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スウィンドラーは懲悪せり 《花は根に、鳥は故巣に》2【公開プロット】

・(湊谷腕視点)場面変わって、真白市時計台の二階ホールにて(視点はハイッセム教団の教主ことアーテー)。教会よろしく並ぶベンチのひとつにパペティアが座り、その近くで剣持が立ち、一番前の低い壇上に星空のようなローブをすっぽり着用した顔の見えない女性が立っている。貸し切られているために、ほかの人物は居合わせていない
・ローブの女性は、先月から増加したハイッセム教信者の数や、信者からの寄付金が安定している旨をパペティアに告げる。しかして、殺伐とした真白の地にあって安定した活動ができているのは、烏野組の威という名の後ろ盾のおかげであると、付け加える
・対してパペティアは、恭順を誓わせる手段としてならともかく、宗教そのものに関心はない、としながらも、烏野組の資金源であるハイッセム教団の活動が安定しているという点は評価する、といった姿勢を見せる。(ローブの女性が)教主である以上、今後とも活動の鈍化や資金難に至るような手抜かりは許さない、とも
・ローブの女性ことハイッセム教団の教主は、そんなパペティアに、手抜かりというなら、真白の仕事人や須佐美一家の次期当主をみすみす逃がしてしまったパペティアが気をつけるべきではないか、と返す。
 ハイッセム教団とはこうした密談において付き合いがあり、烏野組の幹部たる剣持はパペティアの護衛としてこれに毎回、同行していたのだが、教主がこのような出過ぎたことを言うのは初めてだった。よって剣持はすかさず、ぶしつけである、と教主に指摘する
・しかし、反抗を嫌うはずのパペティアは、そんな剣持にどういうわけか、おとなしくするよう命ずる(信は形で示す、というように、ハイッセム教団は多額の献金でもって烏野組の威を借り、ちょっとした横暴やトラブルに対する、警察や報道機関、烏野地区の人間らからの摘発や処罰などを免れている(烏野組が金銭的援助の見返りとしてそのように取り扱うよう方々に圧力をかけているため)。この状態は信者から金銭を吸い上げるのにも一役買っている。
 烏野組にとっても、ハイッセム教団は資金源として大きいこと、ハイッセム教団をただちにつぶすとなると烏野組に関する「新興宗教団体を利用して資金調達していた」といったな、いかにも世論に対してセンセーショナルな情報が明るみに出て「真白の警察はなにをやっているんだ」と警察庁が動きだし、烏野組と真白中央警察署長との癒着関係(花ヶ崎署長からすれば、烏野組を撲滅できる機会を虎視眈々とうかがっているだけだが……)を壊されかねないこと、などを理由として、現状維持が合理的かつ望ましい。パペティアは反抗を嫌ってこそいるが、メンツのために愚行に及ぶようなまねは(基本的に)しないのである)。剣持は驚き、パペティアの真意を尋ねかけるも、命令どおり口をつぐむ
・そんな剣持に対し、教主はけたけたと、およそ宗教団体の長らしからぬ態度を見せ、このうちが裏でペテン師にちょっかいかけたり、部下(タナトス)に須佐美一家の次期当主をひそかに監視させて計画どおりにことが進むよう仕組んだんや、中途半端に終わったことに文句のひとつも言いたくなるやろ、などと怪しげな関西弁らしき台詞を吐く。その変わりように剣持はまたも驚かされる。それというのも、剣持の記憶の中で、このような話し方をするのは『エーデルワイス真白』にて乱入してきたあの湊谷腕であり、つまりハイッセム教団の教主と湊谷腕が同一人物であるという事実が目の前に現れたためである。さらに剣持は、自分が湊谷腕と出会った際に彼女の声に感じた「不思議と耳になじむ」感覚が、自身がこの教主の声をいくども聞いていたことに由来していたのか、とも気づかされる
・対して教主改め湊谷腕は、(ひとまず教主ではなく湊谷腕本人としての口ぶりで)商売敵っちゅうわけやないが、真白の仕事人についてはいつハイッセム教団を懲悪の対象にするかわからない(※ここでハイッセム教団がいかなる組織かを、ざっくり説明しておく。新興宗教団体であること、湊谷腕は二代目教主であって創始者ではないこと、ハイッセム教団の教義をあろうことか教主である湊谷腕はさほど覚えていないこと(それでも信者をたらし込むように従わせられていること)、信者を金づるのように扱っているのは事実なのでこれが露見すればスウィンドラーは無視できないであろうこと、などを説明する)、として引き続き烏野組がスウィンドラーを狙うのなら協力するということ、剣持は知ってのとおり、湊谷腕として須佐美一家ともパイプをつないだ自分なら繚乱会のいざこざにおいて烏野組が須佐美一家を出し抜こうとする際になにかしら力になれるだろうこと、などをパペティアにアピールする(アーテーの真意としては、烏野組へ肩入れしたいわけでも、須佐美一家やスウィンドラーを滅ぼしたいわけでもなく、あくまで惨事の演出において、その対象たる演者に須佐美輪花やスウィンドラーを見いだしたために、両人の惨事を起こすに当たって使えるものは使いたい、といった程度の目的意識で烏野組にこうして手を貸している。
 パペティアはこれについて、まるきり把握はしていない。しかしながら、少なくともハイッセム教団が烏野組の傘下であるうちは、表面上は悪い話ではないだろう、として(烏野組へ肩入れしたいわけではない、ということを薄々見透かしていながら)容認している。なお、そのパペティアもまた、アーテーにとっての惨事の出演者になるやもしれない、あるいはなりかけている、なっているかもしれない――ということについてまで、当人は気づいていない)
・対してパペティアは、従順な資金源である限りは使ってやる、と前置きしつつ、ただ、現状においてその必要はない、と述べる。須佐美一家から――もとい、須佐美御園から打診があり、須佐美竜苑を撃った犯人の親玉狩りに烏野組も手を貸す運びになっているからだ、と
・そこで剣持は口を挟み、その親玉とはまさか、とパペティアに尋ねる。対してパペティアは、剣持から報告があった独り闇市が須佐美御園に望みの情報をもたらしたこと、その情報が正しければ須佐美竜苑の狙撃を主導したのはほかならぬスウィンドラーであること、などを明らかにする。繚乱会にかこつければ須佐美一家の戦力を利用でき、スウィンドラーの始末をより合理的に進められる(ゆえに湊谷腕の出る幕は現状、どこにもない)、と
・湊谷腕は、策略を巡らすパペティアに(今度は教主モードで)期待しています、と告げる。そうしてパペティアはいっそう冷厳に、烏野にあらずともカラスの目は方々に光っている、多額の金で許されるのは対等な発言までだ、などと教主を牽制し、剣持を連れてその場をあとにする
・ひとりになったのち、湊谷腕はローブのフードを脱ぎ、裏切りを許せないパペティアを、一周回って律儀なこっちゃで、などと一蹴する(パペティアが「諸悪を寵する」ことを目標としているため、ある意味この評は正しい)。そうしていると、階下から階段を使って黒いレインコートの人物が入ってくる。レインコートのフードを脱いだその人物は、(読者にはわかりきっているが)タナトスだった
・タナトスはアーテーをさん付けして、仕事として命じられた「ハイッセム教団を嗅ぎ回っている男の始末」をすませたことを報告する。対してアーテーは、これまでの教主然とした態度とも湊谷腕らしい態度とも微妙に異なる感じで、さながら母親のようにタナトスを本名である「蔵敷狭間(呼び方は「狭間」)」として抱き、褒める。
 ここで「須佐美御園の会談を襲おうとした『疾風怒濤』を名乗る連中と、《《スウィンドラーの仲間》》であるフォールにつながりがある」「つまり須佐美御園の会談の襲撃を主導したのもまた、スウィンドラーである」という偽りの伏線作りもとい証拠作りによって、スウィンドラーを着実に惨事に追い込むという計画においてスウィンドラー側からの疑いが向けられる可能性は一応考慮していたが、まさかその疑いの確認に『疾風怒濤』の元総長であるフォールその人が起用されるとは(さすがに偶然が過ぎる的な意味で)思っていなかったこと、いずれ『疾風怒濤』の関係者たるフォールの始末をするつもりではあったが、こんなに早くにそれが実現するとも思っていなかったこと、などを読者に説明しておく
・アーテーはタナトスに、こうやって悪徳を重ね、諸悪を懲らす真白の仕事人を裏切り続けていれば、ゆくゆくは「死性愛《タナトフィリア》」の持ち主たるタナトスにふさわしい最低最悪の惨事が訪れるはずだ、と語る。対してタナトスは、たまたま知った北欧の神オーディンにならって死のうとしたときに現れたスウィンドラーに止めてもらってよかった、スウィンドラーを通じてアーテーさんのような|魔性の女《やさしいひと》に出会えてよかった、と各人への感謝を口にする
・そんなタナトスをよそに、アーテーはスウィンドラーへの惨事が順調に進んでいることを思って笑みを浮かべる。
 独り闇市を追い詰めたことで須佐美一家は情報を手に入れ、スウィンドラーを始末する理由を得た。『疾風怒濤』(を騙ったハイッセム教団の信者)絡みの知らせを受ければ、なおいっそうその理由は須佐美一家にとってもっともらしく見える。
 スウィンドラーが烏野組に仇なしたために、烏野組は相変わらずスウィンドラーを始末したがっており、本来なら対立関係にある須佐美一家と利害を一致させた。
 須佐美一家と烏野組はともに繚乱会という建前上の同盟を結んでおり、同じく繚乱会所属のRAILを率いるマダム・アクトレスことキトンは、スウィンドラーが好きで好きで仕方ないにもかかわらず、その立場ゆえにこの流れに堂々と待ったをかけられない(つまりは今からこの流れに気づいても手遅れ、ということ)。
 不動なにがしの惨事はまあまあおいしかったが、「迷いたくない」という迷いに振り回されたあげく善にも悪にもなりきれなかった|凡俗《マイナーロール》は前菜どころかただのお通し、間違いなく主菜級である題名役《タイトルロール》の惨事がもたらす感動が今から楽しみやで、とアーテーは期待に胸をふくらませるのだった
※カーフこと戸田凪を本章で出そうと思ったけど次々章あたりに持ち越すことにする。本章に出しても追跡役のついでみたいにしかならないし、それで使い捨てるのはなんか蛇足感がある。それならいっそ、もう一度スウィンドラーに裏切られる演出をすることで、(あえて二度も裏切る)スウィンドラーの覚悟の丈を示す――といった使い方のほうがいいんじゃないっすかね?

~メンターとの出会い~
・後日、輪花視点。数日前に「占い師悪徳互助会」とスウィンドラーに仮称されていたいんちき占い師たちを懲らしめた際に、輪花が狐小路商店街で見つけていた気になる飲食店でふたりは食事を取り、今はその帰り道。手配したタクシーがちょうどやってきたところで、輪花はタクシーが停車してドアが自動で開かれるまで、スウィンドラーの財布で食べた料理(あるいはスイーツ?)の感想をスウィンドラーと話していた
・輪花にしてみればなんてことはない日常だったが、突として遠くに見えた人影によってそれは崩れ去る。桂楓一郎と男が数人、輪花のほうに慌ただしく向かってきていたのである
・輪花はそこで秀斗のお見舞いに行った日のこと、すなわち竜苑と意図せず再開してしまったときのことを思い返す。あれがきっかけとなって、いよいよ須佐美一家が自分を連れ戻しにかかったのだ、と輪花は思い込む
・すぐに輪花はスウィンドラーに続いてタクシーに乗り込み、すぐに発進するよう運転手をせかす。ところが運転手は車両を出そうとしない。(ハイッセム教団全体に輪花の情報が行き渡っており、状況が許すなら、須佐美一家や烏野組と連携せよ、と教主に命ぜられているため)「我らが主の御心のままに」などとわけのわからないことを言うだけだった
・問題はそれだけでなく、ならばと輪花はタクシーを降りようとするも、ドアがロックされていて開けられなかった。逃げられないと思い、輪花は万事休すの感を覚える
・しかし、輪花のあきらめの色と口ぶりから事態をおおむね察したスウィンドラーに帰りたいか否かを問われ、まだ(須佐美一家には)帰りたくない、と答える

~第一関門~
・そう答えたことで、輪花の思いに応えるかのようにスウィンドラーが動きだす。スウィンドラーはリュックから取り出した釣り針と釣り糸を器用に飛ばして運転席右側のドア開閉スイッチに引っかけ、それを引くことであっという間に密室と化したタクシーを開放する(ドア開閉ボタンは運転席側のドアの右手が届く位置(収納スペースがありそうな位置))
・そのままスウィンドラーに促され、輪花はスウィンドラーと一緒にタクシーを脱して楓一郎らから遠ざかるように走り出す。走りながら、スウィンドラーは僕の助手にちょっかいをかけるとどうなるか、思い知らせてあげないと、などと口にする。かくして、輪花とスウィンドラーの逃走劇が幕を開ける

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