「で、あの雀がね」
___この人、私たちのこと好きすぎない……?
20分ほど前、作業用BGMを探してネットサーフィンをしていると鷲宮さんが珍しく雑談配信をしていた。
腕を組みながらしょうがないみてみるか~と再生したはいいものの、だ。
最初は普通に雑談、というよりほぼ近況報告みたいなものをしていたけど、途中で明らかにあ、話すことなくなったわという間があった。
その後、始まったのが怒涛の千虎ちゃんと私の話題。
のんびり裏で作業通話で話したこととかそういうのばっか話してる。
それも見たことないぐらいにめちゃくちゃ楽しそうに。
いや、この人、私たちのこと好きすぎるでしょ。
コメント欄を覗くとお母さんみたいな感じで『うんうん』みたいなコメントが多いし、鷲宮さんはいつもなら絶対噛みつくのに気にせず話を続けている。
『鷲宮さん、雀ちゃんと千虎ちゃんのこと好きすぎない?』
そんなコメントが目についたのか、そのコメントを読み上げる。
「……まあ、嫌いじゃないわ」
ッ!?けほっけほ。
飲んでたお茶が少し口から漏れちゃった。
鷲宮さんがこんな直接的にデレることあるんだ……明日は天変地異かな?
コメント欄が加速し、鷲宮さんが「面倒なことになったわ」とため息をつく。
そんな姿ににこにことしながら、ペンを持った。
きっと鷲宮さんは私がこの配信を聞いているなんて夢に思っていない。
ということは、だ。
ちょっとした悪戯を思いついた。
◆◆◆
「はぁ、話つかれたわ。やっぱ雑談配信って難しいわね」
たった1時間とちょっとの配信。それだけなのにどっと疲れがくる。
やっぱりこういうゆっくり時間が進んでいく配信は私には向いてないのよね。
『雑談というより仲良しの友人語りみたいな感じだったけど……』
『鷲宮さんの意外な一面が見れて良かったです』
『虎雀が好きすぎ鷲』
『というか、なぜ急に雑談配信を?』
「個人格ゲー配信ばかりするなって言われたのよ……雑談配信とかコラボも増やせってことらしいわ、私そんなに格ゲーばっかしてるかしら?』
自分のMetubeチャンネルを確認する。
えーっと、格ゲー、格ゲー、格ゲー、格ゲー、格ゲー……
「まあ1か月ぐらいほぼ毎日してるわね」
『まぁ、やばいよね』
『企業Vの姿か?これが』
「といっても私が自分からコラボできる相手って雀と千虎しかいないわよ」
『そこは交友関係を広げろってことじゃ……』
「交友関係を広げる……?私が?」
『そんな心底わかんないって顔されましても……』
『パリオパーティコラボとかしよう』
「パーティゲームとか全然空気をぶち壊す自信あるわよ」
『どうしてVやれてるんだこの人……』
『@プラスでも数字持ってるのになぜ……』
「ゲームが上手いからかしらね?じゃあ疲れたからそろそろ終わるわよ」
『雀ちゃんのtweeton見た?』
「雀のツイートン?何かあったの?」
ブックマークしてあるツイートンの雀のアカウントにとぶと、1枚の漫画形式のイラストが表示される。
描かれていたのは、リスナーの『鷲宮さん、雀ちゃんと千虎ちゃんのこと好きすぎない?』という問いに、なぜか頬を染めながらそっぽを向いて「嫌いじゃないわ……」とつぶやく私。
あとスミにそれを聞いてお茶を吹き出しにやにやする雀も描かれている。
『ご丁寧に、時間も書いてあって草』
『鷲宮さんの配信、全部シークバー戻せるようになってるからありがたかったぜ』
『なんならツイートンにもう切り抜きあがってて草』
「あんの、百合雀……!」
『下切雀:にやにや』
「あ、いた!あなた、覚えてなさいよ」
『千虎七瀬:にやにや』
『猫神雫:にゃーにゃー』
「余計なのが続々と……!ああ、もう!終わるわよ!」
叫んで枠を閉じる。
ぐうぅ~~~~!覚えてなさいよ……!
ディスコを開いて、千虎と雀が入っている鯖にチャットを打ち込む。
『今度これするわよ!!!!!』
最近出たすごろく形式のパーティーゲーム『パリオパーティ』の公式サイトURLを送り付ける。
すると直ぐに二人から連絡が返ってきた。
『下切雀:にやにや』
『千虎七瀬:にやにや』
ああ、もう!
絶対にこいつらをぼこぼこにしてやると誓って、包丁の絵文字を送り付けた。