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スウィンドラーは懲悪せり 《桜花繚乱の一節》5【公開プロット】

・ところ変わってスウィンドラーの事務所。普段であれば余人が招かれる領域ではないが、その日に限っては別だった。なにせそこには「採用面接」なるもののためにパイプ椅子に座らされた錬磨がいたからだ
・錬磨は内心にて、烏野の傀儡師とはまた違った空恐ろしさ、あるいは気味の悪さを眼前に見える白髪頭に抱きながら、こんなことで本当にうまくいくのか、などと不安に駆られる。ここで事の発端は2時間前に遡る、などと称して場面転換する
・錬磨は緊張の面持ちでからんころんと小粋な音を鳴らすドアをくぐる。常から金欠な錬磨にとってファミレスはもとより、このようなしゃれた喫茶店を利用するなど初めてのことであり、手持ちのお金で支払いができるか、ぼったくられやしないか、などとくだらない不安にやきもきしていた
・一方、同伴する輪花は臆面もなく窓際のテーブル席へ座るやいなや、すみやかに机上の呼び鈴を鳴らす。ここで迷いを見せては「弱みを握っている」という己が立場の強みを損なってしまうと考え、錬磨もまた堂々とした足取りで輪花の前に腰を下ろす
・錬磨がこのような喫茶店を訪れたのは、昨日のバス内にて今後のことを話し合うために放課後の生徒会室前での集合を今日付けで約束していたものの、合流した輪花から「校内よりは話しやすい」という理由で前々から行きたかったという店まで案内されたがゆえである。
 ここで錬磨自身は友人同士の語らいではないので相談場所にこだわりがなかったこと、結果として輪花にペースを握られそうになるくらいならノープランで約束を取りつけるのではなかったと後悔していること、などを説明する
・注文を取りにやって来たウェイターに対し、開口一番、輪花はそらんじていたのであろう「カステラサンド」なるスイーツの注文を、メニュー表に目を通すことなくしてみせる。ここで錬磨はメニュー表を開き、カステラサンドなるものがつぶあんと黒蜜を薄いカステラで挟んだ、妙にレトロじみたスイーツであることを知る
・すかさず輪花はメニュー表を開き、たった数秒でミルクティーと焼きプリンの注文を追加する。弱みを握られながらこちらの相談を受けているのではなかったのか、などと錬磨があきれていると、輪花は錬磨のほうを見ながら副会長はなにも頼まないのですか? などとあっけらかんに尋ねる
・対して錬磨は普段の自分なら金欠なれど、今の自分には多額の前金があるということを思い出し、務めて堂々とコーヒーをホットで注文する。ふたりの注文を聞き届けたウェイターは一礼したのち、カウンターへと戻っていく
・注文したスイーツに舌鼓を打ちつつ、前から気になっていたんですよー、などとカステラサンドについて気さくに語る輪花(しかしながら、内心ではいかにして錬磨を味方につけようかと目下、悩んでおり、一連の振る舞いは道連れ計画(仮)を遂行するためのポーカーフェイス(のつもり)にすぎない)。
 対して錬磨はコーヒーにミルクと砂糖を入れたのち、輪花の話をさえぎるように本題――すなわち真白の仕事人の懐に潜り込むための話し合いに入る。対して輪花は寸時どぎまぎするも、話の腰を折ることなく会話のイニシアチブを錬磨に譲る(へたに逆らって怪しまれては元も子もない、などと考えたため)
・一方の錬磨は、真白の仕事人について調べるのに自ら接触するのはリスキーであるのは承知しているが、肝心の輪花が詳しくない以上、より確実で直接的な手段に出ざるを得ない、などと考えを述べる。対して輪花は、そもそもどうして副会長はドラさんのことを調べようとしているのか、などと尋ねるも、須佐美がそれを知る必要はない、などと高圧的にお茶を濁す
・(家出の件という弱みをつかんでいるということは、場合によっては自分の家系もとい須佐美一家の裏の顔についてもつかんでいる可能性は捨てきれない――ともするとこの男子高校生もまた裏の人間なのかもしれない、と思い直し、)輪花はせんさくしたことをさりげなく謝罪(して機嫌を取ろうと)する。
 謝罪を受けた錬磨は話を戻す、と前置きしつつ、確認として、先日の通話相手のような情報源はないのか、と尋ねる
・対して輪花は(内心ではコウキならあるいは、と思い浮かべるも、せっかくかつての仕事で悪い道に向かわぬよう努めたというのに、ここで巻き込んではその努力がむだになる、と考え、)思い当たる人物はいない、などと錬磨に伝える
・輪花の返答を受けて、錬磨は「であれば直接調べる方法をとるしかない」などと述べ、仲間という形でごまかしてどうにか近づけないか、などと輪花に案を求める
・言われた輪花はうなるように悩んでみせる。
 (思えば、自分がスウィンドラーにスカウトされたきっかけは期限間近の食品を盗んだことを人知れず暴かれたことであり、そこからのちに採用試験だとわかった怪しい集団への接触と逃避を経て(ついでに居候できるという条件付きで)助手となった。言い換えれば最初から望んでいたわけでなく、なし崩しに近い形式で、スウィンドラーに終始ペースをつかまれたまま仲間として取り込まれたにすぎない)。
 (つまりはスウィンドラーが輪花を仲間にした根拠については「盗みの腕を見込まれたからかもしれない」という漠然としたものしか挙げられず、さらに言えば懲悪対象であろう須佐美の人間(と、少なくとも生徒手帳を見た時点で把握できていた)とおぼしき輪花をなぜ仲間にしたのかという点についても不明であるため、どうすればスウィンドラーが錬磨を仲間にしてくれるのかは、仲間であるはずの輪花本人でさえわからなかった)
・(無視できない不安要素があるが、さりとて輪花の頭では妙案をひらめくこともかなわず、結局)輪花は多少強引であるものの、どうにかして錬磨をスカウトしてもらうように直接働きかけるしかない、と結論づける(あわよくば、スウィンドラーが自分を怪しんでいるとわかった後にすかさず錬磨を巻き込むことで一蓮托生の味方にできるかもしれないこと、あるいは錬磨を他勢力からのスパイだとでっち上げ、懲悪の矛先を逸らすと同時に輪花が無害であるという証明ができればいいと考えていること、なども可能なら説明ないしは描写しておく)。
 そうして場面は面接を受ける錬磨の場面へと戻る……
・面接で聞かれそうな、聞かれなさそうな、いまいち理解しかねるような質問をスウィンドラーから受ける錬磨。持ち前の迷いたくない性格を生かして立て板に水のごとく当たり障りのない(いかにも学生があらかじめ考えていたような)返答を繰り返す
・そんな中、ふと思い立ったような調子でスウィンドラーは錬磨の両親について尋ねる。そんなことまで話さなければならないのか、と気後れする錬磨。対してスウィンドラーはなら、と前置きしてからお父さんの名前は不動鍛造だったりしない? などと尋ねる
・不動鍛造。その名前を聞いて錬磨は多少驚きながらも、父親でなく祖父がそうだ、と応じる。それを聞いたスウィンドラーはなるほど、と合点がいったような言いぶりで、どうりで錬磨の名前にどこか懐かしいような雰囲気を感じたわけだ、としきりにうなずいてみせる
・スウィンドラーが意外な台詞を口にしたことが気になり、錬磨は祖父の鍛造についてなにを知っているのか、そもどういった関係があったのか、などを尋ねる。対してスウィンドラーは鍛造を不動さんと呼びながら、不動さんには若いとき世話になったことがあってね、と懐かしむようにつぶやく
・しかして感慨を置いておくかのように「それはさておき」と言葉を継ぎ、スウィンドラーは世話になった人のお孫さんであればこそ、気安く仕事の手伝いをさせるわけにはいかないだろう、などと告げる
・(それでは計画が狂って困るため)面接に同席していた輪花はそんなことを口にするスウィンドラーに対して、錬磨は必ず役に立つ、自分の目に狂いはない、などと詭弁を弄するかのように弁明を始める。そんな輪花の姿を前に、錬磨はほとほと頼りにならないやつだ、などと内心にて輪花にあきれる
・輪花と錬磨の計画に暗雲が立ちこめてきたそのとき、不意に事務所の窓が割れ、およそ火の粉とは言いがたい火の塊が室内へ向けて飛び散った。火は見る間に床やテーブル(に置かれていたよく燃えそうなスナック菓子)へと引火し、その瞬間を目の当たりにした錬磨と輪花は一驚を喫する。部屋に飛んできたのはかつての日本で猛威を振るった凶器、火炎瓶だった
・特に錬磨は驚きのあまりパイプ椅子から飛び上がり、情けない声を上げながら一瞬でテーブルから離れるほどで、いったいなにが起きたのか、少しも理解が及ばなかった
・一方、輪花は驚いたそぶりこそ見せたものの、すぐさまドラさん! とスウィンドラーに呼びかけ、スウィンドラーからキッチンにある消火器を使うよう指示をもらう。その様子からはパニックに陥りがちな一般人らしさなどほとんどなく、まるでこのような事態になれているように錬磨は感じさせられる
・そんな中、輪花に指示を飛ばしたスウィンドラーは「そんなばかな……」などとこぼしつつ意想外な目を見せるものの、すぐに錬磨の名前を呼び、しかしてせっかくだから採用試験は実技形式といこうか、などとおどけるような口ぶりで放言する
・スウィンドラーの発言をうまく飲み込めない錬磨。対してスウィンドラーは「さあ実力行使だ! 君が役に立つかどうかは君自身の手で証明してごらん!」などと言いつつ、靴も履かずに割れた窓から豪快に飛び降りていく。
 さらに窓を砕いていったスウィンドラーの奇行に錬磨はやはり困惑しきりだったが、かろうじてわかるのは何者かが火炎瓶を使ってこの事務所を強襲したということのみ。すなわちスウィンドラーの言う「証明」とは襲撃者の対処、その手腕なのだろう、と錬磨は考える
・普通であれば事件として警察に通報するのが筋だが、とはいえ錬磨は携帯を所有しておらず、ましてや警察に頼るようでは錬磨が役に立つという明確な証明にはまずなり得ない――結局は迷う暇もなければ、選択の余地さえないじゃないか、と錬磨は絶望しながらも、それでも部分的に燃えている室内を目の当たりにしてことは一刻も争うことを肌で感じ取り、ばっとスニーカーに足を入れつつ玄関から飛び出していく
・玄関を出てすぐに錬磨は今まさに階段を上がろうとしていた男ふたりを目撃する。手に武器らしきものを持っているとだけ認識した錬磨は、しかし不意の接敵で男たちが硬直しているこの一瞬の隙を逃してはだめだ、と考え、破れかぶれの体で男たちへと飛びかかる
・錬磨による捨て身の跳び蹴りが男の胸もとに突き刺さる。勢いそのままに男を地面にたたきつけながら、どうにか錬磨は体勢を崩さずに着地を果たす。
 跳び蹴りによって男ひとりは完全に気絶させられたものの、もうひとりの男はうまいこと待避していたようで、錬磨の特攻に驚きながらもけがひとつとして見られなかった
・残った男は相方がやられたことで戦闘態勢に入る。手には容易に隠し持てるであろう折りたたみ式ナイフが握られていた
・たとえ小学生が使う15センチ定規より短い刃渡りといえど、人を傷つけるには充分な凶器であり、突き刺されれば命すら危ぶまれる。突然垣間見えた死線に錬磨は寸時ひるむものの、(相方を倒した以上、見逃してもらえないことが明白なので)迷ったところで命は拾えない(加えて自分が逃げれば消火活動中の輪花が狙われてしまう)、とすぐに腹をくくる
・錬磨はウォークライさながらに叫びながら男へと突進する。対する男は自分より小柄な錬磨が相手なら勝てると思ったのか、切っ先を錬磨に向けながらナイフを前に構え、迎え撃つような体勢を取る
・腹をくくったといえどもしょせんはただの男子高校生。ナイフを構えられたことで危機感を覚え、男からおよそ2メートル手前で足を止めようとしてしまう。それを好機と判断したらしく、男はナイフを持った右腕を振りかぶりながら錬磨へ接近する
・振り下ろされるナイフに錬磨は情けない声を上げながら必死に体をねじる。とっさの回避によってナイフは一時空を裂いたものの、男が攻撃の手をゆるめることはなく、ナイフによる攻撃と錬磨による情けない回避が何度も繰り返されていく
・そんな応酬も、錬磨が壁際まで追い込まれたことで決着する。男は錬磨を追い詰めたとでもいうようにナイフの切っ先を錬磨に向け、しかして錬磨の心臓めがけて突き込もうとする。対する錬磨は当たれば死ぬという恐怖から思わず前方に手を出してしまう
・だが、錬磨の無意識は恐怖をものともせず、伸ばされた手をもって男の腕をぐっとつかんでナイフをすんでのところで止めてみせる。意外にも男と錬磨の筋力は互角で、錬磨の全力によってナイフが錬磨に迫る気配は感じられない。そこで錬磨は意を決して脚を突き出し、男の腹部を思い切り蹴りうがつ
・視界外からの反撃に男は低く短いうめき声を上げながらよろめき、一歩、二歩と後ずさる。なおも恐怖を抑えきれない錬磨にある意味衝動的だった反撃の勢いを抑えることはできず、荒削りな身のこなしで素人丸出しのこぶしを男へと放つ
・男が顔を上げたときにはもう遅く、錬磨の力任せな右フックは男のあごを真横から揺さぶり、ゆがませ、そのまま男の体を右フックが流れていくほうへと倒していった。男が白目をむきながらほおを地に貼りつける様を目の当たりにしたことで、ようやく錬磨は目の前の男を撃退できたのだと実感し、安心感から脱力するままにしりもちをついてしまう
・そこへ折良くスウィンドラーがやってくる。錬磨より背が低く、やや頼りない体格にもかかわらず、スウィンドラーは伸びている男の足首を片手で持ちながら引きずっていた
・スウィンドラーは軽々しくそっちも片付いたようだね、などと言いつつ、自分よりひとり多く男を倒した錬磨を見て「あちゃー、数では僕の負けかー」などと言ってのける
・ひとまずスウィンドラーの乗りに合わせつつ、錬磨はやおら立ち上がる。それから凶器をもって自分を傷つけようとした男を指して、この男たちはいったい何者なのかをスウィンドラーに問う
・対してスウィンドラーは「それについてはあとで本人に聞き出しておくよ」などと言って暗にわからないと告げる。
 奇妙な面接を行ったり、自分の祖父とかかわりがあったり、突然事務所に火炎瓶を投げ込まれたかと思いきや呼吸をするように迎撃したりと、尋常ならざるあれやこれやを頭に浮かべては理解に苦しむ錬磨。そんな錬磨に対してスウィンドラーは、ときにはこういった荒事も仕事に含まれる、と前置きしつつ、それでも君は諸悪を懲らすために力を尽くそうというのかい? と錬磨に問いかける
・ここで錬磨はスウィンドラーの「採用試験」というワードを思い出し、結果として男ふたりを倒したことで(錬磨自身、具体的になんの力かは考えていなかったが)実力を認めてもらえたようだ、と安堵しつつ、スウィンドラーの問いに迷いなくイエスを宣言する(しかし実際にスウィンドラーが合格を出そうと思っていたのはこの問いに対する返答、その真意を確かめてからであり、錬磨がここで「嘘(というよりは心にもないでまかせ)」を口にしてしまったことでスウィンドラー的には不合格。
 にもかかわらず合格としたのは、錬磨が不動鍛造の孫である以上、須佐美一家と通じている可能性を捨てきれず、ようやく保護できた輪花に害を及ぼすか否かを確かめる必要があったため。
 結果として、錬磨が須佐美一家でなく烏野組に通じていると知ったことで、スウィンドラーは錬磨を(恩義のある鍛造の孫であると承知の上で)切り捨てようと考える)

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