昨日近況報告に上げた試し書きをリテイクしました。
あまり急がずに順番に書く、こっちの方が良さげな気がします。
↓
「気が付けば、三十才か……」
俺はオフィスで一人残業をしている。
残業をしいてる間に日付が変わり、俺の誕生日になってしまった。
「ハッピ、バースデー、おーれー」
キーボードを叩きながら、ぼそりぼそりとバースデーソングを口ずさむ。
大学を出てIT企業に就職した。
だが、あまり良い会社じゃなかった。
給料は上がらないし……。
職場の空気は悪いし……。
経営者はワンマンだし……。
営業をやっていたかと思えば、急に内勤になりプログラムを書かされ、顧客のクレーム対応をして、社長のパシリとして『ミラノサンド』を買いにコーヒーショップに走る。
そうして、彼女もなく、ロクに貯金もなく、俺の二十代は終わってしまった。
疲れた。
眠りたい。
「ハッピ……バースデー……おーれー……。あっ……! グッ……!」
胸が苦しくなり意識が遠のく。
救急車を呼ぼうとスマートフォンに手を伸ばしたが、もう物を握る力がない。
俺は椅子から崩れ落ち、会社の床に倒れた。
最後に見たのは、パソコンのコンセントが刺さったテーブルタップ。
こうして俺の人生は幕を閉じた。
*
だが!
再び人生の幕が上がった!
なんと俺は異世界に転生し、赤ん坊から人生の再スタートを切った。
今度こそは!
まともな仕事と幸せな人生を希望したが、残念! 孤児スタートでした!
孤児院は貧しく、食事の量が少なく、俺は毎日腹を空かせていた。
周りにいる孤児も腹ぺこで、いつも食べ物の取り合いになっていた。
中身三十才の俺は、周りの孤児と仲良くなれず浮いた存在だった。
だが、孤児院でボッチだったことが幸いした。
流行病で孤児たちが、次々と亡くなったのだ。
俺はボッチだったので、流行病をうつされずに済んだ。
転生した世界は、日本より文明度が低い。
さらに孤児院は貧しいので、医者にかかることは出来ないし、流行病の薬も手に入らなかった。
その代り薬草や魔法薬『ポーション』があるが、あくまで外傷に効くだけなので、流行病には効果がなかったのだ。
さすがにバタバタと子供が死んでいくのはショックだったが、同時に自分が生き残れたことにホッとした。
色々とあったが、なんとか、この世界の成人年齢である十六才まで俺は生き延びた。
十六才になると成人だから、孤児院から巣立たなくてはならない。
俺は世話をしてくれたシスターに頭を下げた。
「では、シスター、お世話になりました」
「リク。気をつけるのですよ」
リクというのが、転生した俺の名前だ。
日本人に近い外見の黒髪黒目だったので、転生しても違和感がなかった。
孤児院は教会が経営している。
教会からの支援金と気まぐれな領主や商人からの寄付で成り立っている。
だが、支援金の額は少なく、寄付は不定期なため、孤児院はいつも金欠だ。
「リクお兄ちゃん!」
「バイバイ!」
「行ってらっしゃい!」
流行病が収まった後に孤児院に入ったチビたちが、手を振って俺を見送る。
待ってろ。
金を稼げたら、腹一杯食わせてやるぞ。
金を稼ぐなら冒険者だ。
ダンジョンに潜り、モンスターを倒し、お宝を見つける。
年齢も、性別も、出自も関係ない。
孤児の俺でも活動可能な職業だ。
俺は意気揚々と冒険者ギルドへ向かった。