「五十一! 五十二! 五十三!」
俺は雑念を振り払って剣を振るう。
屋敷の庭で素振りだ。
俺がワルイーダ伯爵家の令嬢ルイーゼに生まれ変わって、一週間がたった。
本当にこの世界が乙女ゲームの世界なのか、正直信じられない。
だが、乙女ゲームの世界であった場合は、俺の行き着く先は処刑なのだ。
困ったことに、妹がプレイしていた乙女ゲームの概略を聞いただけなので、俺はこの乙女ゲームに詳しくない。
自分が悪役、いわゆる悪役令嬢のポジションであることくらいしか、情報がない。
どうすれば、破滅を回避できるかと思い悩んだ……。
意外なことに、答えは簡単に出た。
ヒロインの邪魔をしなければ良いのだ!
「七十五! 七十六! 七十七!」
まず、ヒロインと王子様が近づくのを邪魔しない。
次に、ヒロインに意地悪しない。
これだけで、処刑コースからかなり遠ざかったと思う。
だが、王子様が俺、つまりワルイーダ伯爵家の令嬢ルイーゼに言い寄ってくる可能性がある。
そこで、俺は『男に興味のない、男みたいな女』を演じることにした。
これなら王子様も『恋愛対象ではない』と認識して、寄ってこないだろう。
その為に、剣を覚えるのだ。
リ○ンの騎士とか、ベ○バラとかに出てきた女主人公のように、強く逞しく生きる。
「九十九! 百! ふう……」
「お嬢様。タオルとハチミツ水でございます」
俺付きメイド、サダッコが怖々と俺の世話をする。
「あの……さらしはキツクございませんか?」
「大丈夫だ。この方が剣を振りやすい」
俺は十三才らしいのだが、胸が大きいので動きににくい。
そこで、胸にサラシを巻いている。
着ている服は、乗馬服だ。
女性でもズボンの服はないかと聞いたら、乗馬服が出てきた。
日本にいた時に見た乗馬服とはデザインが違うが、ズボンで動きやすく、上着を脱げば白いシャツなので、元男の俺でも過ごしやすい。
そう、『元』男なんだよな。
俺、じゃ、不味いか。
普段考えている時も、女性らしくしていないと、人と話している時に『俺』とか言ったら不味いよな。
日常生活から、ある程度女性を取り入れるか……。
私? わたくし? 僕? わらわ? あたい?
無難に『私』にしておこう。
私なら男でも使うからな。
いくらか馴染みやすいだろう。
私は……。
私は、少しずつこの世界に馴染むように、また、情報を集めるようにした。
私が貴族令嬢であること。
リンゴをアプルと呼ぶこと。
日本とは違うところが多そうだ……多そうだわ。