~急2~
・翌日。土曜につき学校こそ休みだが、新聞配達のアルバイトに休みはなく、ある意味でいつもと変わらぬ一日をすごそうとしていた錬磨。しかし自動車整備工場のアルバイトへ遅れぬよう昨日と同じ献立の早い夕食を取ろうとしていた錬磨の耳に、自宅の固定電話の呼び出し音が届く
・連絡先を交換した輪花からの連絡かもしれないとして錬磨はすぐに箸を置き、電話を取る。しかし聞こえてきたのはあのスウィンドラーの声だった
・突然すまないね、などとどこか空々しく謝罪したのち、スウィンドラーは一言、輪花から連絡先を聞いて連絡したことを告げ、次いで昨日の錬磨の度胸を見込んで頼みたい仕事がある、と続ける
・スウィンドラーの話から、錬磨はこれが輪花のいう仕事の手伝いなのだろう、と考え、(どういうわけか、このときに限って錬磨は言い知れぬ不安を感じるも)迷いなくやります、なにをすればいいんですか、などと尋ねる。それを聞かれたスウィンドラーは、これから仕事について説明するので必要であればメモか録音の準備をしてほしい、と応じる。錬磨は近くに置いてあったメモとペンを手もとに寄せつつスウィンドラーに説明の続きを促すのだった。
(錬磨の仕事というのは、特定の時間に角山のとあるポイントに置いてある「荷物」を見つけてほしい、というもの。その実態は、コウキが仕事を終えた後に証拠となるライフル類をしまったケース、ランドセル、あるいは袋的なものを錬磨が持っておくことで、事件の調査に来た警察に錬磨が暗殺の犯人だと誤認させるというものであり、端的に言えば錬磨がコウキの身代わりとして逮捕されることとなる。
スウィンドラーとしては、輪花を襲おうとしたかもしれない襲撃の首謀者あるいはその関係者として疑わしい人物のうちひとりである錬磨を始末しつつ、暗殺事件を早々に解決させることでコウキ含む自分たちに容疑を向けさせないようにするのが目的。
ただしコウキは暗殺の前日から狙撃地点でキャンプを張っており、狙撃銃のケースもアタッシュケースみたいな、いかにもそれっぽいものでなくランドセルであろうと予想されるため、錬磨が持ち運ぶには不自然なランドセルでなく、適当なナップサックか布に包んだライフル類を入れたレジ袋あたりになると思われる)
・角山の山頂付近、山道から外れた生い茂る草木のただ中にてコウキはゴーグル越しに狙撃銃のスコープをのぞき、角山公園の開けた会場、真白神宮の境内へと目を配る。石段を登る人間を背後から撃ち抜ける位置を確保したがゆえに、公園は所々が並木で見えず、境内はやや見上げる形となってしまい、一望はかなわない。
まずありえないとはいえ、引き金を引くチャンスが訪れないまま境内まで上られてしまえば狙撃はあきらめざるを得ないだろう、と自分の胸に言い聞かせつつ、コウキは「で、まる半日食い道楽に付き合ってやったわけか」などと通話相手のスウィンドラーにあきれてみせる
・対してスウィンドラーは、輪花ちゃんに怪しまれないようにするにはこれ以外にないと思ってね、などとやや覇気のない(まるでエネルギッシュな若者に振り回された大人のごとき)声色で応じる
・しかしてスウィンドラーは、そのおかげでこうして憂いなく懲悪に徹することができる、としてコウキの仕事には障らないといった論調で釈明する。対してコウキは、親殺しをするなどと悟られ、仕事の邪魔をされるよりはマシだな、などとしてひとまずスウィンドラーの言を肯定する
・閑話休題。そこでコウキはいったん狙撃銃を置いたのち、竜苑の顔写真を手にしながら竜苑の身長と体重、服装についてスウィンドラーに確認する。対してスウィンドラーはおととし刊行された地元紙の取材ページに載っていた身長体重を(おそらく大きく変わってはいないだろう、と補足しつつ)説明するも、服装については確認次第、またあとで連絡することにするよ、とやや半端に回答する
・スウィンドラーの回答にひとまずの了解を述べつつ、コウキはやはり連絡手段があったほうがやりやすいな、などと所感を述べる。しかしスウィンドラーは足がついては元も子もない、と返しつつ、この携帯もキトンが用意したものだからしょせんは期間限定の連絡手段にすぎないよ、と応じる
・対してコウキはあきれた調子で、少し前にまた新しい仲間を気安く誘い込んでおきながらよく言ったものだ、などと冷ややかに言葉を返す。するとスウィンドラーはきょとん、としたような態度で「なんのことだい?」などと疑問符を返す
・そこでコウキは昨晩、輪花から「着替えがなくてつらい」などといった愚痴と一緒に新しい仲間が加わったことを聞かされた、として(名前こそ知らないが)新入りの存在について言及する。輪花の言がある以上、とぼけようもない――そう思ったコウキだったが、しかしスウィンドラーはなぜか変わらず何のことだかまるでわからない、とでも言いたげな台詞を返す
・スウィンドラーが嘘をついているのか、はたまたあの輪花が嘘をついたのか。コウキはスウィンドラーの不可思議な反応を不思議に思うも、それを払拭しうる尋問をする前にスウィンドラーが「またあとで連絡するよ」などと言って通話を切ってしまったがために、降って湧いた疑問はわからずじまいに終わってしまった。
(スウィンドラーが錬磨についてあたかも「仲間ではない」と取れるニュアンスでコウキの質問に答えたのは、スウィンドラーにとってはたとえ相手がかつて世話になった不動鍛造の孫であったとしても輪花に害を為すか、あるいは懲悪を阻む可能性のある「敵」の疑いがある限り仲間とみなせないため。
にもかかわらず錬磨当人に対してはあたかも仲間のごとき態度で接するのは、単にスウィンドラーがペテン師であり、「実は仲間だなんて思ってないよ」などと馬鹿正直に伝える必要がなかったためである)
・しばらくののち、角山公園にて、形式上の主催である真白市長こと真白龍成(ましろ たつなり)の音頭によって「桜を愛でる会」が開催される。それから総理大臣によるあいさつと、招待された各界の功労者らへのねぎらい、総理を中心とした参加者へのあいさつ回りと進行していき、やがて功労者のさらなる発展を願う真白神宮参拝に向けて参加者一同は公園内の道を列になって進んでいく。
そんな人の群れを監視するうち、ついにコウキはスウィンドラーから(なぜか電話でなく一方的なメールによって)知らされた特徴と合致する服装の男を照準に収める。それは紛れもなく、今回のターゲットである須佐美竜苑その人だった
・極道とはとても思えない朗らかな顔つきで竜苑は両隣の男女と言葉を交わしている。なるほど、地元の名士としてあのように振る舞っているのなら余人にはとても悪人には見えまい――そう思いながらコウキは息を整えつつ竜苑を目で追っていく
・一路、真白神宮へ向かう「桜を愛でる会」参加者一同はいよいよ神宮に至る石段の前にたどり着く。列にはほどよい間隔があり、かつ石段を登るのはただ歩くより動きが少なく、照準を合わせるのに苦労はしない。にもかかわらず、コウキの指は呼吸はおろか意にさえ反して重く、おぼつかなかった
・理由は至極単純で、いつものようにコウキがこのような仕事をするのをよしとしないミツキによって精神をかき乱されていたからだ。ここでミツキとはコウキにしてみれば姉を自称するもうひとりの自分のようなものであること、軽んずるつもりこそない(むしろミツキのためならなんでもしてやりたいとすら思っている)のだが、さりとて傭兵として生きんとする覚悟を決めた鉄心をも解きほぐそうとする世話焼きぶりだけは今なお処置に窮していることなどを説明する
・コウキに手を汚してほしくないとして狙撃の中止を訴えるミツキに対し、コウキは傭兵となる以上は大義にしろなんにしろ、目的のために手を汚すのは当然のことだ、などと反論する。次いでコウキは輪花が竜苑の娘であろうことを前提として、親子である輪花より自分が手を汚すほうが輪花の精神的にはマシであろうこと、家出した娘を放っておきながら悪事の手をゆるめない親の風上にも置けない悪人をのさばらせたくないことなどを理由に挙げ、暗殺の邪魔をしないでほしいとミツキへ切実に訴える
・そうしてコウキは平常心を捨てながら、およそ無理やりにぶれた照準を竜苑の後頭部へと向け、引き金を引こうとする。その間際、ミツキはコウキの心に強く訴えかける。――これ以上、輪花から家族を奪わないであげて、と
・サプレッサーに殺された銃声ののち、凶弾となるはずだった狙撃銃の一射は竜苑の後頭部でなく、その右肩を貫いた。一刹那遅れて竜苑は体をびくりとすくませ、撃ち抜かれた右肩に手を当てながら立ち止まる。あろうことか、腕利きたるコウキの狙撃は暗殺対象の息の根を止めるには至らなかった(ここでコウキが仕事の遂行に失敗したという不安や悲壮感を大々的にあおり立てる)
・暗殺をし損じた衝撃も冷めやらぬうちにコウキはもうひとつの衝撃――すなわちミツキの言について当人に尋ねる。対してミツキは、かつて輪花には姉がいたこと、しかし輪花が生まれる前にその姉は他界してしまったこと、これらの事実をつい最近になって輪花が知ってしまったことなどを手短に説明する
・なぜミツキがそのようなことを知っているのか、思わず尋ねようとするコウキ。しかしそれはかなわない。なぜならスコープ越しに見える竜苑が、まるで撃たれたのを瞬時に理解したかのようにこちらのほうをまっすぐにらみつけていたからだ
・さすがは極道を束ねる当主というべきか、あの目は間違いなくこちらに気づいている――そう直感したコウキは、暗殺を完遂させようとしていた数秒前の意思を覆し、第二射の実行を断念する。たとえ対象を仕留めても自分が捕まっては元も子もないと、そう考えたのである
・そう考えた直後、コウキの携帯がバイブレーションを起こす。案の定、電話してきたのはスウィンドラーだった
・開口一番、仕事を切り上げるよう命じるスウィンドラーに対し、コウキは極めて癪ではあるがこちらもそのつもりだ、とスウィンドラーに同調する
・それなら話が早い、とどこか安心したように応じるスウィンドラー。しかしてスウィンドラーは、撤収する際にひとつやってほしいことがあると前置きし、適当な布に包むか袋に入れるかなどして狙撃銃を山道に置いていってほしい、と告げる
・もちろん指紋は残さないでね、などと気安く付け加えるスウィンドラーに対して、コウキはすぐさまふざけるな、などと返したのち、いったいなんのつもりだ、とペテン師の真意を問う
・しかしスウィンドラーはことの道理――すなわち、すでに竜苑に気づかれている以上、下手に手荷物をもって穏便に下山するなど難しく、まして凶器を携行するなど自首しに行くようなものだということを語る
・とても己が真意を語っているわけではないかのような言いぶりだったが、年季の入った手練れの極道集団が相手とあっては、確かに狙撃銃を持って下山するのはリスクを伴う、とコウキも一応の納得をする
・だが、だとしてもなぜ凶器を置いていく必要があるのか、とコウキはスウィンドラーに尋ねる。するとスウィンドラーはあまりにあっけなく、たった一言「大切な仲間を守るためさ」などと放言してみせるのだった
・折しもその日は「桜を愛でる会」の当日。当然、角山公園には参加者以外にも報道陣や物見に訪れた一般人がおり、その悲喜定かならぬ喧噪は遠く角山の山道を行く錬磨の耳にもかすかに届いていた
・指定された時間内に角山の山道にある荷物を回収する――スウィンドラーから任された仕事といえばたったそれだけのことで、真白の仕事人たる片鱗を垣間見ることさえ望めないような雑事のようだと、錬磨は思っていた。それでも烏野の傀儡師などという大仰な異名を取る人物が、ごく一般的で怪しくもなんともない男子高校生を使って用心深く調査をするほどの相手には違いなく、きっとこの仕事にもなんらかの意味があるのだろう、と考え、錬磨は山道に転がっている石ころひとつさえ見落とすまいと目をこらしながら歩を進めていく
・そうして山頂へと進む道すがら、何やら麓からの喧噪がやや大きくなったように思えたタイミングで、錬磨は山道にぽつんと置かれた迷彩柄のナップサックを見つける。落とし物にしてはすぐになくしたと気がつきそうなほどに大きく、不法投棄にしては(そこらの茂みに放り捨てるのでなく、わざわざ山道などという)人目につきかねない場所に置かれているのは不自然に尽きる。
そこで錬磨はあれがスウィンドラーの言っていた荷物なのではないか、と考え、なんの迷いもなくそのナップサックへと近づき、片手でひもを持って拾い上げる
・ナップサックはやや重く、持ち上げた拍子にこすれるような固い音が鳴った。気持ち焦げ臭いような匂いこそあれ悪臭がするようなことはない。『中身の確認はしないように』とスウィンドラーに言いつけられていた錬磨は、なんら疑いもせぬままそのナップサックを荷物だろうと思い、受取人が来るのを待とうとした。
だが、そんな錬磨のもとにまもなくやって来たのは受取人というにはあまりに青く、堂々とした制服姿の警察官だった
・このような場所にパトロールとは珍しい――そんなのんきなことを考える錬磨に、警察官はだしぬけに「ここでなにをしているのですか?」などと問いかける。さすがに「真白の仕事人さんから頼まれた仕事を~」などと話すわけにもいかず、「ここなら桜を愛でる会の様子もよく見えるかと思って」などととっさに出任せを口にする
・「桜を愛でる会」――その単語を聞いたとたんに警察官はいっそう顔をしかめ、後ろから合流してきたもうひとりの警察官となにやら不穏な目配せをする。しかして錬磨に話しかけたほうの警察官は、錬磨が持つナップサックについて「これはなんだい?」などと問いかける
・中身がなにかは錬磨もわかっていない。さりとてここで逡巡を見せれば怪しまれる――そう感じた錬磨は怪しまれないよう、あえて「見ればわかりますよ」などと快い態度でナップサックを差し出し、警察官ふたりに確認を促す
・そこで警察官ふたりは錬磨から受け取ったナップサックを開き、驚いた調子で顔を見合わせ、しばらくののち錬磨へ向き直るやいなや錬磨の腕を力強くつかんだ
・なんですか? と不思議がる錬磨。対して警察官は厳しい声色でもう一度「これはなんだい?」とナップサックの中身を見せながら錬磨へと問いかける。いったいなんだと思いながらも錬磨はナップサックの中をのぞき込み、そして戦慄した。
あろうことか、そこに入っていたのはテレビでしか見たことがなく、およそ日本国において余人が手にできないであろう銃火器、その分解されたようなパーツの数々だった
・よもやこのような物騒なものが入っているとは思ってもおらず、さすがの錬磨も寸時、言葉を詰まらせる。だが、余計なせんさくをされては仕事に支障をきたすと考え、とっさにこれはモデルガンですよ、などと錬磨は嘘をつく
・しかし警察官の態度が和らぐことはなく、錬磨に話しかけていたほうの警察官はすばやい手さばきで錬磨の手首に手錠をかけ、後ろから来たほうの警察官は無線機のようなもので「○○時○○分、○○と思われる○○を確保しました」的な連絡を行う。当然、錬磨はどういうことかを警察官らに訴えかけるが、警察官ふたりが聞く耳を持つことはなく、そのまま麓へと連行されるのだった。
ここでやや回想的な独白。「殺人を企てていたであろうスウィンドラーに利用された」がためにこのような唐突な逮捕へつながったと自分が気づかされたのは、「桜を愛でる会」の取材に来ていた報道陣からあまたのフラッシュをたかれながら警察車両に乗り込んだあとのことだった、といった感じの説明を入れる
・後日、17歳の男子高校生こと錬磨は警察官によって留置場の廊下を通って面会室へと連れられる。弁護士が接見を希望していると聞かされていた錬磨は、悪名高い真白の警察に捕まった悲運を改めて嘆かずにはいられなかったものの、呼んでもいない弁護士が助け船を出してくれる日本に生まれただけ自分の運もまだまだ捨てたものではないようだ、などとわずかな希望を抱きながら面会室の椅子へ腰を下ろす
・だが、弁護士との対面がかなったとばかり思った錬磨はその顔を見るや、たちまち一驚を喫してしまう。なにせガラス越しにあったのは弁護士の姿などでなく、自らを烏野の傀儡師と称したあの女の姿だったのだから
・(形式上は弁護人との接見ということで)退室する係員の警察官がドアを閉めたのを見計らって、烏野の傀儡師は開口一番「調査のほうはどうなっている」と淡々と錬磨に尋ねる。対して錬磨は力なく「ばかにしているのか」などと自虐的に言葉を返したのち、真白の仕事人はスウィンドラーと呼ばれていたこと、スウィンドラーの仲間に須佐美輪花という女子高生がおり、輪花はオウレットと呼ばれていたこと、スウィンドラーは錬磨の祖父である不動鍛造となにやら関係があるらしいことなどを語ったのち、最後にスウィンドラーは「桜を愛でる会」で起きた傷害事件において濡れ衣を着せるために仕事と称して錬磨を利用してであろうことを烏野の傀儡師へと恨みがましく説明する
・一通りの報告を受けた烏野の傀儡師は、そこで初めて口角をゆるませてみせる。対して錬磨は、たいした情報も引き出せないばかりか、こうして手ひどい仕打ちを受けたのだから当然笑いたくもなるよな、などと自らを皮肉るように返答するも、そこで烏野の傀儡師は、あの鍛造とこうも同様とあっては失笑するほかない、ひとえにこれが血筋というものか、などとして、けして錬磨の悲運をばかにしたつもりはないという旨を錬磨に伝える
・鍛造と同様――その言葉を聞かされた錬磨は、出会った頃に口にしていた「不動鍛造はどうしている」という台詞も含め、いったいあんたは祖父や自分たちについてなにを知っているんだ、とじれたように質問する。対して烏野の傀儡師は、有益な情報を調達してきた錬磨に、成功報酬のついでに教えてやろう、と前置きし、須佐美一家が極道であること、そんな須佐美一家に鍛造含むかつての不動家が従者として仕えていたこと、執事だった鍛造がとある事件にて身を挺して一家を守ろうとしたにもかかわらず、重傷を負い執事として復帰が難しいとわかるやいなや須佐美一家は鍛造を不当に解任し、切り捨てたことなどを語る(事実ではあるが、極めて悪意のある説明となっている)
・しかして烏野の傀儡師は形式的とはいえ一時はスウィンドラーの下に就き、仕事を任されていたにもかかわらずこうして裏切られた今の錬磨は、まさにかつての鍛造そっくりだ、などと錬磨を評する
・そんな評を聞かされ、とうとう錬磨は自分が輪花に抱いていた言い知れぬ感情に答を見いだす。自分が輪花に感じていたのは友情でも恋心でもなく、意識せずにはいられない従者としての血筋に刻まれた呪縛だったのかもしれない、と
・錬磨が迷わぬように向き合わず、頭の片隅に追いやっていたわだかまりを解消したところで、烏野の傀儡師は成功報酬は約束通り現金にするか、あるいは(どうせ留置場で現金は受け取れず、家に置いていっても使えないであろうことから)代わりに私選弁護士の雇用という形にでもするかを錬磨に問う
・対して錬磨は、祖父は自分が小学生の頃に亡くなったということを前置きしつつ、その頃から父親である精鋼が義憤に駆られたようになり、ほどなくして行き先も告げぬまま失踪してしまったと語り、不動家と須佐美一家の関係を知った今なら、父親が祖父の無念を晴らすべく須佐美一家の不当を暴こうとしたがために須佐美一家に始末されてしまったのだろう、と想像を述べる。なにせ父親は人一倍まっすぐで正義感の強い新聞記者だったから、と(ちなみに錬磨が新聞配達のバイトをしているのは、新聞記者だった父親のコネがあったため)
・そんな錬磨の絵空事のような確信を聞いた烏野の傀儡師は、このまま濡れ衣を着せられたまま惨めに裁判を待ったままでいいのか、自分たちを好き放題に利用した須佐美一家やスウィンドラーに復讐したいとは思わないのか、などと錬磨にささやく。
対して錬磨は、須佐美一家と同じ極道からの誘いを受ければ最後、もうかつてのような日常には戻れないだろうとして(そこで作中において初めて)迷うものの、(当時は日常をよりよいものにしたいがために引き受けたものの)思えば烏野の傀儡師からの調査依頼を受けた時点でとっくに日常を手放してしまっているじゃないか、と気がつき、やがてその悪魔のごときささやきを聞き入れ、復讐への道を所望するのだった