皆さまお疲れ様です。
寒さは和らぎましたが、自分は花粉に悩まされる日々を送っております。
さて、KAC。
自分に活を入れる為にも参加することにしました。参加するからにはなるべく多く書きたいと思ってはいるのですが、三月後半になると生活環境が変わることもあり書き漏らすこともあるかと思います。
また、執筆時間的にタイトなこともあり、基本的には、くだらないと言うかしょうもない話が多くなるかと思いますのでご了承ください。
応援、評価、レビュー、とてもとても嬉しく思っております。ですが、どうかご無理のないように、自分の時間を大切に。当ページには気が向いた時に読みに来ていただければ、作者が七転八倒している様子を見ていただければ、それだけで幸いです。
もちろん一緒に頑張ろうと言う方がいたら頑張りましょう。自分の作品が少しでもそんな誰かの創作意欲の糧になれたとしたらこれ以上嬉しいことはありません。
□桜々
変わらず連載中。間も無く夏が終わります。
以下感謝の小話です。前回の続きです。
公園のベンチに取り残された二人。
「寒いっすね」
「ワタシは大丈夫デス、冬将軍デスカラ。それにロシアはもっと寒い」
「あ、はは、そうですよね、はは」
「ソウ、ソウなんデス。ロシアはもっと寒い……ああ……」
顔を覆い巨体を丸め泣き始める将軍。
狼狽える健一。
「え、ちょ、え、泣いて、ええ……」
「帰りたくナイィ……」
「そんな、帰りたくないって……」
「ロシアの冬はガチだからァ……」
「ガチって、将軍、とりあえず、あの、話聞きますから、ね」
将軍は鼻を啜りながら、懐から棒状の何かを差し出した。
「健一サンこれを」
「わ、冷たっ、何ですかこれ?」
「恵方巻デス」
「恵方巻……、凍ってる……」
「今はワタシの力で凍らせてますガ」
「あ、そんなことも出来るんすね」
「これは元々お土産として持ち帰った物デシタ」
「ロシアに?」
「ソウデス。ロシアでは恵方巻も凍ってしまうんデス。これをどうやって食べろと言うんデスカ? 削ってカキ氷にでもしろト!?」
感情の高ぶりに合わせて将軍の髭が凍り付いていく。
「しょ、将軍落ち着いてください! 何か、何か寒いです! 冷気的なものが漏れ出てますから!」
「ア、スミマセン」
見る見る元に戻っていく髭。
健一はホッと溜息混じりの白い息を吐いた。
その時、少し離れた茂みで何かが光る。
気が付いた健一がそちらを見やると茂みの中で薫が携帯を構えていた。
「(動画撮ってやがる……!)」
「どうかされましたカ?」
「あ、いえ、何でもないんです、こちらのことなんで、ええ、えと、つまり将軍はロシアに帰りたくないんですよね」
「ハイ、もっと日本を楽しみタイ。沖縄とか言ってみたいデス、ゴーヤチャンプルー食べたい」
「ああ……」
健一の脳裏になぜか泣きながら凍ったゴーヤで釘を打つ将軍の画が浮かんだ。
「ま、まあ、でも、どちらにしろロシアには帰らなくちゃいけないんですよね」
「ソレは、ソウデスガ」
「俺は良いと思いますけど。ロシア。いい所いっぱいあるんじゃないですか」
「ソ、ソウデショウカ?」
「ええ、それに将軍の故郷じゃないですか。将軍の故郷、俺も見てみたいですよ」
「ワタシの故郷……」
「そうですよ、あ、そうだ、これ、これも将軍の故郷の味じゃないですか」
健一は薫から貰ったウォッカ入りのチョコレートを取り出した。
将軍もそれに倣ってさっき受け取ったチョコを取り出す。
「ウォッカ、ワタシの故郷の味……」
将軍はしばらくチョコを見つめたあと、その包装紙を取って口に運んだ。
すると今度はそのままの姿勢で大粒の涙を流し始めた。
ぎょっとする健一の横、泣きながら将軍は呟く。
「カエリタイ」
「え、あ、そうでしょう、ほら、やっぱりいいもんですよ故郷って、ね。ウォッカ美味しいでしょ」
「健一サン、アリガトウ。ワタシ、ロシアに帰りマス」
「そうですか、良かった、良かったです。いやーロシア、いいですね」
突然将軍が振り向いて健一の手を掴んだ。
「行きマショウ!」
「へ?」
「そんなに言うナラお礼にワタシが健一サンをロシアにお連れしマス!」
「え、いや、え、ちょっと……、え?」
将軍と健一の体が宙に浮いた。
そのままどんどんと高度を増していく。
「は!? え!? 嘘!?」
健一が振り向くとマトリョーシカが並んでついて来ている。その向こうで地面はもうかなり離れてしまっていた。
「健一ー!」
いつの間にか茂みから出て来ていた薫が叫ぶ。
「薫!」
「こ、れー!」
薫が何かを投げ上げる。
それをキャッチした健一に薫の声がさらに届く。
「チンして食べるといいよー!」
健一の手には恵方巻が握られていた。
「いや! 助けようとしろやーーー!」
響く叫び声。
そして遠ざかる、鼻歌混じりで飛ぶ将軍と、引っ張られるように同じく飛ぶ健一、それとマトリョーシカ。
「健一、頑張って」
そう呟くと薫は、最後に将軍が鼻歌で歌っていた、童謡『北風小僧の勘太郎』を口ずさみながら帰路に就いた。
感謝の小話、(後編)さようなら冬将軍