⚠Attention
・作者が書いた二次創作
・本編(episode11まで)の内容を含みます
※というか補完
・ヒュウとセレスのちょっとした短いお話です
・雑ですがそれでも良ければ!!!
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眼前に広がるウェステリア色。はじめそれが何なのか分からず、ヒュウは面食らった。
長時間、仕事机に向かっていた彼は疲れ果てて眠っていたらしい。目を開けると、吸い込まれてしまいそうなくらい穏やかな薄紫が視界の半分を占めていた。
(なんだこれ……花?)
上体を起こすとウェステリアの全容が見えた。
カップ状の小柄な花が、真っ直ぐな一本の茎に幾つか咲いている。ふっくらとした柔らかな花弁から察するに、カンパニュラの類だろう。
上体を起こし、自身の目線まで掲げる。花を愛でる日なんていつぶりだろうかと頬杖をついた。
ふと玄関の扉が開く。
小さな影の片手には、青年が持つ花と同じものが握られていた。
「あぁ、これセレスの仕業だったのか」
微笑む青年に、異国の少女は小首を傾げている。少し伸びた髪がさらりと肩から流れた。
彼女はしっかりとドアを閉めると、小走りになってヒュウの元へ駆けてきた。その手にあるカンパニュラを差し出される。
「くれるのかい? ありがとう」
彼が受け取ると、セレスは心底嬉しそうに笑った。
「ミストの庭に咲いてるやつだな。摘んでいいか、ちゃんと訊いたか?」
少女と話す時は努めてゆっくり話すようにしている。通常の速度では、聴き取れない単語があるらしい。
セレスは少し静止したのち、大きく頷いた。
その後、彼女は身振り手振りで何か伝えようとした。しかし上手くいかない。
諦めきれず、彼女は一旦外へと出た。
外階段を駆け上り、しばらく二階でバタバタしたあと再び一階へ降りてきた。その手には分厚い図鑑がある。
それを青年の仕事机で広げ、何頁かめくった。探していた項目が見つかると、すぐさま本の端を指さす。
ヒュウがそこを覗き込む。
カンパニュラ・パーシフォリア。
セレスの小さな指の先には、彼女が摘んできた花と同じ絵が描かれている。どうやら元々知っていた植物らしい。
「本の内容を覚えているのか、君は賢いね。将来は学者かな」
背の低い少女の頭を撫でると、彼女は満面の笑みで返す。
拾った当時では想像もつかない表情だった。
「シュリも君ぐらい勉強熱心だったらいいんだけど、体が先に動いちゃう性分だしな」
青年は呆れに近い、しかして優しい微笑を浮かべる。見上げたセレスの双眸は不思議そうに瞬いた。
日が傾き始める。
丁度、十八時の鐘が鳴った。
彼は腰を上げ、図鑑を閉じる。彼女にとっては重いだろうからと持ってあげた。
ヒールの硬い音が鳴る。玄関のドアを開け、振り返る。
「夕飯の準備をしよう。おいで」
セレスはぱっと笑って飛びつき、彼に「こらこら」と言われてしまった。だがお構いなしに抱きしめる。
彼の持つ花が微かに揺れた。
*
あの少女がこの世を去った七日後。
久しぶりに彼女が愛用していた植物図鑑を手に取った。元はヒュウの物だったが、最近はほとんど本棚から出されない。
気のままに頁を繰っていると、見覚えのある絵に意識がいく。
直立する茎。並ぶ、桔梗に似たベル型の小花。あのカンパニュラだ。
懐かしさに胸が締めつけられつつも視線は文字を追う。知らないこともない内容だった。
だが説明文を指でなぞっている最中、ある一文でぴたりと止まった。
彼から溜息とともに力ない笑みが零れる。
「……本当に、君は賢い子なんだね」
そこに書かれていたのはカンパニュラ・パーシフォリアの花言葉。
誠実な愛、共感、節操、そして──
感謝。