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何か物語の始まりそうなプロローグ

 それは、遠い昔からの約束――
  定められた運命が同じ事を繰り返し螺旋を昇るように
   ただ、今は何も知らないまま無垢なる瞳は、世界の祝福に目を細めていた――

 ある日、少女はほんの少しの冒険心からずっと昔からある寂れた洋館に1人で足を踏み入れる。廃棄されて長い年月の経つその建物は、けれどとてもしっかりと作られており、少女1人がどれだけ乱暴に動いたところで微動だにしなかった。最初の冒険で味をしめた少女は洋館の全ての部屋を探検し始める。

 不思議な事に全ての部屋には鍵がかかっておらず、まるで少女がこの部屋を調べるために残されたかのような趣すらあった。玄関、応接室、書斎、厨房、客間、その光景を珍しく感じた少女は目を輝かせながらあちこちを歩き回った。秘密を誰にも知られたくなかった少女は、洋館に出入りしている事を誰にも知らせなかった。

 その日も好き勝手に遊んでいた少女はテーブルの上に置かれている不思議な装丁の本を発見する。昨日までそこになかったその本を、少女は何の疑問も抱かずに手に取った。ペラペラとめくっていると、そこに描かれていたのは数字の羅列と魔法陣のような図形ばかり。文字がないために、少女は画集のようにその本を眺めていた。普段は洋館で何かを見つけても決して持ち帰らなかった少女だが、その本だけは気に入ってつい持ち帰ってしまう。

 次の日、少女が日課のように洋館に向かうと、その場所は綺麗サッパリ何もなくなっていた。少女は両親に洋館の事を尋ねるが、そんなのは最初からないと言う返事が返ってくる。違和感を感じた少女は周りの人々に片っ端から質問攻めをするものの、洋館の事を知っている人は誰1人としていなかった。

 この事に恐怖を覚えた少女はすぐに自分の部屋に戻り、持ち帰った本を確認する。本も消えてなくなったかと思ったからだ。幸い、その本はまだ少女の部屋に存在していた。安堵した少女は恐る恐るページをめくる。洋館の消滅の謎について何か書かれていないか気になったからだ。

 結果から言えば、残念ながら本の内容は最初にめくった時と何ひとつ変わっていなかった。意味の分からない数字の羅列と魔法陣。ただひとつ違和感があったのは、その中のひとつの図形がやたら気にかかるようになっていた事。その瞬間、少女は謎のインスピレーションを受け取る。その直感に従い、少女は本を小脇に抱えて家を出た。

 向かった先は洋館があった場所。そこはただの空地になっていた。雑草すら一本も生えてはいない。近くにあった木の枝を拾った少女は、まるで取り憑かれたように一心不乱に本に描かれていた魔法陣を描き始める。

 それが何を意味するのか、何も知らないままに――。

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