ずっと読みたいと思ってはいたが、こまめに読んでは内容を忘れ、また表紙から読むということを繰り返していた小説がある。かの有名な草枕である。
私自身、書評を綴れるほどの文学体験をしてきたわけでもなく、夏目大先生の文章にしっかりと触れることができたという喜びしか表現できやしないので、特に感想等を述べるつもりは無い。
小説:神様のカルテには草枕を暗唱することのできる内科医が登場する。彼は草枕の男のように浮世を一歩引いた視点で見ているかのような言動をするが、この小説で我々の心が動かされるのは、内科医と周り人間との関係性によってである。
草枕にも神様のカルテにも美しい自然描写が数多く入る。ここだけをちょろちょろと読むだけでも心癒されるものではあるが、それらが、のちの人間関係の対比に用いられることから、我々が人間を抜きに物事を語ることはないのだろうなという一種の悟りを開くことができる。
羞恥も虚栄も自尊心も周りに誰一人として人間がいないのなら成立しえない感情だ。
人間との関わりを避けて避けて避け切った結果、あとに残る人の感情というのはどのようなものなのか。きっとこういったものを題材とした小説もすでにあるのだろう。