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【試し書き】3 TS悪役令嬢は、ボリュームを武器に料理で殴る

「五十一! 五十二! 五十三!」

俺は雑念を振り払って剣を振るう。
屋敷の庭で素振りだ。

俺がワルイーダ伯爵家の令嬢ルイーゼに生まれ変わって、一週間がたった。
本当にこの世界が乙女ゲームの世界なのか、正直信じられない。

だが、乙女ゲームの世界であった場合は、俺の行き着く先は処刑なのだ。

困ったことに、妹がプレイしていた乙女ゲームの概略を聞いただけなので、俺はこの乙女ゲームに詳しくない。
自分が悪役、いわゆる悪役令嬢のポジションであることくらいしか、情報がない。

どうすれば、破滅を回避できるかと思い悩んだ……。

意外なことに、答えは簡単に出た。

ヒロインの邪魔をしなければ良いのだ!

「七十五! 七十六! 七十七!」

まず、ヒロインと王子様が近づくのを邪魔しない。
次に、ヒロインに意地悪しない。

これだけで、処刑コースからかなり遠ざかったと思う。

だが、王子様が俺、つまりワルイーダ伯爵家の令嬢ルイーゼに言い寄ってくる可能性がある。

そこで、俺は『男に興味のない、男みたいな女』を演じることにした。
これなら王子様も『恋愛対象ではない』と認識して、寄ってこないだろう。

その為に、剣を覚えるのだ。

リ○ンの騎士とか、ベ○バラとかに出てきた女主人公のように、強く逞しく生きる。

「九十九! 百! ふう……」

「お嬢様。タオルとハチミツ水でございます」

俺付きメイド、サダッコが怖々と俺の世話をする。

「あの……さらしはキツクございませんか?」

「大丈夫だ。この方が剣を振りやすい」

俺は十三才らしいのだが、胸が大きいので動きににくい。
そこで、胸にサラシを巻いている。

着ている服は、乗馬服だ。
女性でもズボンの服はないかと聞いたら、乗馬服が出てきた。

日本にいた時に見た乗馬服とはデザインが違うが、ズボンで動きやすく、上着を脱げば白いシャツなので、元男の俺でも過ごしやすい。

そう、『元』男なんだよな。
俺、じゃ、不味いか。

普段考えている時も、女性らしくしていないと、人と話している時に『俺』とか言ったら不味いよな。
日常生活から、ある程度女性を取り入れるか……。

私? わたくし? 僕? わらわ? あたい?
無難に『私』にしておこう。

私なら男でも使うからな。
いくらか馴染みやすいだろう。

私は……。

私は、少しずつこの世界に馴染むように、また、情報を集めるようにした。

私が貴族令嬢であること。
リンゴをアプルと呼ぶこと。
日本とは違うところが多そうだ……多そうだわ。

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