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介護の記憶。

うちの同居してた祖父が徘徊付の痴呆症だったから、まあ体験してる方だろう。
私は不潔が苦手で、ほぼ介護の手伝いはしなかった……と思っていた。足として車を出したり、祖父を行楽に連れ出したり、祖父の話し相手をしていた程度だった。


でも、介護の現場について知るうちに何時間も「話し相手」をするのって気が狂うほど大変なんだと知った。
当時の私は寝転がって漫画とかを読みながら祖父の話し相手をして、その間に祖母と母は就寝していた。
祖父は、孫の私との会話が楽しいらしくて、ホラーが平気な私が何を言われても怯まずに相手をしていると不思議と徘徊が治まっていた。
当時の私は学生で、夜ふかしを普通にしていたから、家族の時間割が都合よくかみ合った。

「子供がいっぱい笑っとる」
「ふーん。かわいい?」
「笑っとる」
「元気そうやな。遊んどるんやから、邪魔せんときぃや」
「こっち見よる」
「手を振ったげたら?」
「ご飯まだ食べてない」
「さっき食べたのに、また食べるん? 苦しいんとちゃう? 私はお腹いっぱいやから、もうちょっとまって」
「子供が笑っとる」
「かわいいね」
「いっぱいおる」
「にぎやかやな」

確かこんな感じだったとおもう。これを、真夜中の仏間で真顔で言ったりする。
痴呆症ってのは、こんなもんだ。
祖母と両親は、怒鳴りながら介護をしていた。ホラー発言が始まると、特に過剰反応していた。
私は怒鳴らなかった。祖父を相手に否定したり怒った記憶もない。私が通りかかったら、私が話し相手をしてその間に他の家族がどうにかしていた。

そんなこんなで、祖父が最期に記憶していたのは妻でも娘でもなく、三人の孫のうちの一人である私だけだった。




暴力、妄言、セクハラ、不潔……痴呆症は脳が小さくなったり欠けたりしてなることが多いんだから、症状としてはごく普通のことだと思う。

綺麗事じゃいられない現場で、場違いな綺麗事を振りかざして盾にする君は何?


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