「ねぇねぇっ、隼くんっ!」
そんな言葉とともに、肩が叩かれる。
里桜である。
……まぁこの家には俺と里桜しかいないから当たり前だよな。
俺と里桜はリビングでのんびりと過ごしていたのだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないよぉっ! ほらっ、時計見て!」
「時計……?」
言われた通りに視線を向ければ、長針と短針がちょうど真上で重なったところだった。つまり今の時刻は0時、日付が変わったところだ。
おまけに言えば、新たな年を迎えたところでもある。
「あぁ、もうそんな時間か」
「うんっ! というわけで、明けましておめでとうっ! 今年もよろしくね、隼くんっ!」
「あ、あぁ。よろしくな」
勢いに若干圧されつつも返事をすると、廊下へと繋がるドアが開き、誰かが部屋に入ってくる気配があった。
「うんうん。やっぱりこういう挨拶は大事だよね。ね、栞?」
「ふふっ。涼はそういうところ律儀だもんね」
この声はおじさんとおばさん?!
あれ……?
さっき俺と里桜しかいないって言ったはずだよな。
ならなんでおじさんとおばさんがいるんだ?
しかも……若返ってないか?
元々若々しかったけどさ、今はどう見ても俺達と同年代に見えるんだが。
「あっ! お父さんお母さんっ、いらっしゃーい!」
いや待てよっ! なんで里桜はなにも疑問に思わないんだよ?!
「私もいっるよー! あけおめ、しおりんっ!」
「母さん?!」
……だよな?
なんで母さんも若返ってんだ?!
てかしおりんって……おばさんのあだ名か……?
安直すぎんか? いや、いいけどさ。
「おい彩っ、いきなり一人で突っ込んでいくんじゃねぇよっ!」
「父さんまで?!」
ここまで来たらそんなことだろうとは思ってたけど、父さんも若返ってるわけで。
俺と里桜も含めて、全員高校生然とした容姿になっていた。俺と里桜は元々高校生だけどな。
「それじゃ全員揃ったことだし──お母さんっ」
「うん、そうだね、里桜」
もしかして、こうなってるのは予定通りなのか?
それならそうと言っといてくれよなぁ。
よくわからないが、里桜とおばさんはあらぬ方向を向く。そして二人揃ってにっこりと微笑んだ。
「皆様っ! 明けましておめでとうございますっ! いつも私達のお話を読んでくれてありがとーっ!」
「どっちもまだ本編では年越ししたことはないんだけどね」
「そういえばそうだよね。ねぇ、お母さんとお父さんが初めて一緒に過ごした年越しって、どんな感じだったの?」
「それはねぇ……まだなーいしょっ! ほら、里桜には刺激が強いかもしれないから、ね?」
「なぁに、それ? お母さん達、なにしてたの……?」
「ふふっ、そのうち教えてあげるから今は我慢してね。というわけで皆様、これからも私達のお話、応援してくださいね? ほら、里桜も」
「えっ、うん。よろしくお願いしまーす!」
丁寧な所作で頭を下げる里桜とおばさん。
……これ、誰に向かってやってんだ?
そっちには壁しかないぞ。
「さーてっ、無事にヒロイン二人から新年のご挨拶も済んだことだし、ちょっと言いたいこと言ってもいいかな?」
「どうしたの彩香?」
「うんとね、前々から思ってたんだけど、しおりんと里桜ちゃんってそっくりすぎじゃない?」
「そうかなぁ? 里桜の耳の形なんて涼とそっくりだし、私よりも背が高いのは涼の影響だと思うけど」
「耳の形なんてわかんないよ?!」
「なんでわかんないのー?! ほら、こう……つい噛みつきたくなるような……」
おばさんは里桜の耳を見てうっとりしていた。
「あー、うん。親子でそういうのはやめようね、しおりん? やるなら高原君にね?」
「別にしないもん……。というか、そんなこと言ったら隼君だって柊木君そっくりじゃない?」
「それはそうだねっ! でも隼は遥よりもちょっとだけ素直だよ?」
確かにね。父さんの昔の写真見せてもらったことがあるけど、俺はどう見ても父さん似。そして余談だが蛍は母さん似なんだ。素直かどうかは……知らん。
「それにしても……」
とおじさんが俺と里桜を交互に見ながら言う。
「隼君が里桜と仲良くしてくれるのは嬉しいんだけどさ、なんかこう……栞を遥に取られたようで複雑な気持ちになることがあるんだよねぇ……」
……おじさん、自分達の世代のありえなかったカップリングを見るの、やめてくれませんかね?
目が怖いから!
おばさんも美人だけど、俺にはそんな気さらさらないから!
「もうっ、涼はしょうがないなぁ」
なんて言いながらも嬉しそうなおばさん。
「私は一生涼だけだよ? 私が好きなのも愛してるのも涼だけなんだから安心して。ね?」
「栞……」
「ふふっ。それじゃ涼が不安にならないように、私がどれだけ涼のことが好きか教えてあげよっかなぁ。ほら、涼。こっち来て。いっぱい身体に教えてあげる」
「えっ、栞……?」
おじさんはおばさんに手を引かれて、部屋から出ていった。身体に教えるって……ナニするつもりだよ……。
「で、遥はしおりん見てデレデレしすぎっ!」
「してねぇだろ!」
「本当かなぁ? まぁなんでもいいや。私達も行こっか」
「どこにだよ……?」
「そりゃ二人きりになれるところだよ! どうせしおりん達もどっかでイチャイチャしてるだろうし、せっかくなら私達もね!」
「いや……別に俺は……」
「はいはーい、もんどうむよー!」
父さんも母さんに引きずられるようにしてどこかへ行ってしまった。残されたのは俺と里桜だけ。
今のはまじでなんだったの……?
「えっと……隼くん」
「……なんだ?」
「私達も……イチャイチャ、してみる?」
頬を朱に染めた里桜が俺の顔を覗き込んだ。
「って言うと思ったけどさぁ。いいのか? 本編では俺達まだそういう関係にはなってないぞ」
「いいのいいの。少しだけ未来の私達をお見せするってことでね」
「しょうがねぇなぁ。わかったよ」
「えへへ、それじゃ遠慮なくっ。隼くん、だーい好きっ!」
里桜はそう言うと俺に抱きついてきた。俺も里桜をしっかりと受け止める。
「ん、俺もだよ」
長いこと時間がかかったけどさ、里桜のおかげで俺も素直になれたんだ。里桜は幼馴染で、それから俺の一番大事な人にもなった。
本編ではもう少しだけ先のことになるけど、ちゃんと里桜に向き合えるようになるからさ、これからも俺と里桜の物語に付き合ってもらえると嬉しいよ。
……って、あれ?
俺は誰に向けてこんなモノローグを……?
まぁいいか。なんか色々めちゃくちゃだったしな、きっと夢だろ。
ただ、夢にしては俺に抱きついている里桜のぬくもりだけはやけにリアルだった。
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というわけで、皆様っ!
なんとなくの思い付きで書いてみました。
『甘々彼女』『六年ぶりに(ry』ごちゃまぜ新年ご挨拶SSでしたー!
『六年ぶりに(ry』の本編でちょこちょこ隼くんの夢のシーンを書いてたので、今回もそんな感じのイメージにしてみました。
SS内で両ヒロインから挨拶をしてもらいましたが、私からも改めまして。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
読者の皆様も、お付き合いのある作者の皆様も、良い一年になることをお祈りしておりますっ!