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取り敢えず序盤だけ書いてみるシリーズ「魔法少女部っ!」

「えっ……?」

 私は親の仕事の都合で某N県から某S県へと引っ越してきた。そうして近くの高校の編入試験を受けて、今その高校に初めて登校したところだ。校舎に入った途端、私は編入試験の時に試験官だった先生に呼び止められた。何やら話があるらしい。

「おはよう、鈴木純奈さん」
「えっと、確か……」
「私はあの時に試験官をしていた福田京香です。ちょっといいかな?」

 いきなり喋り始めた彼女の話を、私はすぐには受け入れられなかった。

「ですから、あなたには適正があります。魔法少女部に入ってください」
「嫌ですよ」
「何故ですか?」
「怪しいじゃないですか」

 何を話してくるのかと思ったら部活の勧誘。しかもどう考えても怪しい魔法少女部と言う部活。私の中で魔法少女なんて言うのは小学校の卒業と同時に卒業した概念だ。目の前の大人の女性が真面目な顔でその言葉を口にしている事自体が痛い光景に見える。
 その真剣な話し方からみて、からかっている訳ではなさそうだったものの、魔法少女に全く興味の持てなかった私はこの先生の勧誘をスルーする事にした。

 けれど先生は全く諦める気配もなく、廊下を歩く私をコバンザメのようにくっついてきて、しつこく話を続けてきた。

「取り敢えず話だけでも。何も怪しくなんてないのよ」
「って言うか、この学校にはそんな部があったんですか」
「あるのよォ~」

 私が少し興味を持ったところで先生の顔がほころぶ。その反応についつい私も話を合わせてしまった。

「部活って何するんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。全国1位を目指すのよ!」
「え?」

 その言葉を聞いた私は驚いて固まってしまう。何故急にそう言う反応したのか理解出来なかった先生は首を傾げた。

「ん? どうかした?」
「今、全国1位って言いました?」
「ええ」
「まさか、魔法少女部って他の学校にも?」

 そう、全国1位が目標って事はこのふざけた名前の部活がこの学校以外にも存在していると言う事を意味している。そんな事があるのだろうか?
 この私の質問に、先生はまるでそれが当然のような顔をして答えを返した。

「あるわよ。知らなかったの?」
「いやどこに魔法少女を部活にしてる学校があるって言うんですか」
「あらら……あなた意識が低いわねぇ。魔法少女部はこの県内だけでも8校が活動しているのよ?」

 その変にリアルな数字に私は唖然としてしまう。もしかしたら本当にそんな事がありえるのかと思ってしまいそうだ。先生は真面目に受け答えしているけれど、それでも私はその言葉をまだ素直には受け入れられなかった。

「う、嘘でしょ?」
「ま、大会は一般には開放されていないし、仕方のない部分はあるんだけどね。さあついた、ここが部室」

 私はどうやら先生に誘導されてしまっていたらしい。転入生が一番最初に入る教室は職員室のはずなのに、私は魔法少女部の部室の前にやってきてしまっていたのだ。恐る恐ると教室の名前を見ると、確かに魔法少女部と書いてある。先生の話はどうやら本当だったらしい。

 ここまで来てしまったのもあって、この部活にも多少興味の出てきた私は、言われるがままに部室のドアを開ける。その先に広がっていた光景は、私を戸惑わせるのに十分な威力があった。

「……あの、いいですか?」
「うん?」
「誰もいないんですけど?」

 そう、魔法少女部の部室とされたその教室は無人だったのだ。教室自体もただの空き教室で、魔法少女部っぽさはどこにも見られない。あれれ? もしかして私、騙されてる? それとも凝ったドッキリか何か?

 この状況に対して反応に困っていると、同じ景色を見ている先生がいきなり洋画顔負けのオーバーリアクションをしながらこの状況の説明をし始めた。

「そうなの! 我が校の魔法少女部は色々あって部員が0になっちゃったの!」
「部員がいなくなったら廃部って言うのになりませんか?」
「だからあなたが必要なんじゃない。この部の存続のために」

 話がおかしいと思ったら部の存続のために部員が欲しかったと、そう言うからくりだったのだ。真相が分かると、私はいいように利用された気がしてすごく気を悪くする。当然、魔法少女部にもいい印象は持てなかった。

「やっぱり止めさせてもらいます!」
「待って、お願い、引き返さないで!」
「最初から嫌だったんですってば」

 先生は私を必死に引き留めようと言葉を尽くして懇願する。
 けれど、どんな言葉も私を止める事なんて出来やしない。そもそも最初から興味がなかったのだから当然だ。
 言葉が通じないなら実力行使だとばかりに、先生は私の腕を掴んで物理的に止めようとする。そうして必死に言葉を続けた。

「あなたには魔法の才能があるの! それも全国を狙える器よ! 勿体ないと思わないの!」
「魔法の才能とかいりません!」

 今更魔法の話をされても私には全くピンと来なかった。魔法の才能なんてなくても生きていけるし、それよりも現実で役立つ才能を伸ばしたい。

 先生に掴まれた腕は振り払おうと思えば簡単に振り払えそうだったものの、それでも何となく振り払えられないでいた。先生の必死さがそうさせていたのか、それとも別の要因なのか……。
 とにかくこのままでは困るのでどうしたものかと私が困惑していると、先生は次の手段とばかりにポケットから何かを取り出した。

「ほら、ポケットテッシュあげる! 後、足りなければ石鹸もつけるから!」
「新聞の勧誘ですかっ!」
「仕方ないわね、こうなったら……」

 物で釣る作戦も失敗した先生は最終手段に訴えてきた。私は覚悟を決めた先生の真剣な顔を見てゴクリとつばを飲み込む。一体何をするつもりなの?

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