光命(ひかりのみこと)と夕食。
そこへ、袴姿の夕霧命(ゆうぎりのみこと)がやって来て、たわいのない会話をしていると、ものすごい勢いでドアがスパーンと開いて、明引呼(あきひこ)が顔を出した。
「早ぇな、足が」
我が家のチビっ子で、足の速いやつは一人しかいない。風鵺(かぜん)。五歳児に追いつけないパパ。生みの親の夕霧命が風鵺を捕まえて、抱きかかえた。
「俺でも追いつけん時がある」
武術の達人としては、子供が走り出そうとする方向は気の流れが向くので、予測がつく。あとは、縮地(しゅくち)という、短時間で長距離を歩ける技を使って、走ればいいだけのことである。
小学校教諭のパパ、月命(るなすのみこと)が客観的に見てもこう言っていた。
風鵺の短距離走のタイムは素晴らしい、と。
そんな息子に、ママは問うてみた。
「風鵺はどこまで走るの?」
「最後まで!」
人生終わるまで、走り続けるね。
五歳で追いつけないんだから、この先大きくなったら、パパたち大変だね。
ここはひとつ、夕霧命が修業を積んで縮地を極めて、風鵺を捕まえる……。
というのは冗談で、最終手段は瞬間移動があるのでした。