたの?」
「シャワー室、いま調整中だったはずじゃ……」
「あー……」
◆
わしゃわしゃとシャンプーを泡立て、髪に塗っていく。以前、男の時のようにガシガシと強く掻いていたら頭皮がヒリヒリと痛んだ覚えがあるので、それ以来は優しくマッサージをするように揉んでいる。
温かいシャワーを全身に浴びながら木でできたシャワー室で鼻歌交じりに身体を洗う。ボディスポンジで柔らかく身体を撫でるようにボディソープを塗り込ませると、少し刺激が強くて身体がビクンと跳ねてしまうが、これもいつも通りだ。
しばらく丹念に身体を磨き、息を整えてシャワーで洗剤を落としていく。
この温水シャワーは第一階層ではなかなか浴びることができなかった。いまではこうして毎日浴びることができるし、なんならお風呂だって簡単に入ることができるので極楽だよ……。
「はぁ~……」
安心しきって一息をつくと――シャワー室の隅からガタン! とお風呂用の椅子が蹴飛ばされる音が鳴り響く。
何者かと思い音の方角を見ると――
「……の、のぞきじゃないんです」
作業着を着たメリイさんが顔を真っ赤にしながらこちらをじっと見ていたのだ……。
我ながら随分とかわいらしい悲鳴を上げてしまった、とだけ言っておく。
◆
「シャワー室の防水の魔法を張り直していた、ねえ……」
「うう……」
宿泊室のベッドに正座をしているメリイさん。対してこちらはそんな彼女に向かって見下ろしている状態だ。
彼女は本当に申し訳なさそうに縮こまっていて、謝罪を重ねるばかりだ。
どう考えてもわざとではないし、どうやらスマホには『メンテナンスがあるからやっぱりいかないで』と先ほどの二人からチャットも送られてきていた。
それにどうせ裸を見られただけなんだよな……。
でも、こんなに平身低頭しているメリイさんって見たことないし……。
ん、いいこと思いついた。
俺はベッドの、メリイさんの隣に座り込んで、彼女の目を見て告げる。
「じゃあ、罰として髪と身体の洗い方を教えてよ。この身体って結構繊細でさ、いまいち加減が分からないんだよ。……もう裸は見られたんだからいいかなって」
「罰です!?」
この後、恍惚としながらも悶々ともした矛盾を抱えた表情をしたメリイさんに、女性のお風呂の入り方について教えて貰った。