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外伝小説『紅鴉の国』 第二話・その弐

こんにちは。
前回の続きの『紅鴉の国』の二話目です。
お目汚しですが、お読み下さいませ(・ω・)ノシ


  * * *


 『紅鴉の国』 二話 ―― その弐


 その日の午前中。
 四時限目の授業を終え、教室を出た。
 お茶入りボトルを持ち、持参した昼食を食べる。
 
 場所は、体育館裏の水飲み場だ。
 入学してから二ヶ月。
 この時間帯には、ここには誰も訪れない。

 晴れた日には、傍らにある大木の根元に座り、食後に文庫本を読む。
 雨天の日は、図書室横のフリースペースで食事をし、その後は図書室で過ごす。


 そして、今日は五月晴れだ。
 ハムとチーズを挟んだサンドイッチを手早く胃に押し込み、文庫本を開く。
 
 国枝史郎が書いた未完の伝奇文学『神州纐纈城』だ。
 古書店に並んでいるのを見つけ、その奇妙なタイトルに惹かれて購入した。
 小口は少し黄ばんでいるが、表紙には殆ど傷が無い。

 電子書籍を購入する手もあるが、それは実に味気ない。
 本を手で触り、その感触と紙の匂いと共に、活字を目で追う。
 それに勝る喜びは無い。
 

 彼は木に背を預け、濃い橙色の表紙をゆっくり開いた……はずだった。




 ……瞼を上げると、高い天井が見えた。
 板が格子状に組み合わさった装飾が施されており、顔を動かすと左側に障子を嵌めた引き違い窓がある。


「……お目覚めでございますか?」

 右側に正座していた女性が、朗々と問う。
 白髪混じりの髪を結い上げており、白い着物に濃い灰色の着物を重ねている。
 その後ろには、十歳ぐらいの少年が座している。
 少年は、白いシャツに黒い半ズボン姿だ。

「……ここは……」

 彼は訊ね、起き上がろうとしたが、力が入らなかった。
 布団に寝かせられていることは判ったが、状況が把握できない。

 それを察したらしい女性は、そっと布団の縁に手を掛けた。

「ここは、『紅鴉(べにがらす)の城』の本殿にございます。サクヤ、窓を」
「はい。おばあさま」

 少年は立ち上がり、布団の足元を回り込み、窓を開け、その下に正座した。
 吹き込んで来た風は、人の声や音を運ぶ。
 物を叩くような音の合間に、男たちの明るい声が響く。
 
「城の修繕をしておるのですよ。貴方さまのお力で、壁の漆喰の破損と、屋根瓦が落ちた程度で済みました」

 女性は、優美に微笑む。

「私は、『水神月(みかづき)』と呼ばれる巫女でございます。そこに控えるは、孫の朔耶。我らは、城主の姫さまに仕える者にございます」

「巫女……? 姫……?」

 彼は、改めて室内を見回した。
 和室の真ん中に敷いた布団に寝かせられている。
 
 傍らには、水差しとガラスコップを載せた盆がある。
 そして、四角い物入れの中には――自分の生徒手帳が入っている。

「これは……!? 僕の……」
「残念ながら、貴方さまの制服は破れてしまいました。『雨月』と『如月』が空から落ちる貴方さまを受け止めたのですが、触れた途端に制服は燃え尽きたように崩れたのです。心臓付近に所持していたと思われる手帳のみが残りました」

「『うげつ』と『きさらぎ』?」
「姫さまに仕える御伽(おとぎ)衆の将にございます……」

「失礼いたします」
 襖の向こうから、ややハスキーな若い男性の声が聞こえた。

 襖が左右に開き、その奥に学生服と少年とセーラー服の少女が座っていた。
 二人は畳に指を置いて礼をし、立ち、巫女の背後に正座して、また頭を下げた。

「『雨月』と『如月』にございます。お目通りを果たせまして、光栄に存じます」

 少年の丁重な挨拶に面食らい、肘を付いて身を起こす。
 
 この時、ようやく白い着物を着せられていることが分かった。
 浴衣のような生地では無く、上質な絹である。
 布団も軽くて清潔で、滑りの良いカバーが掛かっている。

 
「……あの……これは、いったい……」

「我が国を救って下さったのです。覚えておられませんか?」
 『如月』と紹介された少女が言った。
 長い髪を二つ結びにした、利発そうな顔立ちである。

 『雨月』の方は肩ががっしりした、スポーツマンタイプである。
 眼差しは鋭いが、見つめられて嫌な感じはしない。
 むしろ、真摯な印象だけが募る。

「失礼ながら、生徒手帳を閲覧させていただきました」
 巫女は、表紙が焦げた手帳を眺める。
「御名は……橘一葵さま、で宜しいでしょうか?」

「はい。『たちばな かずき』です……」
 座ると、すかさず朔耶少年が背後に寄って来て、背を支えるように座る。

 状況が未だ呑み込めないが、彼らが『生徒手帳』を知っており、意思疎通が出来ることに安堵した。


 ――続く。

 
 * * *


弐話で完結予定でしたが、あと一話。
姫さまが顔を見せた所で、とりあえず完結と致します。
中途半端ですが、今はこれで手一杯ですので(^_^;)


最終話も、よろしくお願いいたします。


本日は晴天で、やや強めの風も気持ち良いです。

さて、11月に札幌に出掛けるべく、ホテルも予約しました。
キティちゃん50周年のショッピングイベントがありますので……

これから夏本番なのに、もう冬のホテル予約だよ!……
まあ、久し振りの札幌なので、楽しんで来ます。

お気に入りのパン屋さんのバゲットを買うぞ~🥖


mamalica

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