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外伝小説『紅鴉の国』 第二話・その壱

こんにちは。

前回の近況ノートに記した通り、『紅鴉の国』の第二話を三回に分けて掲載します。

テスト版一話は『カクヨム』で公開していますが、後々に全面修正が入る予定です。



  * * *


 『紅鴉の国』 二話 ―― その壱


 
 彼は、異空を浮き沈みしていた。
 寒くもなく、暖かくもなく、まるで緩やかな川を漂っているようだった。
 流れに任せ、ゆったりと全身の力を抜く。

 一点の曇りもない青い高い空の下、白い花が咲き乱れる情景を感じる。
 あえかな風が、花の香りを緩やかに運ぶ。

 視線の先に、大樹が見えた。
 広がった枝は緑の葉をたたえ、その中で鳥たちが謳っている。
 リスが幹を駆け上がっている。
 草間を、野ウサギたちが跳ねている。

 
 
 ――気持ちが良い。
 ―― このまま、まどろみ続けていたい。


 
 だが……瞼を上げると、輝くような炎が見える。
 それは火珠となって、下から絶え間なく撃ち出される。

 片や、背後からは太い氷柱が撃ち放たれている。
 長さは自分の身長の数倍はある。
 それが、左右の腕をかすめて地上に向かう。

 火珠と氷柱はぶつかり合い、凄まじい蒸気と爆風を生み出す。
 ひしめき合う怒号が身を貫き、下からは悲鳴が湧き上がる。

 けぶる爆炎の隙間から、古い町並みが視えた。
 立ち並ぶのは、木造の平屋や二階建ての家だ。
 
 道路わきの木製の電柱は、大きく傾いているものがある。
 地が揺れ、家が軋み、屋根が歪む。
 
 小屋のニワトリたちは鳴き、野良猫たちが走り回っている。
 警官らしき男たちは走り回り、避難を呼びかけている。
 
「家に残っている者は居ないか!? 防空壕に入れ!」

 
 視点を引くと、町の上空を炎が覆っていることが分かった。

 それは、町が燃えている訳ではない。
 炎は、町を守っているのだ――上空から撃ち込まれる氷柱の攻撃から。

 彼は、炎の軌跡を追う。
 炎が最も強く発せられている場所を。

 それは、町の北側の城だった。

 それは、江戸時代風の城だった。
 城壁の内には、二つの御殿と天守がある。
 庭には戦車ほどの大きさの大砲が縦横に並び、兵士らしき男たちの操作で、火球が撃ち出されている。
 
 だが、明らかに地上軍が押され始めている。
 上空から放たれる氷柱は、町に達する前に蒸発している。
 しかし、炎は僅かずつ――弱まっている。
 街を覆う炎の壁の高度は、確実に下がっている。
 

 そうした中――氷柱を止めようする者たちの『意思』を感じた。
 町の住民たちを救おうとする『意思』を。
 誰ひとり、傷付けまいとする『意思』を。


 その『意思』の彼方から、重々しい声が響いた。


 ――応えよ。
 ――真なる祈りに。

 ――黄泉を渡る者、
 ――汝は救いの王なり。
 
 ――紅の剣を解き放て。



 何かが、芯の臓に触れた。
 
 ゆっくりと振り向き、見据える。

 何本もの氷柱が、城の天守に向けて放たれたのが見えた。

 
(……止める!)

 碧い炎が、芯から噴き上がる。
 その輝きに五感が奪われたが、無数の魂の祈りが身を貫いた。
 それは、熱くて切なくて……激しくも悲しい。

 祈りを背負っている。
 命を背負っている。

 それらのために――彼は、碧き炎を解き放った。
 渦巻く炎は、たちまち氷柱を溶かし、押し返し、『結び目』を閉じた。

 接していた『空(くう)』は分離し、攻撃は止んだ。


「良かった……」

 彼は安堵し、碧き炎を鎮める。
 再び、まどろみが襲って来た。

 彼は、未だ渦巻く真紅の炎の結界めがけて落下し続けた。



  ――続く。



  * * *


 以上が一話です。
 先行公開版に、少しだけ修正を加えました。



 このシリーズとしては、この作品の彼は、三代目の主人公です。
 三代全員が桜南高校の学生ですが、三学年差で同時に在校していません。

 一代目〈神無代和樹〉→友情さいこう!
 二代目〈桜橋華都〉→友達なんていらねえ!
 三代目〈? ? ?〉→ぼっち読書こそ至高!

 ……と云う奴らです。
 こう書いていて、「こいつらが好きだ! 活躍させてあげたい!」と思ったのでした。
 一代目の物語は最終盤ですが、リメイク版も進行中とは云え、物語を完結させるのは複雑です。
 彼らとの別れは、やはり悲しいのです。
 それが、彼らの新たな人生の始まりだとしても。

 だから、物語の新シリーズや外伝を書かずにはいられないのかも知れません。


 では、第二話は明日、第三話は明後日に公開いたします。
 

 mamalica

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