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『ザクロ』の実を食べたのは、大きくなってからだった。

バックホーンの『ザクロ』の話。

個人的に言って、リンゴやミカンほどザクロという果物は身近じゃない。ほとんど食べたことも無いし、どんな見た目かも定かには分からない。だからその赤い果汁は少し不気味に感じてしまう。

 バーというのに入ったのはその日が初めてだった。先客は女性が1人だけ、カウンターだけの店内で誰もいない奥の方に向かう。初めてなのを気取られない様に澄ましていたつもりだったけど、バーテンは多分お見通しだったに違いない。
「ご注文はお決まりですか?」
「テキーラサンライズを」
 一応、何を頼もうか色々と考えて来たんだけど、緊張してたのか全部吹っ飛んでしまっていた。咄嗟に口から出てきたのは、小さな頃に親父が教えてくれたカクテルの名前だった。それがどんなものかも良く分からない、ただ親父が好きだった曲に出てくるってことしか覚えて居ない。その内に、バーテンが出して来たのはオレンジと赤でグラデーションされたグラスだった。ほとんどジュース見たいだったけど、確かにアルコールだったようでその後のことは普段通りの自分じゃない見たいだった。なんて言ったのかは覚えて無い。初めてついでと、店に居た女性をナンパした。そして、軽くあしらわれて、まぁそんなもんかと肩を落とした。少し気まずくなった店内から女性が出て行った後、バーテンにもう1杯頼んだ、おまかせで。
「ニューヨークです」
 出されたカクテルを呷って、自分も店を後にした。
 酔って気が大きくなっていたのかもしれない。寂れた商店街の方から、言い争う様な声が聞こえて、思わず見に行ってしまった。声のする方には3人の人影があって、どうやら1人はさっきバーに居た女性だった。そして後の2人は派手な色の頭をした男で、多分、男が言い寄って来たのを袖にしてひと悶着している見たいだった。赤っぽい頭をした男が、女性の腕を掴んで何やら喋りかけていて、黄色っぽい頭をした男はそれをニヤついた顔で眺めている。女性は声を荒げながらそれをふりほどこうとしていた。結構な音量だったが辺りに誰も居ないのか、見回したところ他に人影は無かった。その時に、どっかの店先に出ていた空瓶が目に着いて、なんと無く手に取って居た。瓶を握ってみて、なるほどと思った。確かに、人を殴るのに丁度良い形だった。そして、3人に近付いて、赤い頭に後ろから声をかけた。
「おいっ」
「あ~っ」
 振り返った男の頭に瓶を振り下ろす。思ってたのと違う鈍い音がして、赤い頭の男は血を吹き出しながらゆっくりと倒れて行った。
「ガシャンと行くかと思ったけど、案外丈夫なんだ、瓶って」
 そんな俺の呟きが聴こえたか知らないが、もう1人の男は何かを叫びながら走って行き、女性は腰を抜かしたのかヘタリ込みながら、俺から距離を取る。商店街の石畳に溢れる血溜まりでグラスに沈んだ赤色を思い出す。倒れた男の頭は、何かの果物見たいだった。ふと顔を上げると、暗くなった近くのショーウィンドウに自分の顔が写って居た。返り血を浴び、目を見開いたニヤけ顔に思わず声が出て居た。
「怖っ」

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