シャーロック・ホームズシリーズ第一長篇『緋色の研究』には、ホームズの知識がきわめて偏ったもので、特に天文学については地動説すら知らなかったため、ワトスンを大いに驚かせたというエピソードがあります。
このことについて、実際にはホームズはワトスンが「知識ゼロ」と評した文学や哲学、天文学も含め広範な知識を有しているのに、あえて知らないふりをしたのではないかという説があります。例えば評論家のトーマス・カーライルを知らないと言いながら、後にカーライルの発言を引用していることなどはその説の根拠の一つとして知られています。
ひょっとしたら、ホームズは、天体絡みで妙なことを言うことで、ワトスンが信頼に足る人物かどうかを確かめようとしたのではないでしょうか? 何しろ彼の宿敵は『小惑星の力学』という論文を発表するような人物です。もしもワトスンが宿敵のスパイだったとするならば、ホームズが地動説を知らないということに対して何かしら常人とは異なるリアクションを取ったことでしょう。
もちろんそんなことはなく、ホームズとワトスンの出会いは真に運命的なものであったわけですが(笑)。