~破2~
・スウィンドラーについて調べる。口で言うのは簡単だが、実のところ、助手を務めて1か月ほどになる輪花でさえスウィンドラーの素性については不明な点がこれでもかとあった。むしろわかることのほうが少ないというありさまだった
・ここで普段のスウィンドラーについての説明。輪花を伴わない仕事は基本的に告知なくふらりと出て行っては片付けてしまうこと、贅沢はしないがお金については渋るそぶりも見せない(それぐらい資産があるように見える)こと、ついでに食事はもっぱら買い食いで、かつ熱いものはまず口にしないこと、などを説明する
・よって輪花にとっては「こっちのほうがマシ」というだけで、スウィンドラーの調査もまた難儀を極める。そこで輪花は放課後、助手として自分より長くスウィンドラーとかかわっているコウキに連絡を取っていた
・電話越しにコウキはあきれた調子でなぜエゴイストのことを知りたがるのか、などと尋ねる。もちろん素直に答えることなどできず(答えればスウィンドラーへの利敵行為とみなされ、その助手たるコウキとも関係が悪化してしまうと考えたから)、輪花は今まで仕事の手伝いをしてきたけれど、ふと思うとスウィンドラーのことについてなにも知らないことに気づいた(ので興味が出てきた)からだ、とお茶を濁すように答える
・輪花の気まぐれかと考えたコウキはひとまず輪花の考えを受け入れつつも、しかしスウィンドラーを嫌うがゆえに自分もスウィンドラーのことについてはあまり詳しくはなく、おそらく輪花の役には立たないだろう、と応じる
・コウキの言に輪花はひどくがっかりする(錬磨の望みに応じられなければ自分の生活が混沌に帰してしまうため)。するとコウキはでも、と前置きし、スウィンドラーに与するほかの仲間――とりわけ最古参であるというキトンであれば、少なくとも自分よりはずっとエゴイストにも詳しいはずだ、として、輪花にキトンとの接触を提案する
・渡りに船。そう思った輪花はすぐさまその提案を飲み込み、コウキ主導でキトンとのコンタクトを図ることとなった
・その日の夜、輪花はコウキに指定された真白中央区の地下歩行空間にあるロッカーの前で伝えられた番号のロッカーを探す。
ここで回想風の説明。コウキがアポイントメントを取りつけたキトンという人物は情報収集をもっぱらとする斥候のような存在であること、ほかの仲間とは比にならないほどスウィンドラーに心酔あるいは耽溺しているように見えたこと、公私ともに面と向かって会うことを避けており、それゆえこのような形での接触となったことなどを説明する
(ここで説明するキトンもといネネ子の特徴、特に「スウィンドラーに耽溺している」という点は、(主観的に見て)スウィンドラーのためならどんなことでもする≒輪花のようなスウィンドラー(とネネ子自身)にとって無用な存在は徹底的に排除するということであり、輪花を襲わせた首謀者がネネ子であることへの伏線みたいなものとなっている。なっていてほしい……)
・輪花は指定のロッカーを見つけ、その取っ手に手をかける。ボックス型のそのロッカーはカギがかかっておらず、輪花の軽い力でいともたやすく開かれる。中には見るからに古いガラケーとふくらんだ茶封筒がひとつずつ、ぽつんと置かれていた
・カギをかけないとは不用心な、などと思いつつも輪花はガラケーと封筒を手に取る。電源はすでについているようで、輪花はすぐにキトンとのやり取りは顔をさらさずにすむ音声通話で行うのだろう、と予想する
・しかし、次いで茶封筒を確認した輪花は期せずして背筋が凍る思いをする。見ると、茶封筒の中には断面からしてそうとわかる札束が入っていたのである
・いったいなぜこのような大金がカギすらかかっていないロッカーに――そう考えていた直後、輪花は青々とした婦警とおぼしき女性に「そこでなにをしているのですか?」声をかけられる。
警察という輪花の(ある意味での)天敵を前に、輪花は思わず言葉を呑み、スムーズな受け答えに失敗する。次いで婦警はここ最近になってとある詐欺グループによる被害が真白市で頻発しており、(受け子の可能性を考慮して)こんな夜の地下歩行空間に女の子がひとり、ロッカーの前でなにをしているのか、を輪花に尋ねる
・輪花は即座に直感する。このまま職務質問を受ければ自分がその詐欺グループの一員であると誤解されてしまう、と。
「三十六計逃げるにしかず」。ここで輪花は己が領分ともいえる逃げの一手を打つ。輪花は唐突に横へ見向きながら「急いで!」と叫び、婦警の注意を逸らす。その一瞬を狙って輪花は真逆の方向へと駆け出す。ここで輪花がこのまま逃げてもじきに追いつかれてしまうであろうと気づく描写をする
・逃走に気づいた婦警は輪花の跡を追おうとする。しかし輪花が地上へと上がったところで婦警は輪花の姿を見失う。階段までは一本道だったにもかかわらず、どういうわけか輪花の姿がこつぜんと消えてしまったのである
・いったいなぜ――そう思った矢先、婦警の目にあるものが留まる。それはアスファルトに置き捨てられた輪花のミリタリージャケットだった
・ここで婦警ははたと気づく。自分が把握していた輪花の格好は、腰の下まで覆っていたこのジャケットのみであり、これが輪花の体をさながら隠すように機能していたがゆえに脱ぎ捨てられたあとの格好に気づけず(というか確認できていなかったため)、見失ってしまったのだと。
端的に言えば、手品のような早変わりに相違なく、ジャケットを脱ぎ捨てた輪花の姿がわからない以上、探しようがない。つまりはそういうことだった
・1回きりの逃走術によってどうにか婦警から逃れた輪花。しゃにむに走っていたため気づけばスウィンドラーの事務所近くにまで達していた
・そこで不意に聞き慣れない着信音が鳴る。もしやと思い、輪花はスカートのポケットからガラケーを取り出すと、案の定、それがメロディを奏でていた
・輪花はやたらうるさいその着信音をならすガラケーを開き、番号非通知と表示された電話を受ける。すると、よくあのピンチを切り抜けたにゃ、などというやたら軽々しい声色が輪花の耳を伝う。すぐに輪花はもしやと思い、スウィンドラーから生徒手帳を取り返そうとした際のスウィンドラーいわく「試験」のように、あのシチュエーションをセッティングしたのはあなたですか!? などと尋ねる
・対する謎の人物はイグザクトリー、などと答え、あの程度でお縄にかかる鈍くさいやつに真白の仕事人を助ける仲間は務まらない(実際は単にスウィンドラーに悪い虫がつくのをよしとしていないから)、ときっぱり言い切る
・どうしてこう裏の人間(であろう人)は気安く人を試したがるのか、とあきれつつ、輪花は本題を切り出す。果たしてスウィンドラーについて教えてくれるのか、と
・すると謎の人物は高笑いしたのち、真白の仕事人のことにかけては自分の右に出る者はいない、と豪語。自らを「七つ子のキトン」、すなわち猫獅子ネネ子と名乗り、輪花の応じに答えることを口約する
・輪花から数十メートル離れた電柱の裏にて、コウキ――ではなくミツキが片耳タイプのイヤホンに意識を集中している。ミツキはいたずら心から輪花のスマホに仕込んだ自作のウイルスアプリで盗聴していたのである。
ここでミツキが意識の内側からコウキと輪花の「スウィンドラーについて知りたい」というやり取りを聞いていたこと、コウキを悪道に誘ったスウィンドラーを(どちらかというと)快く思っておらず、(コウキの保身に使える手札として)なんらかの弱みを握れるチャンスだと考え盗聴に至ったことなどを説明する
・イヤホン越しにミツキが盗聴する中、輪花はネネ子から聞かされた「水平思考ゲーム」という単語を疑問系で復唱する。対してネネ子はただ教えるだけではつまらない、と前置きし、これから話すスウィンドラーの過去に潜む嘘を見抜いてもらう、と輪花に告げる
・輪花はいわゆる小学校時代に少し流行った「ウミガメのスープ」ですね、と言い、次いでそれなら経験があります、と応じる。ここで水平思考ゲームについて簡単な説明。ストーリー形式で出題される問題について、回答者が出題者に「はい」か「いいえ」で答えられる質問をしながら正解を導き出すゲーム、程度は描写しておく(もちろん、これからネネ子が行うゲームはそれに近いゲームというだけで、それそのものではない)
・自信のほどを声色からかもす輪花。するとネネ子はただし、と前置きしてから寸時の間を置き(ここで固い音がする)、それから質問できるは1回までだ、と告げる
・変則的な水平思考ゲームだ、と内心で思いながらも、たった1回しか質問できないとなると相当に難しい、と輪花はつぶやく。対するネネ子はただのお遊びだからそう難しい問題じゃない、としながら出題する
①少年には親しい幼なじみがいた(真)
②しかし事故により幼なじみは他界してしまった(真――のつもりだが、真相は放火からの自殺なので、厳密には事故とは異なる)
③少年は幼なじみを救わなかった事故の関係者たちを「悪」と断じ、憎むようになった(偽。実際は幼なじみを二度も救えなかった己の無力さと、結果的に幼なじみをみすみす死なせた悪の存在の双方を憎むようになった)
④十数年後、力をつけた少年は「真白の仕事人」として幼なじみを救わなかった悪人たちを懲悪した(真――のつもりだが、ネネ子が知らないだけで、実際はパペティアという主犯格の実行犯が懲らされていないので、厳密には偽になる)(輪花はこのゲームを解く過程で須佐美家の秘された事件のあらましを知り、関係者≒自分の両親が生きている(未だ懲悪されていない)ことから、この段落を「偽」と考える)
⑤そうして悪を懲らすうち、少年はひとりの少女を「オウレット」へと仕立て上げた(真)
・語られていく問題を聞くうちに、少年とはすなわちスウィンドラーではないか、と輪花は尋ねる。対してネネ子はこれまたイグザクトリー、と答え、必然的にこの問題の嘘を解き明かせば真白の仕事人についての正しい来歴もわかる、と豪語する(ついでに問題に隠された嘘はひとつだけ、とも言及する)
・輪花は改めて、たった一度の質問からひとつの嘘を見抜くということの難解さを思い知り、うんうんとうなる。一方のミツキは、そも輪花がオウレットと名付けられたという箇所は紛れもない事実であるので、実質四択のEZ(イージー)ゲームにほかならない、と考える
・悩む輪花に対し、ネネ子は問題の期限は設けないからじっくり考えつつ答えを見つけよう、とアドバイス。輪花もそれに合意し、ひとまず通話はそこで終了する
・ひとまずの盗聴を終え、直接的な弱みに至れなかったミツキは歯がみして不満がるも、「幼なじみとの死別」というテーマの問題に思うところがあり、ふと自身とコウキの関係を重ねる。
およそ本能的に死に別れた双子の姉の存在を悟り、己が命を分かち合おうとでもするように日々、ミツキへのあがないに生きるコウキ。彼に対し、ミツキはそれを望んでおらず、むしろミツキのために自らをないがしろにするくらいなら自分の命すべてを自分のために使ってほしい(まして悪道になど身をやつしてほしくない)と考えており、すなわちコウキの行いもまた(ミツキのためながらミツキ自身が望んでいないため)ある種の自己満足だといえる。
その一点から見れば、スウィンドラーもまた亡き幼なじみを思い、その復讐に徹することで自身と幼なじみの慰めにしたいのかもしれない――そう考えることも可能だが、しかしミツキはコウキとあのちゃらんぽらんでは比較にならない、とその考えを一蹴する。なにせこの問題にはひとつだけ嘘があり、嘘の内容次第ではこの考えは成り立たない。まして相手はペテン師であり、今なお知られずにいる真実――あるいは嘘偽りがどれだけあるのかわかったものではないからだ
・そこまで考えてから、ミツキはひとつあくびをする。当て推量にかまけるあまり、時刻はもうすぐ21時になりかけていた
・ミツキは抜け出してきた寮の窓が閉められていなければいいけれど、などとつぶやきつつ、コウキが趣味で所有していた軍服風の上着のポケットに手を入れつつ、帰路につくのだった
・事務所に帰宅した輪花はリビングの電気をつけようとするも、即座にスイッチから手を引いた。パイプ椅子に座りながら長机に突っ伏して眠りこけているスウィンドラーの姿が目に飛び込んできたからだ
・長机にはつまんでいたであろうコンビニスナック、テレビはつけっぱなし。状況からして、おおかたテレビを見ながら寝落ちしてしまったのだろう、と輪花は考え、ひとまずテレビを消す
・そうしてスウィンドラーへと向き直り、その白い頭と閉じたまぶたを見つめ、しかしてネネ子からの出題を思い返す。悪人に苦しめられている人のためにも、自分が代わりに懲らしめる――そのようなことを言っていたスウィンドラーの本心について、自分のことで精一杯だった輪花は少しも考えが及んでいなかった、と気づかされる。
元はといえば、なんら接点のない生徒会副会長に弱みを握られ、不承不承引き受けた真白の仕事人の調査だったが、今はなんだかんだと世話になっている仕事人への興味が湧いてきている。輪花は保身を念頭に置きつつも、これからは助手としての興味も交えて調査という名の取引を進めていこうと決心する
・翌日の早朝、いつものように自転車を駆り、錬磨はその日もまた朝から古き良きとも表せるような学生らしいアルバイトに精を出していた
・いつも通りに新聞を配達し終えた錬磨はふと、自転車のかごに一部だけ余った朝刊を目に留める。ミスはなかったことから、本来であれば部数の確認やらなんやらのために販売店へときびすを返さなければならないが、錬磨はたかだか新聞の一部ぐらい、などと考え、「問題なく配達を終えた」体でその新聞を持って帰ることにする
・そうして余った新聞とともに帰路に就く錬磨。折悪しく横断歩道の赤信号に引っかかり、立ち往生を知られる
・どうせ待つなら、と錬磨はそこで余った新聞を取り出し、暇つぶしがてらその内容を流し読みすることにする。ここで錬磨は金欠ゆえに連絡用の携帯すら所持していないことを説明する
・とはいえ取りたてて一般的な男子高校生に世情への興味は薄く、見る記事のいずれにも目はとまらず、滑るばかり。強いて注目したのは、毎年地元で開かれる「桜を愛でる会」が予定通り、近日中に開かれるということぐらいだった
・おおかた政治家や地方議員、果てはそれらとつながりのある著名人といった金持ちが面白おかしく宴に興じるのだろう――などと思いつつ、自分には無縁の行楽だ、と錬磨はすげなく新聞をたたもうとする。だが、ちょうどそのタイミングで通り過ぎた大型トラックによって拝借したばかりの朝刊は強風にあおられ、錬磨の手から離れて行ってしまった
・特別価値あるものでもなければ思い入れのあるものでもなし、後方へと飛んでいったそれを錬磨は一瞥したのち、信号が青に変わると同時に横断歩道を渡る
・そうして学校へと向かう道すがらのバスターミナル近辺で、錬磨は今まで見たことがないくらい珍しい落とし物――さして汚れてもいない(輪花が着ていた)ミリタリージャケットを発見する
・落としたのか捨てたのかはともかく、痛みや汚損といった捨てるに値する状態には見えない。よって錬磨はバイト代がなんら手もとに残らず、私物ひとつさえろくに買えない自分のような人間に対する神様からのご褒美とでも思っておこう、などと考えつつ、そのジャケットを自転車のかごに押し込めるのだった
・学校から帰宅した輪花はただちにスウィンドラーの私物をあさるも、ネネ子の問題に関連するような手がかりを見つけられなかったがために肩を落とす。
ここでスウィンドラーの情報についての調査において、真っ先に私物から情報を得るという手段をひらめいたものの、そも私物のほとんどが怪しいお金やへんてこな道具類だったため、望むような情報は得られないだろう、と考えていたことを説明する(そして案の定、スウィンドラーの過去に関する情報も私物からは得られなかった)
・そこへ不意に帰宅したスウィンドラーからなにをしているのか、と聞かれ、怪しまれまいとして輪花はとっさに掃除をしていた、などと取り繕う
・それを聞いたスウィンドラーは気が利くなあ、などと怪しむそぶりも見せず、ついでに洗濯もお願い、と雑用を輪花に押しつける。ひとまずその場をやり過ごした輪花だったが、このまま調査に進展が見られなければしびれを切らした錬磨によって家出の件が学校にバレてしまうとして、焦りを感じる
(この時点でスウィンドラーは輪花がなぜ唐突に自分のことを調べるかのような行動を取っているのか、疑問を抱く。そこでスウィンドラーは次の日、気づかれぬよう輪花を尾行する。もちろん輪花が校内にいるときは外で待機せざるをえないが……)
・次の日の昼食時、輪花は買い込んだ菓子パンにろくすっぽ手をつけぬまま上の空で物思いにふける。そんな輪花が気になり、同席していた美乃里がなにかあったのか、などと尋ねる
・美乃里に対して輪花は、(事細かには明かせない都合上)「ある人の過去を調べてる」と漠然とした形で事情を簡単に語る(ある人が事故によって幼なじみを亡くし、その結果として正義の味方になった(輪花にはそう見えている)、といった内容で、けれど真相かどうかは今のところはっきりしないので、それを確かめようとしているところ――みたいな)。
事情を聞かされた美乃里は、もし話に出てくる事故が過去に真白市で起きたもので、かつ死人が出るほどの一大事だったのであれば、市の図書館にあるであろう地方新聞のバックナンバーに載ってるんじゃないか、と指摘する
・その手があったか、と輪花は有効なアドバイスをしてくれた美乃里に目から鱗の態で応じる。よくわからないけど役に立ったのなら、とまんざらでもない(けど表面的にはいつも通りな)表情の美乃里をよそに、輪花は調査に向けて英気を養うかのごとくいつも通りに菓子パンへとかぶりつく
・放課後、友人との下校をやむなくあきらめ、輪花は市内の図書館へと足を運び、ネネ子の出題を解き明かすための一助になるかもしれない新聞のバックナンバーをあさっていた。ここで学校から図書館までは20分ほど歩かなければならない距離であったものの、秋冬以外の登校日においてはいつもかばんに入っているミリタリージャケットが(おとといの逃走によって)入っていない分だけ荷物が軽かったことから、肉体的な疲れはさほど感じなかったことを説明する
・とはいえ、もとより調べ物が不得手な人間であったので作業のほうはなかなかに難航。かれこれ30分経ってなお、輪花は出題にあった「事故」について、なんら手がかりをつかめずにいた
・あきらめかけていたそのとき、ひとりの女性が声をかける。それはおそらくは司書を務めているであろう、めがねをかけた知的な女性(たまたまオフの日に図書館を利用していて、折しもベージュのボブという見覚えのある少女を見かけたので気になったネネ子)だった。
(なお、この時点でスウィンドラーは変装した状態で図書館におり、ネネ子の変装についても見破っている。ただし輪花とネネ子の会話についてはかすかにしか聞けなかった)
・司書であればあるいは真白の歴史、ひいては過去に起きた事件の記録についても心当たりがあるかもしれない――そう思った輪花は、わらにもすがる思いで司書然とした女性に真白で起きた事故、特にひとりの少女が命を落とした事故について調べており、それに該当する資料のようなものについて心当たりはないか、と尋ねる(ここでネネ子はこのベージュのボブがかのオウレットに違いないと確信を得る。この女を始末する格好の機会であろうとも……)
・すると司書然とした女性は、それなら、と前置きし、しばしその場を離れる。ほどなくして女性はとある時期の地方新聞のバックナンバーを携えて輪花のもとへ戻り、それを開きながら社会面の一部を指し示す
・女性に指し示された記事。それを見るやいなや、輪花は目を丸くする。なにせそこに書かれていた事件にかかわっていたのは、自身の血統である須佐美の人間だったのだから……。
ここで簡単に記事のタイトルと内容を描写。タイトルは「未来の巨星、墜つ(仮)」で内容は、地元の名士である須佐美竜苑宅が放火され、数名の使用人が重軽傷を負い、竜苑氏の一人娘である須佐美桜花さん(15)が死亡したということ、犯人として住所不定、自称無職の二十代の男が逮捕された(身元については調査中)こと、などが明記されているものの、詳しいことは書かれていない(詳しく書かれていない原因については、まずもって須佐美一家と他勢力による抗争の一部であり、なんらかの情報統制がなされたためだろう、と須佐美一家の関係者たる輪花は直感する。これについてはこの段階で描写してもいいし、のちに描写してもいい。本筋には深く影響しないだろうし……)