「第二幕前半」
(キトン視点)・その日の夜の九時過ぎ、数あるグランドホテルの中から、あえて仕事人の役に立てるであろう「桜を愛でる会」の二次会が開かれるホテルにチェックインしたにもかかわらず、「竜苑が二次会に出席しない以上、二次会での暗殺というプランBは使えない」としてホテル生活がただの贅沢に終わったキトンは、女優としての仕事を終えて下積み時代から住んでいる安アパートの自宅へとタクシーで帰る道すがら、少し前にスウィンドラーから送信されてきたメール(この時点でキトンは知らないが、実はスウィンドラーの仲間たちみんなに送信されている)のことを思い返しては切歯する。
メールの内容はオウレットについてのことで、彼女の行方を捜してほしい、見つけたらすぐに報告してほしい、などといったもの。(アクトレスとして協力もした)竜苑への懲悪もそこそこに桜花の妹のことを気にするなどキトンからすれば当然に腹が立つことであり、いかにスウィンドラーからの頼みであってもこれについては協力する気になれずにいた
・そうして自宅前でタクシーから降り、自宅の階まで上がったところでキトンは紫黒色の髪と黄八丈のマスクが特徴的な女――アーテーが自宅のドアに背中を預けている姿を目にする(ここでアーテーはキトンが今まさにアーテーを目の当たりにするといったタイミングで、本来なら独白として描写すべきことをメタフィクション的に、己が台詞で説明し始める)
・招かれざるいやみな来客に、キトンはいっそう不機嫌になり、アーテーに目の前から失せるよう悪態をつく。対してアーテーはひょうひょうとしたエセ関西弁で、やれつれないだのなんだのと受け流す
・しかしてアーテーはスウィンドラーからのメールについて言及し、キトンのみならずほかの仲間にも同様のメールが入っていることをキトンに暗に伝える
・であればわざわざ自分がオウレットを探す必要はない、と自らを納得させるキトンだったが、対してアーテーはスウィンドラー一筋なのであれば当然、これも犬のように従順にこなすべきなのではないか、とおちょくるように尋ねる
・対してキトンは、ほかの仲間ならいざ知らず、あの部長の妹のことなんて願わくば考えたくもない、先んじて釘を刺されているからといっておとなしく我慢できるようなことじゃない、と気色ばむ。むしろすぐにでも始末したいと思っているため、探すということの一点のみに関しては本来ならつつがなくこなせる、とも豪語する
・するとアーテーはキトンがマダム・アクトレスであることに話頭を転じ、あれだけロールプレイができて、自分以外のキャラの特徴やらなにやらもほぼ完璧に記憶できて、おまけに女優業で鍛えた《《誰にでも成り代われるぐらいの演技と喉》》があれば、なるほど確かに行方を捜すのもそう難しくはないのだろう、と癪に障る感じで理解を示す(いわゆる「キトンは声まねもできる」といった感じ。キトンがパペティアに扮して錬磨から情報を引き出すというシーンの伏線とする)
・しかしてアーテーは、それにもかかわらず探さないというスタンスを示すキトンを「女主人公《ヒロイン》のオウレットを見つければ、題名役《タイトルロール》のスウィンドラーは大喜びやろうになあ」と残念がる
・そんな論調のアーテーに、それでもキトンは(それがスウィンドラーのためになるとわかっていても)納得しかねる。なぜならこのアーテーという女はキトンすら持て余すほどの人でなしであり、彼女の口車に乗るとろくでもない結末に導かれることが目に見えていたためである(アーテーのことについてキトン自体はそれほど詳しくはないが、「うちは感動したいだけや」などと言って多くの人間を不幸にしてきたことについては把握していたため)
・結局、アーテーはキトンの「いい加減失せなさい。それができないなら警察を呼ぶわ」みたいな台詞をわざとらしく怖そうに受け止め、仕方ないと言わんばかりにその場をあとにする。しかしながら、キトンの胸中には、アーテーが自ら動いた以上、彼女が誰かを不幸にしようとしているという懸念が渦巻き、どうするべきか(=スウィンドラーの頼みを聞くべきか聞かざるべきか)思い悩むのだった(結果的にはスウィンドラーのために、仕方なくオウレットの行方を捜すべく錬磨から情報を聞き出そうとする)
~試練・仲間・敵対者(輪花視点)~
※この期間の輪花は「(父親が事件に遭ったというゴタゴタやらショックやらの)家庭の事情で」学校を休む。学校に須佐美一家の手が伸びないであろうとはいえ、スウィンドラーの手が伸びる可能性があり、スウィンドラーに見つからないようにするにはそもそも登校しないという選択を取らざるをえなかったため(一応、かばんと制服は家出スタイルとして揃えていたので登校自体はできなくもない)
※取り調べで錬磨から「スウィンドラーの仕事」に須佐美輪花も関与していること、須佐美輪花の姿や特徴などを聞いていた通自は、すでに公式の捜査が迷宮入りしかけている須佐美竜苑殺人未遂事件における重要参考人として輪花を個人的に捜索していた。
輪花が食いしん坊であることなども錬磨から聞いていたことから、食べ放題のサービスを提供しているお店に重木と手分けして張り込みしていた通自は、そうしてたまたま張り込み先のお店で輪花を見つけたのである(食事中に声をかけなかったのは、警察官としてでなく個人的に捜査していた都合上、おおっぴらに行動できなかったため。そのほか、満腹の状態であれば輪花に逃げられることはないだろうとも考えていたため)
①日常の世界(サブ1)
・ふたたびの家出をした輪花は、廃棄寸前のパン類を万引きしていたかつてとは違って当座のお金には困っていなかった。したがって、明くる日のお昼は市内のデパートに入っているドーナツ屋さんで贅沢(輪花比)にもドーナツ食べ放題を堪能していた
・かくして六十分の制限時間内に48個のドーナツを完食し、(もう少しで五十個を超えられたのに、と悔しく思いながらも)満腹でデパートをあとにした輪花の前に、グレーのスーツを着たいかにも怪しげな金縁めがねの老人が現れる
・いきなり声をかけられ怪しむ輪花は、金縁めがねの老人が自らを警察官と明かしたことで自分の見立てが正しかったことを痛感する
・金縁めがねの老人こと警察官の通自供也は、輪花の父親の事件について悔やみ言のような世辞を述べる。対して輪花は(どうして自分のことを知っているのか、いぶかしみながらも)ひとまず品良く受け止める。だが、通自が輪花を呼び止めたのは竜苑の事件のことでなく、スウィンドラーのことについてうかがうつもりで呼び止めたのだ、と伝えた途端に輪花はよそ行きの態度を保てなくなってしまう
②冒険への誘い(サブ1)(輪花視点)
・今にも逃げだしてしまいそうな感じで後ずさる輪花に対し、通自はじりじり詰め寄りながら、
竜苑の事件の第一容疑者として取り調べをした錬磨がスウィンドラーのほかに輪花について言及していたこと、
錬磨の語った事務所はもぬけの殻で、通っているという学校には「家庭の都合」で欠席しており、このままではそもそも会えないので話を伺うことができそうもなかったこと、
そこで一計を案じ、錬磨から聞かされていた「輪花は食いしん坊」という情報を元に、部下と手分けして市内の食べ放題のお店を徹底的に張り込みしていたこと、
わざわざ食べ放題のお店に限定して張り込みしていたのは、食べ放題で満腹になったタイミングであれば逃げられる心配がないと考えたから、ということを輪花に語る
・通自はあくまで話を伺いたいだけで他意はない、と口にする。しかし輪花からすれば、自分は極道である須佐美一家の次期当主であり、また真白の仕事人ことスウィンドラーの助手でもあり、ただ話をするだけでことがすむようには思えなかった
③冒険への拒絶(サブ1)(輪花視点)
・輪花には逃げるが勝ちの精神があるとはいえ、通自の言うとおり、今は満腹でとても逃げられる状態ではない。さりとて上記の都合からおとなしく通自の言うとおりにするわけにもいかなかった
④メンターとの出会い(サブ1)(輪花視点)
・万事休すか、と思われたそのとき、通自の真後ろからフルフェイスのヘルメットをかぶったライダー男が通自の頭にいきなりフルフェイスのヘルメットをかぶせ、あごひもを思いきり締めだす。突然のことに通自は驚き、慌ててヘルメットを脱ごうとするも、ヘルメットの扱いに慣れていなかったことと、あごひもが強引に締められていたためにすぐに脱ぐことができなかった
・そんな通自に足払いをかけて転ばせたのち、ライダーは路肩に止めてあったバイクに乗りながら「乗れ!」的な声を輪花にかける。その声色やライダーの見た目からとっさにライダーの正体に気づいた輪花は、その声に従い、バイクに乗ったライダーの後ろにまたがり、両手をライダーの体に回す
⑤第一関門(サブ1)(輪花視点)
・輪花がバイクに乗るやいなや、「(手を)離すなよ」的なことを口にしながらライダーはバイクのエンジンを吹かす。すんでのところで通自の手は届かず、「老人相手にそれはご無体ですよ!」的な台詞だけが輪花の耳に届くのだった
①日常の世界(サブ2)(輪花視点)
・かくして警察官の追及を逃れた輪花は、ライダーのバイクに乗って市内の公園で小休止をすることに。ライダーがヘルメットを脱ぐやいなや、輪花は「楓兄さん!」と言いながらライダーに抱きつく。対してライダーこと楓一郎はタメ口と丁寧語の入り交じったどっちつかずの(困惑した感のある)調子で離れるよう訴える(ここからはまわりに須佐美の関係者がいないことを確かめたので、ふたりきりのときの調子でタメ口になる)。ここで桂楓一郎について、彼が須佐美一家の執事であること、輪花にとって兄のような存在であること、などを簡単に説明する
・楓一郎は竜苑(竜苑様呼び)の指示を受けて御園(御園様呼び)のもとへ戻ろうとしていたところに偶然見かけた輪花が、いかにも変人めいた何者かに絡まれているのを見てとっさに助け船を出した、などと言いつつ、いったいなにがあったんだ、と輪花に説明を求める。対する輪花は(相手が須佐美一家の関係者で自分を当然連れ戻すつもりだろうと警戒しつつも)ひとまずあの場で起きたことを(スウィンドラーのことなどをぼかして)説明する
②冒険への誘い(サブ2)(輪花視点)
・輪花が追われていた事情を軽く理解した楓一郎は、(面倒事に須佐美一家の次期当主を巻き込まずにすんだとして、自分の行動は正しかったと納得しつつ)それはそれとして、高校入学を機に家出した輪花を両親が心配しており、(竜苑は表面上は「ただの反抗期だ」などとあまり気にしていない様子ではあったが)特に御園様はいたく心配していたことを輪花に告げ、(執事の立場として)須佐美の実家に戻ってくるよう輪花を説得しようとする。竜苑様があのようなことになった以上、なおのこと実家に戻って面会すべきだ、とも告げる
③冒険への拒絶(サブ2)(輪花視点)
・楓一郎の言はもっともだったが、しかし輪花は自分が極道としての須佐美一家の在り方について納得していないことを皮切りに、小学6年生の頃から執事として一緒にいてくれた楓兄さんは須佐美一家の在り方が正しいと思っているのか、自分がその跡を継ぐことになんの疑問もおかしさも感じないのか、と尋ねる
④メンターとの出会い(サブ2)(輪花視点)
・すると楓一郎は、執事としての立場上、おおっぴらには言えなかったが、自分が須佐美一家の執事として勤めてから須佐美一家の裏の顔(加えて言及はしないが、烏野組現組長の口から聞かされた「竜苑がかつての執事を切り捨てた」という、執事である自分にとってもかかわりうるような聞き捨てならない話)を知り、正直なところこのまま勤め続けるべきか悩んでいたこと、さりとてバイトひとつ続かないほど気性に問題があった自分にとって友人にして協力者でもある古海星夏の助けを借りてようやくありつけた仕事先をいきなり手放すようなまねはできそうもなかったこと、なにより教育係にも似た形で輪花とかかわるうちに少なくともまだ須佐美一家の混沌に染まっていない輪花の先行きが気がかりでやめるにやめられなかったこと、などを打ち明ける
・しかして楓一郎は、輪花の兄代わり的な立場としては、輪花が進みたい道を進ませたいと思っていることを伝えつつも、かといって輪花の実の父親である竜苑が命を狙われ、入院にまで追い込まれた今、家出したままというのもまっとうではなく、極道と同じくらい悪いことだろう、とも輪花に言い聞かせる
⑤第一関門(サブ2)(輪花視点)
・楓一郎の気持ちを聞かされた輪花は、ひとまず自分を実家に連れ戻すことはしないでほしい、ここであったことも今しばらくは内緒にしてほしい、その代わりに近いうちに必ずお父さんかお母さんに顔を見せに行く、などといったことを楓一郎に要求する
・対して楓一郎は、これが竜苑様に知れたら大目玉じゃすまないぞ、として自身の先行きを憂慮するも、輪花の懸命なお願いにいよいよ折れて、輪花の要求を聞き入れるのだった
・最後に、楓一郎は輪花の髪色について、ところでなんだその髪は、みたいな感じで言及する。対して輪花は、楓兄さんに初めて会ったときからあこがれていた、楓兄さんとお揃いでいいでしょ、的なことを口にする。楓一郎は、自分が原因で輪花がまるで不良少女のような見た目になったことに対して、本格的に自分がもろもろの責任を取らされそうだ、と嘆息するのだった
~試練・仲間・敵対者~
①日常の世界(サブ1)(錬磨視点)
・そして、その日の夜に錬磨は輪花に電話をかけ、パペティアの指示どおりに輪花に自分がスウィンドラーから裏切られたことを告げ、輪花がスウィンドラーのもとを離れるように仕向ける(「パペティアの指示」については追々そのようなことがあった、と描写する)(ここは直接描写しない。あとでこういうことがあった的な感じで説明する)
②冒険への誘い(サブ1)(錬磨視点)
・ただ、「スウィンドラーと須佐美一家が敵だ」といったことをパペティアに言われていた錬磨にとって、輪花の語った心情やら事情やらはとてもパペティアの言うような敵としてのイメージにまるでそぐわず、「少なくとも須佐美輪花は敵じゃないのでは」といった感情を催すのだった(ここは直接描写しない。あとでこういうことがあった的な感じで説明する)
※パペティアが輪花をかき乱そうと思えたのは、錬磨の報告から竜苑を襲ったのがスウィンドラーないしはその勢力であろうと予想がついたため。つまり「スウィンドラーの敵≒須佐美一家≒須佐美輪花」の可能性を即座に思い浮かべつつも、同時にスウィンドラーが輪花を今の今まで懲悪していない点から「スウィンドラーの敵≠須佐美輪花」の真実をも(「(早々に懲悪しないのは)非合理的だ」と)見透かし、「断ち切ろうとしないだけの価値あるつながりがあるのなら、スウィンドラーをつり出すのに輪花は使える」と考えたためである
③冒険への拒絶(サブ1)(錬磨視点)
・さりとて錬磨にとって(パペティアの言が真実であれば)須佐美一家の現当主は、不動鍛造を切り捨てた≒不動家凋落の原因にほかならず、輪花ひとりを例外とするだけの余裕を持つことは難しかった(輪花を苦しめたり、迷惑をかけないようにするために竜苑を見逃す――といったことは到底できないため。どうあれ自分の目的、復讐を果たすためには輪花のことなど構っていられないのである)(ここは直接描写しない。あとでこういうことがあった的な感じで説明する)
④メンターとの出会い(サブ1)(錬磨視点)
・(このあたりで『①日常の世界(サブ1・錬磨視点)~③冒険への拒絶(サブ1・錬磨視点)』における錬磨の心情を回想的でもいいので説明、描写する)そんな数日前のことを考えながら、烏野組の事務所帰り(「烏羽のブレスレット」を受け取った帰り)で家路につく錬磨の横にベンツが停まり、アッシュグレーの髪色の見覚えのある女が「乗れ」と告げる。錬磨は疑うことなく乗る。女は錬磨に指示について確認しようとする。錬磨はパペティアから出された指示
「須佐美輪花をスウィンドラーをおびき出すためのエサとする」
「そのために輪花の不安をあおり、輪花がスウィンドラーから離れるように仕向けろ」
「輪花がスウィンドラーから離れてしばらく経った頃合いで輪花を所定の場所まで誘導しろ」
「誘導のための連絡が済み次第、こちらにも連絡しろ(烏野組がスウィンドラーの始末と輪花の確保のために待ち伏せる必要があるため)」
などについて述べる。そして数日前に指示されたばかりのことをなぜここで確認するのか疑問を呈する。対して女は物覚えの悪い人間は烏野組にいらないなどとして錬磨を試したかのような調子で(実際はつじつま合わせのそれっぽい出任せで)答え、そこら辺で錬磨を降ろす。錬磨は調子が狂うなあ的な感覚を覚える(それもそのはず、その女はパペティアでなく、彼女に変装して情報を探ろうとしたキトンだからである)(ここでキトンは錬磨が実質的に輪花を見つけるためのキーマンであると理解するも、同時にそれが烏野組の罠であることも知ってしまい、「輪花の行方が実質的にわかっている」上で「スウィンドラーを守るために当人に輪花の行方を伝えられない」というジレンマに陥る。
そんなキトンを破滅させるつもりで、アーテーはハイッセム教団の教主として烏野組とつながりのある自らが烏野組から引き出した同様の情報を(キトンを破滅させる≒スウィンドラーを生かすに当たっておそらくその状況下で最も役に立つであろう)弓弦へと匿名で流す。キトンならどうあれスウィンドラーのために動かざるをえないことを理解しているがゆえに――)
・そうして唐突にパペティア(に扮したキトン)と会ったのち、パペティアの指示である「輪花がスウィンドラーの元を離れた頃合いで輪花を所定の場所まで誘導しろ」「誘導のための連絡が済み次第、こちらに連絡しろ(烏野組がスウィンドラーの始末と輪花の確保のために待ち伏せる必要があるため)」などに従って錬磨はふたたび自宅へ帰ろうとする
・そんな折、錬磨は街頭の大型ビジョンに流れていた「自分が濡れ衣を着せられた事件のニュース」から、奇しくも竜苑が中央区の病院に搬送されていたことを知る
・ここで錬磨の胸の中から、竜苑に対する怒りが込み上げる。重傷、という報道からも、今なら自分ひとりでも復讐ができるのではないか、といった思いが湧き、とうとう自らの足で竜苑のもとへ向かう決心をする
⑤第一関門(サブ1)(錬磨視点)
・その日の夕方、錬磨は中央区の病院を訪れ、受付で「須佐美輪花さんからお父さんのお見舞いを頼まれてきました」的な口実(実際に輪花が家出していることを錬磨は借りたスマホから把握していて、かつ奇しくも輪花本人からも裏付けが取れており、父親である竜苑も娘のことで情報を欲するだろうことから、輪花を出しにすれば面会できる、という頭の悪い苦学生なりの計算に基づいた理由である)で面会を希望する(そのとき、受付から名前を聞かれた際に錬磨は本名を答える。不動の人間というのも竜苑からすれば(パペティアの言が真実なら不動家を切り捨てたことはある種のスキャンダルになり得る情報であるため)まったく無視できないだろう、という考えありきである)
・ほどなくして、錬磨は受付から面会の許可を得たため、さっそく竜苑の病室へと足を運ぶ。だが、いざ竜苑の姿を目にしたことと、竜苑のまるで不動鍛造の孫に対してなんの感慨もないかのような第一声に怒りを抑えきれなくなり、周囲の構成員のことなどお構いなしに竜苑に無理やり突撃する
・当然、錬磨は須佐美一家の構成員らに取り押さえられるも、竜苑が「離してやれ」と構成員らに指示したことで、一転してその場が静められる。
それから竜苑は不動鍛造の死についての真相と、かつての忠臣たる執事が命がけで桜花を助けようとしたこと、力及ばず助けられずに瀕死の重傷を負ったこと、しばらく(まだ決めてない。数か月から数年の間)ののちに目を覚ましてから桜花を助けられなかったことを知って悔恨の念を辞世の句として憤死したこと、などを告げ、しかして鍛造の件については竜苑自身も申し訳なく思っていることを錬磨に告げる(「申しわけないと思っている」ことは事実だが、それはそれとして、組の存続のために事件を嗅ぎ回っていた(なんなら真相に迫りつつあった)精鋼を放っておくわけにもいかず、須佐美一家の現当主として精鋼を始末するに至った。この点に関して竜苑は非情に、冷徹にやむを得ないことととらえ、自身の決断が間違いだったとは考えていない)
・最後に竜苑は、不動鍛造の死を招いたとある事件の首謀者が烏野組初代組長である烏野晴夜(すなわち烏野組が元凶)であること、その事件には二代目である現組長もかかわっていたこと、などを錬磨に告げる
・それを聞かされた錬磨は、一時は信じられないと答えるも、須佐美一家と烏野組が昔から抗争を繰り返していた(パペティアの口からも似たようなことを聞かされていた)ことから竜苑は嘘をついていないことを直感し、同時にパペティアが明確な悪意をもって「あたかも自分たちは不動家の凋落に無関係である」かのように見せかけていて、烏野組の目的のために錬磨を、不動家の末裔を利用しようとしていたことをも痛感するのだった(なお、錬磨は動揺やらなにやらのおかげで父、不動精鋼のことについて聞けずじまいに終わる。もっとも、これについてはパペティアから鍛造のことを聞かされた時点で怒りと憎しみによって聞こうという気持ちを失念してしまっているのだが……)