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新作『月架のヘルデルーテ』お試し版二話と、更新のお知らせ

こんにちは。

アイスを食べたら、お腹の具合が悪くなりました。
ストーブを炊きっぱなしにする真冬でないと、アイスを食べちゃ駄目ですかねえ?


さて、本日夕方に『紅穹の月 ~夜巫月の四将の物語~』の四話『僕は闘う、大切な人の笑顔のために』を公開します。

『黄泉月の物語』の改訂版ですが、タイトルを変更しております。
ついでに、『序章』後に『登場人物紹介』ページも追記しました。
ほぼ、私のど忘れ防止用ですが(;'∀')

そして改稿の為に前作を読み直し、反省するばかりです。
すっごい読みづらい!
そんなこともあり、改訂版は大きな修正が入りました。

改定前は、主人公と父の幽霊が再会。その後に蓬莱天音さんが転校して来る。
改定後は、この順序が逆になりました。

主人公は、クリスマスイブに集まった女の子たちを前にし、闘う決意を固めます。
蓬莱さんにまとわりつく悪霊を放置すれば、他の子たちにも危害が及びかねない。
これも改定前には無かった要素です。
主人公の決意を、より強調しました。

という訳で、改訂版もよろしくお願いします。


そして『月架のヘルデルーテ』の二話目です↓


 『教導院にて・2』

  * * *

 キリアンたちは、九時課(午後三時)の鐘の音を合図に教導院に帰った。
 来客があった様子は無く、下男たちはいつも通りに薪割りをしていた。
 司祭の温かな笑顔も変わらず、猫たちは館の中で遊んでいる。

 子どもたちは手足を洗うために、水汲み場に向かい、幼年の子たちは無邪気にはしゃぐ。

 だが、キリアンとアーシユは、口元を強張らせたままだ。
 あの異様な一団が、ここを訪れたのは間違いない。
 神さまに仕える騎士は、ここで何を語ったのだろう。
 礼拝堂で祈りを捧げたのだろうか。


「キリアン……」
 アーシュが囁いた。
「忘れよう……司祭さまにも、何も聞いちゃいけない」

「分かってる……」
 そう答え、子どもたちの手を乾いた布で拭く。
 だが、あの女性たちの運命を思うと、心に湧き出た暗雲を処理できない。
 
 あれは魔女だ。
 邪悪な魔女の力を持って生まれた異端者だ。
 彼女たちの魂を救うために、騎士さまたちは尽くしている。

 だが――自分の瞳に映ったものは、慈悲深い神さまと結びつかない。
 神さまは、罪人をも救おうとなさっている。
 人を貶めることはなさらない。

 魔女であろうと、あんな惨めな姿を晒させるのを良しとするだろうか――。

 
 その夜、キリアンは殆ど眠れなかった。
 夢の中に、引き立てられる魔女たちの姿が出て来て――息苦しくて目覚める。

 向かいのベッドに寝ているアーシユの様子は、暗くて分からない。
 けれど……自分より深く傷付いているのでは、と心配になる。
 
 人々は金髪の男の子をも嫌い、農奴にされるか、傭兵部隊に売られるケースが多いと下男から聞いた。
 アーシュは、恵まれている方だろう。

(忘れるんだ……小さい子たちに、魔女のことを思い出させちゃいけない……)

 キリアンは神さまの名を唱え、みんなの幸せを祈った。
 そして瞼を閉じた――
 けれど、安らかな眠りは訪れてはくれなかった。




 それから二十日余りが過ぎた。

 森にも蝶が飛び交い、日射しにも夏の香りが混じり始める。
 キリアンは、八歳の子を二人を連れ、近くの泉を訪れた。
 聖なる泉で、日曜日の早朝に水を汲み、祭壇に捧げる習慣なのだ。

「ターオ、シワルド、交互にひしゃくで水をすくって」 
 キリアンは、木桶を押さえて指示を出す。
 二人の子どもたちは懸命に、慎重に水をすくって木桶の中を満たしていく。

 
 ――鳥が飛び立った。
 
 羽音が響き、風が鳴き、地が微かに揺れた。

「……ふたりとも伏せて!」

 キリアンは膝を付き、地に耳を当てる。

 間違いない。
 馬が駆けている。
 それも、多くの。

 「ふたりとも、ここを動かないで! 誰かが迎えに来るまで隠れていて!」

 姿勢を低くして、ふたりに指示を出す。
 ふたりは、不安そうに顔を歪めるばかりだ。
「キリアン、何が起きたの?」
「みんなで帰ろうよ……」

「駄目だ、ターオ。山賊が通ったのかも知れない」
 キリアンは、森の奥を指し示す。
「いいかい。太陽の昇る方向に歩いて行けば、古い御堂があるのは知ってるよね? そこに隠れてるんだ。教導院の様子を見たら、すぐに戻って来るから」

 キリアンは木桶の水を捨て、シワルドに持たせた。
「さあ、行って!」

 そして、自らは反対方向に摺り足で向かう。

 姿勢を低くして――しかし、それは長続きしない。
 ついつい背を伸ばし、全力疾走になる。

 信じていない。
 山賊が来たとは、信じていない。

 脳裏に浮かぶのは、あの女性たちの姿だ。
 女性たちを引き摺っていた男たちの姿だ。

 ――そんな筈は無い。
 ――魔女は、いない。

 教導院のみんなは、神さまにお仕えしている。
 神さまに仕える男ばかりだ。


 神さまに。
 神さまに。
 神さまに。



 いつしか森を抜け、草むらを抜け、見慣れた建物が見えてきた。

 馬が見える。
 三十頭は居る。

 あり得ない。
 それほどの人数の騎士さまが訪れるなど。

 
 悲鳴が聴こえた。
 子どもの悲鳴だ。

 歓声が上がった。
 男たちの野太い声だ。

 
 我を忘れて、馬の横を抜けた。
 口笛が聴こえた。
 笑い声も、鉄を打ち鳴らす音も。

 騎士が、何かを蹴った。
 それは、土の上を転がった。

 血と土に塗れてはいるが、
 キリアンにははっきり見えた。

 アーシユは、瞼を開けたまま絶命していた。



  * * *



すみません。
ここで終わります。
あらすじを書いて置きますが――

実は、教導院礼拝堂の地下には、司祭様の姪が隠れ住んでいました。
金髪の少女でしたが、それが発覚して、騎士たちが襲撃したのです。



そして――復活した伝説の魔女ヘルデルーテと契約したキリアンは、自らの力で復讐を果たす誓いを立てます。
教導院で習った知識を利用し、ある傭兵団付きの祭司を勤め、天照騎士団を追います。
黒かった髪を、亡き友のアーシュと同じ金髪に変えて。

こういう構想ですが、今は『紅穹の月』に集中しますので、手を付けるとしてもかなり後でしょう。


いつもの企画『日記・エッセイの本棚』は常時参加者さまを募っております。

季節の変わり目ですので、ご自愛してお過ごしください。


mamalica

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