「第一幕」
~日常の世界~
①日常の世界(サブ2)
・(※ここからちょっと時を遡る)秀斗がクラス対抗リレーを優勝に導いた一方、秀斗との約束という名の賭けに負けた野球部監督は野球部の部室で腹を立てる。このままでは秀斗の代わりに今のレギュラーの誰かをベンチに控えさせなければならず、誰を選ぼうと不満が爆発するのは目に見えている。下手をするとこの問題が学校にも伝わり、監督を辞めさせられる可能性さえあった
②冒険への誘い(サブ2)
・そんな監督の前に、物陰から関西弁のような言葉を使う謎の人物が現れ、監督に寄り添うかのように同意、同情を示す。しかして監督に、そんな邪魔者(秀斗)は始末するに限る、とも告げる
③冒険への拒絶(サブ2)
・さすがの監督もそれは、と難色を示す。始末、という言葉の裏に潜んでいそうな行為を実行する勇気は、簡単に起こせるものではなかった
④メンターとの出会い(サブ2)
・しかし、謎の人物は言葉巧みに揺さぶりをかけ、監督の不安と期待をあおる。あんたはなにも悪うない、亀の甲より年の功、犯罪が横行する真白市の警察なんて揃いも揃って木偶の坊だからばれへんばれへん、と
⑤第一関門(サブ2)
・そんな口車に乗せられ、結局、野球部監督は謎の人物に言われるがまま秀斗の始末へと乗り出すのだった(秀斗を人気のない場所に誘い込み、バットで殴殺する気になった。そのために体育祭で人が出払っているはずの校内を散策し、周りに気づかれることなく秀斗を殴殺できる場所を下見することにするのだった)
~日常の世界(栗栖視点)~
・体育祭で使われる優勝旗の搬出を体育委員に指示し終え、自身も校庭に戻ろうとしていた栗栖。錬磨の死を知ってからというもの、生徒会長としての日々の務めにいまいち身が入らず(それでも不足なくこなしているが……)、相変わらず元気を出せずにいた
~冒険への誘い~
・そんな折、栗栖はバットケースを肩に背負って校内を歩く野球部の監督に出くわす
・栗栖はあいさつもそこそこに、用事を伺う。野球部の監督といえども、外部の方である以上は先生の許可がなければ勝手に校内に入ってはいけない決まりなんです、と
・そんな折り目正しい態度が気に入らなかったのか、監督はガキのくせに、と怒りにまかせてバットケースのバットを取り出して、床を打ち鳴らした。脅迫にも等しい行為に栗栖は恐れ、悲鳴をあげてしまう
~冒険への拒絶~
・これでは暴漢となんら変わらない――よって栗栖は、監督の要領を得ない暴言を無視してその場から逃げようと考える
~メンターとの出会い~
・だが、監督の背後から秀斗が現れ、状況はより複雑になってしまう
・折悪しくも脅迫の現場を見られてしまい、監督はせっかく見つからないように場所を探していたのに台無しだ、などとしてやけを起こしたように秀斗にも暴言を飛ばす。対して秀斗はなにをやってるんだ、その人から離れろ、と監督に叫ぶも、監督に聞く耳はなく、むしろお前さえあんなことを言い出さなければ、と恨み節。お前にレギュラーをやる気はなかった、とも
・そんなやり取りを目の当たりにしながら、栗栖は生徒会長として悩む。ここで自分が逃げたら秀斗に怒りの矛先が向いてしまい、暴行されるかもしれない。それではこの非常事態は解決どころかより悪化してしまう、と
~第一関門~
・そこへ秀斗の帰りが遅いとして、美乃里と(美乃里に付き添いを頼まれた)輪花も現れる。目撃者が増えたことを好機と見なし、栗栖は監督に落ち着いてください、まずは話を聞かせてください、と訴える
・だが、監督は、こんなところを(複数の)人に見られた以上、もう手遅れだ、と自棄を改めず、栗栖の腹をバットで突くように殴る
・殴られた栗栖は痛みで身動きが取れなくなる。そんな栗栖を肩で背負うように担ぎ上げ、秀斗たちに「悪いのはお前らだ」「下手なまねをしたらこの人質がどうなっても知らないぞ」と叫んで校舎屋上へと逃走する
・ひとまず秀斗たちに危害が及ばずにすんでよかった、と思う栗栖だったが、自分のことまではどうすることもできず、そのまま痛みによって気を失ってしまうのだった
「第二幕前半」
~試練・仲間・敵対者~
①日常の世界(サブ3)
・このままでは生徒会長が危うい、と輪花は考える
②冒険への誘い(サブ3)
・美乃里はすぐに警察に通報しようとする。輪花も普通はそうすべきだろう、と内心では納得する
③冒険への拒絶(サブ3)
・しかし輪花はそんな美乃里を制止しつつ、このままあの監督を刺激し続ければより大変なことになるかもしれない、と懸念を述べる
・対する美乃里はそれはそうかもしれないが、なにもしないほうがやばたにえん、などと返す
④メンターとの出会い(サブ3)
・そこで秀斗は、自分が説得してみるからその間に警察に通報するなり、打開策を練るなりしてくれ、とふたりに伝えて監督のあとを追ってしまう。野球部員としていても立ってもいられなくなったのである
・結局、輪花と美乃里はまずは先生たちに知らせる、その上で大人の判断も交えて考える、と話をまとめ、美乃里は事態を先生に知らせるべくその場をあとにする
・秀斗のあとを追う、としてその場に残った輪花は先月の立体駐車場でのスウィンドラーを思い出し、彼ならどうにかしてくれるのでは、と考えるも、ケガが完治していない彼に頼るわけにはいかない、と気づかされる。とにかく今は秀斗に追いつくことを優先するのだった
⑤第一関門(サブ3)
・一方、美乃里は先生に事態を伝え、先生たちはすぐに警察に通報するべきだ、とおのおの意見を一致させていた
・対して美乃里は人質にされた生徒会長のことを挙げ、監督を刺激してもしものことがあったらどうするんですか、と訴える
・先生たちは、それでも教員にしてみれば自分たちの業務の埒外とも呼べる事態であり、説得などの手を尽くすにしても警察に協力してもらわないわけにもいかない、と切実な事情を語る
・このままでは輪花が懸念していた事態になるかもしれない――そう美乃里が悩んでいると、自分がどうにかする、と助け船を出す人物が職員室へと現れる。それは卯木高校の現理事長であるビアー――もとい卯木誉その人だった
「第二幕後半」
~最も危険な場所への接近~
・いても立ってもいられず屋上に忍び込んだ輪花は、秀斗と監督のやりとりを黙って見ることしかできずにいた。秀斗は監督にこんなことはやめるよう訴える。その人は関係ないだろ、約束なんて捨ててもいいから離してくれ、と
・しかし監督は頭に血が上っていて、話にはまるで応じない。ただ、秀斗がなんでもする、と口走ったのを皮切りに態度を変え、手すりに手を縛って身動きが取れない栗栖をそこに置いたまま、秀斗を徹底的にバットで叩きだした。どうせ監督としての汚点を拭えないなら、そればかりか犯罪者扱いされるなら、せめてすべての元凶である秀斗を道連れにしてやる、と
~最大の試練~
・やり返すこともできず、ひたすら防御に徹する秀斗。それを傍観せざるをえない輪花。だが、そんな輪花にビアーが声をかけ、「遮蔽もなにもないけど目を盗むくらいわけないでしょ」などと言われる
~報酬~
・バットを凶器に変貌させて振り回す、狂った大人を相手取るのは危険極まりない。だが、先の事件から輪花は逃げるばかりではだめだ、ということを痛感していた
「第三幕」
~帰路~
・ゆえに輪花は、ビアーの言葉の意味をつぶさに悟り、覚悟を込めてうなずく。秀斗の命が危うい中でためらっている暇はなかったのである
・そしてビアーは、滅多打ちにされ、とっくに床をなめていた秀斗の後ろから現れ、理事長として監督にそんなことはやめるよう告げる
~復活~
・もちろん監督はその訴えを認めず、こんなやつらを入学させた理事長も同罪だ、とでたらめな難癖でもってビアーをもたたきのめそうと襲いかかる
・だが、細身の容姿からは想像もできない身のこなしと体術で対抗し(その間に輪花が、監督の目線の動きをよく観察して、およそただの女子高生とは思えない感じで隙を突こうとするさまを描写する)、監督のバットをつかんで止めることに成功する
・そればかりか、監督が無我夢中でビアーを倒そうとする隙に輪花が目を盗んで栗栖に近づき、彼女の手かせたる縄を解いていた。ビアーが注意を引いて、その隙に輪花が人質を助けるという作戦だったことに気づかされた頃にはもう遅く、監督は本気を出したビアーによってまたたく間にKOされるのだった
~宝を持っての帰還~
・かくして、警察が到着する頃にはもう、事態は収まっていた。監督がお縄につき、警察に連行されていくさまと、全身打撲によって救急車に運ばれる秀斗の姿を、空いていた教室の窓から見ていた輪花は、ビアーにお礼を伝える。自分ひとりでは生徒会長も友達も助けられなかった、と
・対してビアーは、(理事長として生徒を守ったという大義名分こそあれど)暴力を振るっておきながら感謝や賛辞を受けとる気はない、なんなら一発だけでも本気で殴れて楽しかった、と答える。あの場においては救世主なのだが、コードネーム「ビアー」としてスウィンドラーとかかわりがある人間だけあってやはり善人ではないのだろうか、と輪花は複雑な気持ちになる(それでもビアーにはしっかり感謝を述べるが)
・その場に居合わせた栗栖も、理事長に助けてもらったことを感謝する。しかし、自分のために秀斗が傷ついたことに心を痛めており、(錬磨の死によるショックからまだ立ち直れていないこともあって)彼(秀斗)をあんな目に遭わせるぐらいなら、あとでなにをされようと自分が抵抗したほうがよかったかもしれない(≒自分が犠牲になるべきだった)、とつぶやく
・するとビアーは、自分は「命を使っている」人間が好きだ、と切り出し、成り行きに任せて事態を見守るよりは立派だと思う、としつつ、けれど、あなた(栗栖)のそれは「命を捨てる」ことにすぎず、歩みを止め、未来を捨て、つれづれなるままに風化していくような生ける屍、すなわち「命を使っていない」人間と大差はない、と断じる
・だから、あの場で監督を下手に刺激せず、恐怖をこらえて助けを懸命に待っていたあなたはよくやった、とビアーは栗栖を激励する。生徒としても、事件の被害者としても非の打ちどころがない、模範的な対応だった、と
・「模範的」――その言葉を聞かされた栗栖は、わっと泣き出す。生徒会長としてかくあるべしと努め、模範的な対応を心がけても、守れるのは自分の命だけで、ずっとそばで見てきて、一緒に活動してきたはずの不動くんは守れなかった、と。栗栖秋奈は、あの事件当日に直接会って、止められなかった、不動錬磨の死に自責を感じていたのである
・対してビアーは、栗栖と錬磨の関係についてよく知らないながら、錬磨は自らの意志と覚悟で「命を使いきったのよ」などと栗栖に告げる。誰かの言いなりになったまま、誰かのために死んだわけではないはずだ、と
・ビアーの言い分には優しさも垣間見えていた。けれど栗栖をさっぱり慰めるには至らず、夕日差し込む教えの庭でむせび泣く彼女に、輪花はひとりの女子として抱きしめてあげることしたできなかった
・後日、栗栖は理事長室に呼ばれる。呼び出したのはビアーだった
・栗栖は「不動錬磨くんのお母様から、これ。彼の部屋で見つかったそうよ」とビアーに手紙を手渡される。それを渡すために呼び出した、としてすぐに栗栖は解放された(なお、この時点で不動結子は錬磨の死によって発狂しており、遺品整理などろくに進んでいない。それどころか着実に気を病み、自殺へと向かっている)
・栗栖が退室したのち、ビアーは理事長室のパソコンのボイスチャットで、スウィンドラーに|偽りの遺言《あんなもの》をわざわざこしらえたところで乙女の傷心を救えるのかしら、と不思議がる
・対してスウィンドラーは、優しい嘘も僕の領分さ、と答える。対してビアーは、探りを入れてきたという相手なのだから、先月の事件においては助けるつもりなどなく、カーフ(戸田凪)のように、むしろあの場で消えてくれて好都合だとすら思っているのではないか、とたずねる。だからこそあのような気休めを与えるのが不思議でならないのだ、とも
・するとスウィンドラーは、|僕みたいなやつ《ライバル》を増やすつもりはないんだ、ほら、真白の仕事人って裏方だから地味だろう、と前置きしつつ(対してビアーは目立たないのは顔だけでしょう、と返す)、まじめな彼女に復讐劇は荷が勝ちすぎている、せいぜい悲劇のヒロインを演じてもらうよ、と締めくくるのだった