【前書き】初めてサポーター限定公開にしてみました。
どんなものを公開したら分からなかったので、ちょっとした短編にします。
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「あー、マイクテスト。マイクテスト。できていますね?」
「問題無い。早くやって」
「待ってください、フシギさん。拙者達の成すべきことは、このゲームの販促であり問題が生じていないか、自分達の目と足で把握することですよ」
「そんなの分かってる。それに私のプログラミングにミスはない」
「もちろん信用していますよ。ですが、拙者にも立場と言うものがあります故」
「……早くして」
「は、はい。かたじけない」
イサマシはフシギに時間を貰い、マイクテストと自分の調子を整える。
コホンと咳払いを一つすると、「準備完了です」と答える。
「それじゃあ始める。三、二、一……」
視界の向こう側でフシギな指を折り、手を前に出した。
それを合図と見て配信が始まり、イサマシは声を腹の奥底から出した。
「うむ。こんな時間に配信を観てくれている皆々様。拙者はイサマシ。今回は運営代表の一人として、拙者がPCOをリポートして行くぞ! それでは参りましょう」
イサマシはハキハキと喋る。
その口振りにボーッと(私には無理だな)とフシギは思っていた。
「今回は初心者が良く戦闘訓練に来るこの森を紹介しようと思うのですが、そうですね。スライムやグレーウルフとなると、流石に簡単すぎますね」
イサマシはコメントなども流れない配信を自分の一人回しで行なっていた。
戦っている最中にコメントを見ている余裕はない。
だからだろうか。明るい口調とは裏腹、空気がピリ付いていた。
「そう言えばこの辺りにはメタクロベアーがいましたね」
イサマシは思い出したように草木を掻き分ける。
するとガサゴソと草木が揺れる。
何か出る。そう思い腰の刀に手を掛けた。
「来ますね」
イサマシがそういうと、草の中から鋼の爪が飛び出した。
鋭い爪を伸ばし、イサマシ目掛けて振り下ろす。
切り裂かれる。配信を観ている誰もがその距離から終わったと思った。
しかしイサマシは全く動さず、刀を鞘のまま打ち付けて爪を受け止めた。
カーン!
鈍い音が響いた。
コメントは大いに盛り上がるが、同時に何が起こったのか理解に苦しむ。
しかし確実に動きを止めた。メタクロベアーも当然のことで一瞬だけ本能を忘れるが、すぐさま鋭い牙を剥き出しにして、イサマシに噛みつこうとする。
「今度はそう来ますか。流石はメタクロベアーですね。ですが甘いですよ」
イサマシは噛み付かれる瞬間、実を逸らして攻撃を躱した。
あまりにも軽やかな動きで、投げ飛ばしんじゃないかと錯覚しそうだ。
けれどイサマシは一切の態度を変えることなく、リポート続ける。
「メタクロベアーの最大の特徴はあの鋼鉄の爪です。ですがそれ以外は脆く、攻撃も非常に通りやすいんですよ。ですので、こうするんです」
イサマシは再び繰り出される鋼鉄の爪を真っ向から受け止める。
メタクロベアーの動きがピタッと止まった。
動けない。否、動けなくされていた。もちろんイサマシにはレベルもなく、スキルも使っていない。単純に実力で叩きのめされた。
「このように爪を拘束し、後は力を抜いた瞬間、重心を倒します。それからこのようにします!」
イサマシはメタクロベアーの頭を狙う。
もちろん簡単に弾かれるはずだが、重心を崩して対処が間に合わない。
その一瞬で目を貫かれ悶絶するメタクロベアーに、イサマシは容赦なく最後の一太刀入れた。一切鞘から彼方を抜くことはなく、強烈な突きを腹に叩き込むと、口から液を吐き出してそのままぶっ倒れる。
「このように倒せます。今回私は斬撃は使いませんでしたが、どんなプレイヤー・モンスターにも弱点と呼べる部分は存在します。卑怯かと思うかもしれませんが、そのような性質があるからこそ、順応な動きが取れます。皆様も相手の弱点を見定めて攻撃を加えてみるのをお勧めしますよ」
イサマシは軽やかな口振りでそう答える。
しかしこんな芸当、なかなか真似できない。
コメント欄は呆気に取られてしまうが、あまりの凄さに感無量だ。
「それでは今日はこの辺りにしておきましょう。短いひと時ではございましたが、配信を観に来てくださり誠にありがとうございました」
ペコリと体裁な礼を払った。
礼儀正しいイサマシの姿を配信で映しとると、フシギは(流石だな)と心の中で唱える。
こんな役回りは自分には向かないと感じつつ、ゆっくりフェードアウトして配信は終了しました。