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スウィンドラーは懲悪せり 《真白市中、花の見ぬ間に》2【公開プロット】

「第二幕前半」
~試練・仲間・敵対者~
・六月になり、|射撃訓練《クラブかつどう》に励んだり、やたら頼ってくる下級生の相手をして気分転換したりするコウキ(ミツキもこれにかかわる)だったが、あの精神的動揺――「人を撃つことへの抵抗感」は相変わらずだった。それは|光線銃《ビームライフル》をこっそりクラブの人間に向けたときにも顔をのぞかすほどで、傭兵としてはあまりに致命的な状態といわざるをえなかった
・そんな折にコウキはたまたま旋風と再会し、旋風の提案で彼の散らかった借家でなぜかゲーム(クマブラ)をしていた(一応、旋風もミツキにとっての遊び相手のひとりであることを説明しておく)。旋風いわく、辛気くさい顔でいるよりゲームなりで、すかっと笑顔でいるほうがいい、とのことだった
・旋風は自分がトレーニングをつけた自慢の弟子が体育祭のクラス対抗リレーでチームを一位に導いたことや、今はスウィンドラーの頼みでハイッセム教団とかいう組織のメンバーを脚で探っていること、などを問わず語りする。聞かされているコウキはさほど興味を抱かない
・そんな中でコウキは旋風にゲームで連敗する。旋風は前より弱くなったな、などと言う。旋風との関係は、もっぱらミツキに基づくものであり、輪花同様に、ミツキにとっての遊び相手のひとりだった(加えて、どうやら旋風はコウキとミツキの区別をつけておらず、コウキがミツキを主人格としている状態であろうとコウキとして認識している、みたいなことも説明しておけ)
・そんな旋風が調子に乗っているのが癪に障ったのか、ミツキの人格はコウキとの交代を求める。コウキもゲームの間ぐらいなら急に変わっても怪しまれたり、面倒なことにはならないか、と思って交代する。そしてミツキはいつものように旋風を何度も負かしてすっきりするのだった
・さておき、ゲームが一段落したところで、コウキは旋風に対し、スウィンドラーへの協力なんかをさも楽しそうにやっているなんてどうかしている、と語る。対して旋風は、兄貴は自分が出会った誰よりもカリスマがあり、旋風の速さを見込んだ目のつけどころに自分は心を打たれたんだ、と返す。走り続けることが生きがいであり、それしかできないような自分の走りひとつで恩人である兄貴の役に立てるのは誇らしい、とも
・対してコウキは、それが旋風の夢だったのか、と尋ねる。すると旋風は、そもそも自分は夢なんか持っちゃいなかった、持ってなかろうが走ることを楽しんでいたし、これから死ぬまで走り続けたい、と胸を張る。その解答は、ソロでも強く生きていけるような傭兵を夢見ていた神童をして驚かせるほどに愚直で、無計画で、しかし否定しきれない、鉄心満ち満ちた生き方のようだった

「第二幕後半」
~最も危険な場所への接近~
・旋風と別れたコウキの迷いは加速する。――コウキは傭兵になろうと研鑽を重ねてきた。才能にも恵まれていた。弱者や無能である限りは罪のない命を救えないのだから、悪人を見過ごさぬよう、武器を手に取って撃ち果たすこと自体に罪悪感なんてほとんど感じなかった。ソロでも戦える傭兵は、ソロゆえに大切なものを失う恐れが少なく、弾丸を当てる対象とのしがらみも気にならない。あらゆる点で現実的な、目指すにたる夢だと信じて疑わずにいた。
 しかし、旋風は夢を持たずともぶれずにいる。ペテン師に悪用されている以上は度しがたく、見習う気にもなれないが、傭兵としては致命的な「人を撃つことへの抵抗感」によって目指すにたる夢を目指せないような状態にあるコウキにはひどく、いやにまっとうに見えていた
・ここで、スランプをまざまざ思い知らされたコウキのもとに電話が舞い込む。公衆電話からであり、かけてきたのはスウィンドラーだった
・スウィンドラーはたいした仕事じゃない、と前置きしつつ、稚拙な詐欺を働いていた連中を懲らしめるうえで烏野組の構成員がその連中の元締めをやっていることを知ったこと、そこでスウィンドラーのいわゆるボディガードとしてジェミニを雇いたいこと、狙撃銃の件はこちらも把握しており、狙撃銃がなくとも支障がないだろうこと、などを説明して仕事を頼む
・コウキは内心で、たいした仕事じゃないにしろ、それが今の自分に務まるだろうか、と少し悩むも、かかわらないで、というミツキの反対を無視していつものように引き受ける
・かくしてコウキはスウィンドラーが指定した場所で彼と合流する。すると驚くことに、あのマッシュルームヘアの男もいた。スウィンドラーの説明によって、この男もまたスウィンドラーの仲間であり、タナトスというコードネームの実務担当もとい荒仕事担当であることが明らかになる(それはそれとして、スウィンドラーの格好は、まず髪がカラースプレーであろう灰色に染められており、顔にはシミやしわに見える化粧をして、腹回りに詰め物を詰めて小太りを装った、いかにもうだつが上がらない五十過ぎの男性といった姿であり、コウキは自分への呼びかけがあるまで気づかない。ちなみにスウィンドラーの変装は、これから向かう賃貸アパートの管理人に扮したもの)
・タナトスは以前会ったコウキを見るも、まるで関心がないようにそっぽを向き、あいさつもしない。コウキも以前会ったとき以上に陰気な印象を受け、しかもスウィンドラーの仲間だと知ってかかわるつもりはない
・スウィンドラーの説明でコウキは、
真白市中央区にある狐小路というアーケード商店街(南方のすぐ近くに烏野がある)で稚拙な詐欺を働いていた連中はただの小悪党にすぎず、連中の稼ぎ方が通用しなくなるようこちらですでに手を打っていること、
その連中の元締めたる烏野組の構成員らがいるのは非公式的、慣例的に狐小路と呼ばれている狐小路十丁目の賃貸アパートであること、
今回はスウィンドラーが夜分に賃貸アパートの管理人を装ってターゲットが一般人として潜伏している部屋を訪ね、「ここの住人が実は反社会勢力の者ではないか、という連絡をほかの入居者から受け、確認のためにお話を伺いに来た」という体でドアを開けさせ、その隙に自分とタナトスとで中を制圧、ジェミニには外で待機してもらい、万一取り逃がしたターゲットがいたらこれを無力化してもらう、といった仕事であること、
などを聞かされる。コウキはこれならこれ以上、ミツキのへそを曲げずにすみそうだ、と気を楽にする

~最大の試練~
・そして作戦が始まる。スウィンドラーとタナトスが屋外に設けられた階段を上がっていくのを見送りながら、コウキは拳銃をまわりに見られないように歩道の電柱に身を隠す。ほどなくして男性の驚いた声がひとつ聞こえ、それから夜の静けさが戻る。作戦が順調であると感じたのもつかの間、スウィンドラーらが入っていった部屋の窓が割れると同時にひとりの男が転がり込むようにそこから飛び出した
・這々の体といった具合に階段を駆け下りる男に、コウキは自分にも仕事が回ってきたと思いながら、とっさに階段の先に向かい、拳銃を男に向ける。ところが、男は拳銃が見えていないのか、はたまた撃たれてもいいと思っているのか、どけえ、と声を荒立たせてこぶしを振り上げた。撃たねば逃がすばかりか、負傷させられる――頭ではわかっていたし、引き金の感触を指でしっかり意識できていたのだが、やはりコウキはここでも突進してくる男を撃つに撃てなかった
・あわや襲われる、といったところだったが、そこに思わぬ助けが入る。コウキのうしろから肩越しに飛び出した黒猫が男の顔に噛みついたのである
・男はひるみ、そのすきに割れた窓のほうからまっすぐ飛んできた髑髏型の分銅をこめかみに食らってその場に倒れる。男は気を失っていた
・なにが起こったのかと、コウキはしばしあっけにとられる。すると横からすみませーん、と女性が駆けてきて、うちの猫がご迷惑を、と謝ろうとする。驚くことに、その女性はコウキが先日、結果としてタナトスから助けたあの女性だった

~報酬~
・となると、こういうことにもなろう。男を倒したのを確認しに来たタナトスも女性に気づき、コウキはこのままでは先日の続きが始まってしまう、と危機感を抱く。案の定、タナトスは鎖を頭上に構え直し、今にも襲わんばかりの姿勢を見せた
・そんな状況が、危機感が、無意識のうちにコウキを突き動かしていた。タナトスが頭上で回し始めた鎖を銃撃して止め、無言でタナトスに立ちはだかる。たった一発だったが、「人を撃つことへの抵抗感」を「罪のない命を救いたいという使命感」が凌駕した瞬間だった
・されどその一発は無意識の奇跡にすぎず、コウキはふたたび緊張して指先が硬くなるのを感じる。しかしここでスウィンドラーがタナトスに声をかけたことで、タナトスはひとたび臨戦態勢を解く。ここでようやく、タナトスの口から、女性を追っていた理由――あの日、烏野地区でいかにも自分を殺してくれそうな相手を見つけ、窮鼠猫をかむを地で行ってくれるのに期待して攻撃したはいいが、結局、反撃もないまま倒してしまったばかりでなく、その様子を女性に見られていたことを知って口封じをしようとしたことが明らかになる
・それを聞いたスウィンドラーは、意外にも、口封じはしなくていいよ、とタナトスに伝える。女性に対しても、そこの彼(タナトス)とはきっと面識もなにもないでしょう、と話しかけ、暗に「お互いに不問に付すのが身のためだ」といった旨を伝える。女性もスウィンドラーらの異常さ、危険な匂いあたりを感じ取ったのか、(コウキの記憶に反して)面識はない、と答える。かくして、コウキは引き受けた仕事を十全とはいえないながらも終えるのだった

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