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スウィンドラーは懲悪せり 《真白市中、花の見ぬ間に》3【公開プロット】

「第三幕」
~帰路~
・回想的な状況説明。今回のターゲットの部屋に、ターゲットらが犯した罪の証拠や暴力団である証拠を置いて、警察が駆けつけるように事をすませたスウィンドラーは、今度はまた違った変装をして、第一発見者および通報者として現場に残ることをコウキに告げて別れた。タナトスのほうは、あの人たちも殺してくれるほどじゃなかった、と残念そうにいずことも知れずにふらふら帰っていった
・状況説明終わり。一方のコウキは、あの賃貸アパートからほど近い正式な狸小路のアーケード商店街を、うしろに黒猫を歩かせる女性こと相守紫苑と一緒に歩いていた。コウキにとっては彼女と行動をともにする理由はなかったが、紫苑のほうは(当然といえば当然だが)先ほどの状況をまだ飲み込めておらず、あれはなんだったのか、コウキに聞きたいといった感じだった
・対してコウキは、自分たちが裏社会にかかわっていることや、自分が傭兵として普段は狙撃銃で悪人を撃ち果たしていることなどを言うわけにもいかず、いちいちせんさくしてたら真白市では生きていけないよ、と返す。加えて、それよりも、うしろの黒猫には感謝しているよ、として飼い主らしき紫苑にお礼を告げる
・対して紫苑は、クロは飼い猫みたいだけど飼い猫じゃないんだ、と答える。どういう意味かをコウキが尋ねても、(何度も転生してる化け猫だから、そんなオカルトは)知らないほうがいいかも、といたずらっぽく返す
・互いに聞きたいことは聞けない、とわかったところでもう用はないよね、とコウキは紫苑と別れようとする。すると紫苑は、せっかくだからもうひとつ、聞いておきたいな、と返す。引き止められたと感じたコウキは、さっき以上に踏み込んだことを《《ぼく》》に聞いてもだめだよ、と言うも、紫苑はあなた(ミツキ)に聞いておきたいの、と告げる

~復活~
・それはあまりに驚くべきことだった。スウィンドラーすらコウキの情報や振る舞いの変化、そしてミツキの告白などからその存在を認知したというのに、紫苑はなんのきっかけもなしにミツキの存在を看破したのである。ゆえにたまらず、ミツキは強引に主人格となって現れ、前髪をかき上げながら「《《ボク》》のことを言いふらして、コウキに困らせるつもりならただじゃおかない」などと紫苑を敵視する
・だが、紫苑も少しだけ厳しい態度を取り、|コウキくん《そのこ》を困らせてるのはあなたじゃないの、と朧な瞳で見つめる。霊媒師だからわかる、生きている相手にいつまでも憑いていても別れたときの傷跡を大きくするだけだ、と(この場面、この発言によって、いよいよミツキという存在がコウキが生んだ架空の人格、設定などではなく、死者として確立している存在であると読者に明かす。世界観的には蛇足であるが、この世界線でのジェミニを前に進ませるためにあえて明かす)
・対してミツキは、そんなのはわかっている、けど自分がいなかったら、自分が注意してあげなきゃコウキはどんどんつらいほうに行ってしまう、と、ミツキ自身の思いを吐露する。ミツキという存在に直感的にでも気づいてしまった以上、あの子が人一倍に生きようとするのは避けられなかっただろうから、自分(ミツキ)はコウキのために日々を楽しんで、「ミツキは幸せだ」「自分は|失われた《ミツキの》人生をも生きられている」という充足感をコウキに与え続けるしかないのだ、と
・それを聞いた紫苑は、あの場でわたしを襲おうとした怖い人(タナトス)から守ろうとしてくれた強さを持っているから、その子(コウキ)は必ず独り立ちできるよ、と返す。その上で、あなたがやるべきなのは自分の未練がなくなるまでその子と本音で話し合うことだ、とミツキにアドバイスをする
・ミツキはそれを頭の中では、自分がひそかに恐れ、避けてきた(およそまっとうな)選択のひとつだと認めながらも、表面的には受け入れがたいといった態度を示し、紫苑と一方的に別れようとする。独り立ち――確かにコウキの鉄心がミツキとの決別を受け入れれば、それはできるだろう。けれど、紫苑の言葉選びはミツキにとっては突き刺さるものだった。まるで、姉である自分のほうが独り立ちできていないとでも言われているかのように
・そんなミツキの去り際に、紫苑は優しく、真剣な口ぶりで伝えた。どうしても、うまくいかないときは、わたしがちゃんと眠らせてあげるわ、と

~宝を持っての帰還~
・紫苑と別れたのち、ミツキは主人格を入れ替える。コウキは気がついたときには紫苑が近くにおらず、自分が家路についている、といった状態から、ミツキが唐突に人格を交代したんだ、と気づき、なにがあったのかを尋ねる(コウキは紫苑が「あなたに聞いておきたいの」といったセリフがミツキに対してのものだった、とまではギリギリのところで気づいていない)
・対して脳裏に引っ込んだミツキは、それについておしゃべりしたかったから、などと言い訳する。しかして、せっかく狐小路に来たのだから寮に戻る前に買い食いでもしよう、と提案する
・それを受けて、コウキはじゃあ、とミツキが食べたいものを尋ねる。するとミツキは自分の食べたいものを言いかけるも、少し間を開けてから、コウキが食べたいものを自分で選んで、と返す。そうして舌を楽しませられたら、ボクも同じ気持ちになれるから、と(今までとは異なり、ミツキは自重するかのような態度を示す。ミツキは紫苑とのやり取りを経て、コウキが独り立ちすることの大切さ、重要さを改めて認識するとともに、ほんの一歩ながらも行動に移そうと思えるようになったのである)
・(ここから余談的なやつ)場面変わって、五月某日(つまり時間軸は過去に戻る)。ファウン視点。背広の上を片手に垂らして、綺麗な女性に会えることをひそかに楽しみにしつつショットバー「ピースメーカー」に早足で入る。約束どおり、そこには紫苑が待っていた
・ファウンはあいさつもそこそこに、息子が首を長くして待っていましてな、と本題すなわち「『黒唇』についての調査報告」を紫苑に求める。対して紫苑は、今のところはこれといってつかめていない、と申し訳なさそうに返す
・ファウンはまだ始まったばかりだ、としてフォロー。しかして息子こと寺野綴縷は知的好奇心旺盛な一人息子であること、それなりに忙しい父親としては物を買い与えるのと同じように、欲しがっている情報を与えてやりたいと思っていること、を紫苑に告げる。そのためなら、相場定かならぬ霊媒師にでも充分すぎるぐらいのお金は出す、とも
・それを聞いた紫苑は、『黒唇』なるうわさの存在がオカルトの類いであれば満足いただける結果を出してみせます、と意気込みを見せる。しかして調査自体はなかなか難航しそうなので、ひと月後にまた報告の場をいただきたいと思います、と席を立つ
・そんな紫苑に、ファウンはせっかくなのだから、せめていっぱいぐらいお飲みになっては、とお酒を勧める(ここの酒はカクテルこそ出さないが、優れた古酒も少なくない、代金は接待費としてこちらが持ちますので、とも)。すると紫苑は、お酒は苦手ではない、としながらも丁重にお断りする。まだ真白市に来てから日が浅く、そのせいか、うわさに聞いていた以上に、とりわけここ烏野には怖い印象を感じていること、そのために七時頃には隣町の自宅に戻りたいこと、なども付け加えて、紫苑は「ピースメーカー」をあとにする
・無理に引き止めようとはせず、あくまで紳士的にファウンは紫苑を見送る。だが、そのすぐあとに、ストレスまみれの日々に、せめてあんなしとやかそうなお嬢さんと一服の清涼剤をもらえればよかったのですが、と残念がる。
 容姿は醜く、悪徳商法でひそかになした財だけが取り柄で、その一点のみに惹かれた女性との結婚生活は子どもができてなお睦まじいものではない。そこに加えて、悪徳商法をスウィンドラーに懲悪されかけて、今や彼の仲間として悪徳商法の暴露をすんでのところで凌いでいること、さらにはつい最近になって、アーテーが破滅的な無茶振りを断りなくやってきたために、スウィンドラーすら知らない「独り闇市」としての立場も危ういものになっている。
 須佐美夫人から求められているのは「竜苑を撃った黒幕についての情報」であり、ファウンはもしかしなくてもスウィンドラーがジェミニとかいう小僧にやらせたんだろう、と感づいてはいるのだが、それを伝えてしまえばスウィンドラーは「ファウンが裏切った」ことを遠からず嗅ぎつけ、悪徳商法の件を公にしてファウンをいよいよ懲悪するであろうことはわかりきっている。さりとて、情報を伝えなければ、ファウンがスウィンドラーとつながっていると須佐美一家に気づかれ次第、須佐美一家に報復を受けるであろうこともまた、確実だった。
 スウィンドラーに加え、得体の知れないアーテーにも弱みを握られた恰好だ。ストレスを感じずにはいられなかった
・ここでファウンはマスターに話題を振る。あなたもどうせスウィンドラーに目をつけられて、なし崩しに協力させられているんじゃないんですか、と。対してマスターは気持ちが読み取れない顔つきのまま、口を開かず、いつもファウンが頼んでいる酒を提供する
・ファウンは酒はともかく、ビジネスにかかるあなたとの付き合いはなかなかどうして骨が折れますな、と肩をすくめる。そして双肩にかかっている重圧を忘れんばかりに、わたしの数少ない味方であるかわいい息子、綴縷の幸運と健やかな成長を願って、乾杯、とひとりさみしく酩酊への道を進み出すのだった

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