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9/18 第36話投稿

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ぐぬぬぬ……



今週のメモ
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『望郷の歌』は、誰も知つてゐる通り、ゲエテのウヰルヘルム・マイステルにあるミニヨンの歌を想ひ浮べながら、京都の四季のうつり變りを歌つてみました。上田敏氏はこの詩の『第三節、第四節の沈靜なるは、新しき日本に生ひ出でし古き花なれ。』と云はれましたが、自分にも第三節第四節が、極く自然に出來たやうに記憶してゐます。


望郷の歌

薄田泣菫



わが故郷は日の光蝉の小河にうはぬるみ、

在木の枝に色鳥の咏め聲する日ながさを、

物詣する都女の歩みものうき彼岸會や、

桂をとめは河しもに梁誇りする鮎汲みて、

小網の雫に清酒の香をか嗅ぐらむ春日なか、

櫂の音ゆるに漕ぎかへる山櫻會の若人が、

瑞木のかげの戀語り、壬生狂言のわざをぎが

技の手振の戲ばみに笑み廣ごりて興じ合ふ

かなたへ、君といざかへらまし。



わが故郷は、楠の樹の若葉仄かに香ににほひ、

葉びろ柏は手だゆげに風に搖ゆる初夏を、

葉洩りの日かげ散斑なる糺の杜の下路に、

葵かづらの冠して、近衞使の神まつり、

塗の轅の牛車ゆるかにすべる御生の日、

また水無月の祇園會や、日ぞ照り白む山鉾の

車きしめく廣小路、祭物見の人ごみに、

比枝の法師も、花賣も、打ち交りつつ頽れゆく

かなたへ、君といざかへらまし。



わが故郷は、赤楊の黄葉ひるがへる田中路、

稻搗をとめが靜歌に黄なる牛はかへりゆき、

日は今終の目移しを九輪の塔に見はるけて、

靜かに瞑る夕まぐれ、稍散り透きし落葉樹は、

さながら老いし葬式女の、懶げに被衣引延へて、

物歎かしきたたずまひ、樹間に仄めく夕月の

夢見ごこちの流盻や、鐘の響の青びれに、

札所めぐりの旅人は、すずろ家族や忍ぶらむ

かなたへ、君といざかへらまし。



わが故郷は、朝凍の眞葛が原に楓の葉、

そそ走りゆく霜月や、專修念佛の行者らが

都入りする御講凪ぎ、日は午さがり夕越の

路にまよひし旅心地、物わびしらの涙眼して、

下京あたり時雨するうら寂しげの日短かを、

道の者なる若人は、ものの香朽ちし經藏に、

塵居の御影、古渡りの御經の文字や愛しれて、

夕くれなゐの明らみに、黄金の岸も慕ふらむ

かなたへ、君といざかへらまし。




泣菫詩抄 <青空文庫>
http://www.aozora.gr.jp/cards/000150/card42241.html

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