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スウィンドラーは懲悪せり 《桜花繚乱の一節》8【公開プロット】

~急3~
・『また襲われるかもしれないから、今後はここで生活するよ』などとして昨日のうちに別の事務所へと移されていた輪花は、(急すぎて持ってこられなかった衣類の替わりとして)新たに買ってきた着替えをタンスにしまいながら「どうして教えてくれないんですか」などと襲撃者についての情報を伏せられた不満を通話相手のスウィンドラーへとぶつける
・対してスウィンドラーは、本当に心当たりがないのかい? などと輪花に尋ねる。もちろん輪花は(須佐美一家などといった思い当たる節こそあれ、この場所を特定するばかりか白昼堂々襲いかかるような勢力に限っては)心当たりなんてない、と主張する
・直後、輪花は先日「恨むならレールを恨むんだな」的なことを言って自分を誘拐しようとした集団のことをはたと思い出し、しかしてそういえば、と前置きしつつ、少し前に自分がレールうんたらと口にする集団に誘拐されたこと、気がつけば錬磨に助けられていたらしいこと、などをスウィンドラーに説明する
・それを聞いたスウィンドラーは珍しく感情的な口調でどうしてそれを言わなかったんだ、などとほんの少しだけ不機嫌気味(表面上はあきれ気味)に言葉を返す。対して輪花はいろいろあって(厳密には、いかにして錬磨との取引をつつがなく終わらせるかに執心していたため)話しておくのを忘れていた、そも当日は帰宅した際にスウィンドラーが事務所におらず伝え損ねてしまっていた、などと釈明する
・しかして輪花は、ひとまず自分を襲おうとする存在といえばレールうんたらの集団くらいのもので、その集団についても無知であるためスウィンドラーから襲撃者について聞きたかったのだ、などと話す
・輪花の事情を聞いたスウィンドラーは、(すでにキトンが動いていた=先の襲撃も唯一事務所の場所を把握していたキトンの仕業であろうと確信できたため)であればなおさら輪花ちゃんには関係がなく、今後は心配もいらないよ、と輪花を諭そうとする。対して輪花は口惜しそうにうなったのち、少し間を開けてから、であれば代わりに別の質問に答えてもらってもいいですか、などと尋ねる
・どこか神妙な雰囲気を帯び始めた輪花に、スウィンドラーは「もちろんさ」と言って答えられる範囲でなら質問に答えよう、と応じる
・それを聞いた輪花は「じゃあ――」と前置きしつつ、スウィンドラーが真白の仕事人として活動しているのは本当に悪い人たちを懲らしめるためなのか、と尋ねる
・対してスウィンドラーは当然のように輪花の問いを肯定してみせる。そこで輪花は、ならドラさんの仕事を手伝っていたはずの副会長さんが逮捕されるように仕向けたのも、そのためなんですか? などと憂いを帯びた声色で尋ねる
・対してスウィンドラーは、自分たちの所在を知るよしもない襲撃者たちが事務所を襲ったのはちょうど錬磨が事務所にいたタイミングだ、などと前置きし、あの場に自分たちがいるという情報を唯一流すことのできた敵あるいは敵に与している存在だと断定せざるをえなかった、と釈明する。
 (※ただしこの時点ではキトンの手先であろうとしか考えておらず、襲撃者や錬磨が烏野組の組員たるあかしである烏羽のブレスレットを着用していなかったことから、よもや錬磨が烏野組に関与しているとはつゆほども考えていない)
・もちろん輪花は反論するべく言葉を継ごうとする。しかし、真白の仕事人についてなぜ錬磨が調べていたのか、ついぞ聞くことができず、そも真白の仕事人というワードについてもおよそ一般人が知り得ず、知る必要もない情報にほかならない。
 つまるところ、錬磨がなんらかの敵対勢力に関与していたとしてもおかしくはなく、スウィンドラーの言を否定するだけの反証を持たない輪花に反論などできるはずがなかった
・なにより、輪花にとって錬磨は自身の(混沌かもしれないという事実に気づいてしまったものの)平穏な環境を脅かす取引を持ちかけた存在であり、有事の際に味方になり得るとして従っていただけで味方そのものではない。
 結局、錬磨の潔白を主張するだけの理さえないと気づいてしまった輪花は、反論をあきらめ、スウィンドラーの判断をこそ理にかなっているとしておとなしく認める
・おとなしくなった輪花に対して、スウィンドラーはさも励ますかのような気安さで「仕方がなかったのさ」などと締めくくる。しかし輪花の心が晴れ渡ることはなかった。
 『悪い人を懲らしめるため』という目的が嘘偽りない真実であれば、須佐美一家の次期当主になるかもしれない輪花もまた、懲悪の対象にほかならない。あくまで順番が回ってきていないだけの話で、いずれは過去に懲らされた悪人たちと同じ末路を辿ることになるかもしれない――スウィンドラーの名状しがたい笑顔が目に浮かぶかのような気さくな声を聞いてなお、輪花の心には払拭しきれない不安が満ち満ちているのだった
・例のショットバーにて、通話を終えたスウィンドラーを横目遣いに見ながら、キトンはグラスのカクテルを片手で波立たせる。しかしてキトンはせっかく会えたというのにほかの人とたわいない電話に興じるなんてつれない、などと不満そうにしながらも蠱惑的に肩を寄せる
・対してスウィンドラーは真白の仕事人としてやるべきことをやっているだけだよ、などと前置きしつつ、こうして直接君と会うのもその一環さ、などとどこかよそよそしく言葉を返す
・スウィンドラーの微妙な態度の違いから、キトンはすぐにスウィンドラーはなぜ不機嫌あるいは怒っているのか、を問いかける。するとスウィンドラーは極めて冷厳に「オウレットに手を出したようだね」と詰問する
・キトンは臆しも悪びれもせず、「自分は」手出しの一切をしていない、と潔白を主張する。対してスウィンドラーは、じゃあ聞き方を変えようかな、などと言いつつ、「二度にわたってオウレットを襲わせたのは君だろう? キトン――いや、マダム・アクトレス」とさらに厳しくキトンを問い詰める
・そこまで核心的な聞き方をされては言い逃れはできないだろう、と考えたキトンはそこでようやく自分の仕業であると認めるかのような口調で、なぜそうだとわかったんですか? とスウィンドラーに尋ねる。
 対してスウィンドラーは、先の電話で「レール」のワードを口にした集団にオウレットが誘拐されかけたのを知ったことを挙げ、それだけなら疑うことしかできないだろうと前置きし、さりとて自分とその仕事仲間しか知らない事務所にまで襲撃があったとなれば必然、事務所の場所を知っており、なおかつ襲撃の動機があるキトンにしてマダム・アクトレスでもある君の仕業だと確信が持てる、と論拠を述べる
・しかしそれでは自分でなく、あの場にいたという男子高校生、そしてその男子高校生を裏で操ることも充分可能な須佐美一家や烏野組の仕業かもしれないですよ? とキトンは反論する。
 しかしスウィンドラーは、須佐美一家については不動家とのつながりはとっくに断たれており、それを復元するにも溝が深すぎる、として否定。
 烏野組についても錬磨と襲撃者らの手首に烏野組の組員が身につけるのを義務づけられている烏羽のブレスレットがなかったことから、(下手に外部の人間を使って情報漏洩のリスクを犯す組織でないという点も含めて)錬磨と襲撃者らが烏野組の手の者だとは考えにくく、したがって烏野組の仕業でもないと否定。
 消去法的に君以外には考えられないんだよ、とスウィンドラーは推理をもって追い詰めるかのようにキトンへと己が考えをたたきつける
・しかしてスウィンドラーは、どこか落胆したような調子でオウレットはあいつ(桜花)とは違うんだぞ、と告げる。対するキトンもそれについては表面上は同意しながらも、内心ではそういう問題ではない、と小さないらだちを募らせる(※このときスウィンドラーはあたかも「桜花とは関係ないんだからやめろ」と言いたげに話しているが、キトンが自分と親しくしている女性全般に敵意を燃やしているのは承知している。あえてあのような注意をしたのは、とりわけ桜花に対して敵愾心むき出しだった過去を鑑みて、(スウィンドラーにとって守るべき存在である輪花を)本気で始末しようとしているのかどうかを確かめずにはいられなかったため)
・そこでキトンは出来心だった、などとなよなよと謝りつつ、甘えた猫なで声でスウィンドラーへと許しを請う。対してスウィンドラーは(釘を刺すべく、あえて桜花が言いそうな感じで)七変化《ランタナ》のごとき「七つ子のキトン」にとって、その振る舞いが真であることを信じているよ、と述べたのち、やにわに席を立ちながら「それと、GPS機能の悪用はほどほどにね」などと言ってガラケーをキトンが着ている婦警の制服、その胸ポケットへと返却する(ここでキトンの服装から、輪花がキトンとのコンタクトを取ろうとした際に接触した婦警がキトン本人の変装であったことを暗に匂わせる)
・退店するスウィンドラーの背中を見送ったのち、キトンは「かわいそうな先輩」などとつぶやきつつ、独白する。スウィンドラーは錬磨もまたキトンの手先とでも思っているのかもしれないが、キトンにとって不動錬磨なる男子高校生はまったくのイレギュラーであり、なんらかかわりのない存在であることを――

※ネネ子は新たなスウィンドラーの仲間が女性だと知り、悪い虫を排除するかのように輪花を隠密裏に放逐しようとする。手段はあくまで自分の存在が露呈せず、自身の変装、声まねといった変身技能を生かした陰湿かつ安全なもので(たとえば警察に扮して輪花を逮捕させようとしたり……)
※ネネ子の出題を解く手がかりを見つけたことで「かつて亡くなったスウィンドラーの幼なじみが自分の家系、すなわち須佐美の人間だった」ことを知り、ひいては「その事故の関係者はまだ懲悪されきっていない≒須佐美の人間である自分も懲悪されるかもしれない(あるいは懲悪するために自らの助手として近くに置いているのかもしれない)」と考えてしまい、輪花は疑心暗鬼になってしまう
※本章の年における真白の桜は例年より遅めの開花となる設定にしておく。具体的には5月下旬(ざっくり20日あたり?)。

※後半部分の錬磨のその後的な描写は、先に書いちゃうと悪い意味で読者に安心感を与えてしまうと感じたので、今回は書かないこととする。
 一応、そのとき書こうとしていた文章を以下にコピーする

 犯罪者だと誤解された苦学生の取り調べは『言い逃れは通じません』『罪をお認めになったほうが
賢明ですよ?』の一点張りだった。
『銃の使い方? 知るもんか。こっちはふつうの男子高校生だってのに』
 いくらそう訴えてもお構いなしである。
 やれ『桜を愛でる会』の進行中を襲った卑怯者だ、真白に名だたる須佐美竜苑氏を殺そうとした凶
悪犯だ、なんてあることないこと――いや、ないことばかりだ。とにかく真白中央警察署に連行され
てからの一、二時間ぐらいはマジでまくしたてられていただろうか。
 だが、警察による強引な取り調べは急に終わりを告げた。
 先生に疑われたいじめっ子が手のひらを返すように、捕まえた張本人が誤認逮捕を認めたのであ
る。

『あの場にあなたがいたことも含めて状況証拠は揃っており、押収された凶器によって銃撃がなされ
たことも鑑識が証明した、にもかかわらず、証拠不十分につき釈放せよと先ほど署長が仰せになりま
した』
『銃がひとりでに撃発するなど通じません、自然発生的な暴発も銃を配置するための人為がまず不可
欠であり、ただちに否定されましょう。――角山にいた人物が犯人なのは紛れもない真実なのですが
ねえ』

 警察署をあとにした今でも、もどかしさがにじみ出たジキョウのしわくちゃ顔はまぶたに焼きつい
ている。できればもう二度と味わいたくない体験だ。
「取り調べが続いてたらマジで犯罪者になってただろうなあ」
 錬磨はバックミラーに映り込んだアッシュグレーの長い髪を見る。
「やっぱりさ、あんたのおかげで釈放されたってことでいいのか? ――パペティア」
「さあな」
 パペティアは中央区内の立体駐車場でベンツを停め、助手席でお座りをする真っ黒な大型犬――ジ
ャーマン・シェパードという犬種らしい――の頭に左手を伸ばす。
「『桜を愛でる会』に潜り込ませていた部下の報告を受け、剣持に中央警察署の花ヶ崎へ確認させ
た」
「花ヶ崎?」
 聞き覚えのない名前をオウム返しに言う錬磨に対し、パペティアは「署長だ」と吐き捨てるように
答えた。
「烏野組の関与を疑い、様子見を選んだ。てめえの話どおり確証がなかった。いずれにも解釈でき
る」
「」

※「烏羽のブレスレット」について、この段で書くとくどい気がしてので次段、次章に持ち越しとした。以下にそのとき書いた文をコピペする

「はあ」
「烏野組の下っ端はみな袖口の下にブレスレットを身につけている。烏羽と当人の体毛を編み込んだ
構成員の|手かせ《あかし》をね」
 
「事務所を襲ったふたり組には|烏羽のブレスレット《それ》がなかった。そんなやつらが須佐美一家に命令さ
れた――なんてそこらのごろつきじゃ絶対につけない嘘をつき、のちにオウレットが君とのつながり
を教えてくれたんだ。」

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