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外伝小説『紅鴉の国』 第二話・その参

 こんばんは。
 
 昨夜は寝る直前に、頭がフラフラして異様な眠気に襲われました。
 冷茶を飲んで横になりましたが、今から考えると軽い熱中症だったかも知れません🥺
 みなさまもお気を付けください。


  * * *


 『紅鴉の国』 二話 ―― その参(とりあえず終わりです)


 学生服にセーラー服。
 ガラスのコップ。
 畳に布団。
 枕の中身は、蕎麦殻っぽい。
 祖父が好んで使っていた枕の感触だ。

 『城』だの『姫さま』だの歴史的単語が出て来るが、少なくとも千年も前の生活レベルでは無さそうだ。
 空から見下ろした家並みは、映画で観た『昭和時代』っぽい。
 木製の電柱に、警官らしい男性の服装も詰襟で古めかしかった。

 年代を訊ねてみようか――
 そう思った時、襖の向こうがざわついた。


「姫さま……」
 巫女はささやき、『雨月』と『如月』も襖の方に身体を向ける。

 再び襖が開き――そこに着物姿の少女が立っていた。
 白の着物に、紅色の裾の長い着物を重ねている。
 赤い細い帯を締めて前に垂らし、ストレートの黒髪を背に垂らしているようだ。
 
 つい思い浮かんだのが、参考書に載っていた『お市の方』の肖像画である。
 信長の妹で、美貌を讃えられた女性だ。

 目の前の姫君は、『お市の方』が画より抜け出たかと思わせる容貌だった。
 凛として、それでいて少女らしい幼さを残している。

 だが――違和感がある。
 姫君はこちらを見ているが……

(目が……見えない?)
 そう気づき、動揺する。
 姫君の瞳は、墨で描かれたように動かない。
 
 だが、彼女はしっかりと自分の足で立ち――そろそろと歩み始めた。
 触りの良い衣擦れの音が響く。

 が、彼は慌てた。
 姫君が近寄って来るが、このまま座っていて良い筈が無い。
 お辞儀をしようとしたが、やや低めの声に阻まれた。

「橘さま、そのままで」

 姫君の声である。
 外見よりも大人びたアルトで、とても通りが良い。
 何より驚いたのは、姫君に『さま』付けで呼ばれたことだ。

 姫君は布団の少し手前で、足を止め、スッと腰を降ろした。
 そして、指を付いて深々と頭を下げた。

「この城の主の『紅織月』にございます。敵の襲撃から、この国を御守り下さったこと、礼の申し上げようもございません。城の者も民も、誰ひとり犠牲を出さずに済みました」

「……はい……あの……」
 丁重な言葉をいただいたが、返答が思い付かない。
 自分自身、何が起きたのか良く覚えていないのだ。

「姫さまは御目が視えず、御耳も聞こえぬ。それと引き替えに、皆の心を感じ取ることが出来るのです。そして……」
 巫女が厳かに告げた。
「橘さまこそ、古き書に記された『現し世の神巫人』でありましょう」

「みこびと……?」

「はい。この世が乱れた時、黄泉の泉の果てより神巫人が来たりて、国を救いたる……そう記されております。古き神『果てなる御方』がこの地を去る間際に、残した御言葉と伝わっております」

「我らも、その言い伝えは繰り返し教わりました」
 雨月は、畏まって言う。
「僭越ながら、橘さまは……御自身以外に『かずき』の名を持つ御方を御存知ではございませんか?」

「……いえ、僕と同じ名の人は……」
 咄嗟には思い付かず、頭を捻る。
 今までの同級生や親類には居ない。


 が……思い出した。
 あの本――。
 古書店で買った『神州纐纈城』の最後のページに、以前の持ち主と思しき名が書いてあった。
 珍しい苗字だったので覚えている。

 『神無代和樹』

 確かに、そう書かれていた。
 驚愕して一同を見ると、姫君と目が合った。

 姫君の漆黒の瞳と、その薄薔薇色の唇に歓喜が宿る。
 
 間違いなく、世は救われる――
 姫君の想いが全身を打ち、血管の脈打つ音が響く。

 巫女は、淡々と語る。

「かつて、この地は闇の神の手に落ち、闇夜に包まれました。それが三千年続き、しかし或る時、四人の神巫人が闇の神の怒りを鎮め、地に光を復活させたと伝わっております。その神巫人たちは、異界の『現しの世』の民であったとのこと。手帳に記された橘さまの名を読み、もしやと思いました。伝説の神巫人と同じ名を持つ御方。橘さまこそ、我らの神巫人と確信いたしました」

 
 ――姫君を始め、人々は深々と頭を下げた。



  * * *


 え~、ここで終わります。
 中途半端ですが、いずれ続きを執筆したい所存です。


 今夜も暑いです。
 北海道とは云え、油断は出来ませんね。
 水分を充分に補給するように気を付けます。

 そして、連載中の『黄泉月の物語』は最終盤に辿り着きました。
 ほぼ当初の構想通りのラストを迎えられそうです。
 主人公たちには、幾つかの別れ、そして再会が待っています。
 誰をも取りこぼさないラストになります!
 
 ……書き忘れましたが、『紅鴉の国』の橘くんは、セレブさんです。
 彼が住んでいたのは、『黄泉月の物語』で月城くんが住んでいた高層マンションの同じ部屋と設定しています。


 では、これにて締めさせていただきます。
 お読みいただき、ありがとうございました!


 mamalica

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