次回作もまた飯です。
なんだかんだ色々捏ね回していたら飯ネタになりました!!
1Kのマンションの一室で育む友情とかそういうのを交えながらの飯です。
公開はまだ先になりますが、一話冒頭を少し公開。
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「私の部屋の異世界令嬢」
第一話
始まりは牛丼
「いっただっきまーす」
パチンと手を合わせ目の前の丼に和かに告げた瞬間、クローゼットの扉がカチャリと開き眩い光が一人暮らしの狭い部屋に広がった。
目が痛む程の光が収束したそこにはさっきまで閉じていたクローゼットの扉が開き、その前に輝く銀髪をクルクルと縦ロールにし、紫の瞳の豪奢な赤いドレスの少女がポカンと口を開いて立っていた。
「ど、ど、どちら様?」
つい口をついて出たのはそんな間抜けな言葉だった。
少女は琴音の言葉にパッと顔を向けると胡乱気に目を据わらせ「貴女こそ誰かしら?」と顎をあげてビシッと指を差した。
神河琴音、二十四歳の会社員。
地元の短大を卒業後は就職と同時に実家を出て一人暮らしを始め今年で二年目。
普段は一つに結んでいる背中にかかるくらいの黒髪は少しだけ癖があり緩やかなカーブを描く。
特段変わったところのない平凡な日本人だ。
そしてクローゼットより現れた少女はガザニア王国の侯爵家令嬢でアルストロメリア・ブルースターと名乗った十六歳の少女。
どうやらアルストロメリアの住む世界にはスキルという不思議な力を持つ人間が稀に現れるらしく、ある出来事にショックを受けたアルストロメリアがそのショックから生まれたスキルが、琴音のクローゼットに繋がるというものだった。
「……出られませんわ」
自分のスキルとはいえ、異世界に繋がったと信じられないアルストロメリアが琴音の住む1Kマンションの玄関を出ようとして一歩も外に出れないことに気づき、窓から外の景色を見て大騒ぎした後、逆に琴音がクローゼットを開いてもそこにあるのは見慣れた琴音の服だけでアルストロメリアがクローゼットを開けば真っ暗な空間だけが琴音には見えるが、アルストロメリアには入ってくる前に居た彼女の部屋が見えるという、さらにはその黒い空間に琴音の手すら移動出来ないことまで理解し、粗方動き回った後は二人で話を擦り合わせた所で漸くお互いの警戒心が薄れた頃にグゥと音が響いた。
「お腹空いた?丁度さっき夕飯にしようと思ってたんだけど一緒に食べる?」
腹の音に手を腹に当て恥ずかしそうに俯くアルストロメリアに琴音が問いかける。
「それ、食べ物でしたの?随分と変わった匂いがしますけど」
「うん、牛丼だね、匂いは醤油かなあ?馴染みはない感じ?」
「……オニオンの香りはわかりますわ」
小さな一人用のテーブルに置いた牛丼を指差したアルストロメリアに「でもうーん、アルストロメリアはお嬢様だし、ザ・庶民って感じの牛丼は駄目かな」と琴音が首を傾げたところでアルストロメリアは「あ、貴女がそんなに言うなら、た、食べてあげてもよろしくてよ」と目を泳がせながら鼻を鳴らした。
チラッと琴音の様子を伺うアルストロメリアに、琴音は小さく笑って牛丼を作りにキッチンへ向かった。