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美瑛のトマトは美味です🍅

こんにちは。

梅雨が来ない北海道ですが、雨模様の日が続いています。
今朝から昼過ぎまでは晴天でしたが、これを書いている現在は、雨がパラついています。

この季節は、スーパーで売っている『美瑛町産のトマト』がメチャ美味です!
大玉二個で400円前後ですが、甘くて瑞々しくてたまりません。
何も付けずに、そのまま食べるのがベスト!
夏の恵みに乾杯です🍅

さて、ここから下は連載中の『黄泉月の物語・外伝』の『水淵の姫』を載せます。
美瑛町のトマトにも、チラッと言及しています。




 ◇ ◇ ◇


 『水淵の姫・五話』


「……う~ん……」

 黄泉千佳は寝返りを打つ。
 恐い夢を見た気がするが、何か良い匂いがする。
 頬をなぞる微風も心地良い。

「……ナシロっちぃ……」

 そうだ。
 彼とデート中だった。
 スイーツブッフエで、いっぱい甘いケーキを食べた。
 鼻をくすぐる匂いは、イチゴのケーキの匂いだ。
 まだまだ食べられそう……


「カエル女、いい加減に起きろ」
「……はいっ!!」

 女の不機嫌そうな声が、気持ち良いまどろみを打ち消し、反射的に起き上がる。
 蜘蛛の巣に似た円状の舞台に横たわっており、頭上には青い空が広がっている。
 だが、中空に在った舞台は、地面の上に置かれている。
 下の湖は消えている。

「水……」
 と云って、慌てて目を逸らした。
 端に、黒い包みが置いてある。
 水を呼んだ主が絶命したせいだろう。
 地面は乾き、空と同様に果ては見えない。

 この異界から帰られるのか――
 
 だが、それを考えるのは止めた。
 自力で帰郷する力が無い以上は、傍らの女に頼るより術が無い。
 
 
「落ち着いたか?」

 正座していた紫水干の女は、フッと笑う。
 状況からして、この女の膝枕で眠っていたと知った黄泉千佳は、サッと後退した。

「あっ、あの、お膝を借りちゃってゴメンナサイっ!」
「構わん」
「……あたし、寝ちゃったんですか?」
「倒れるように眠り込んだぞ。ほら、お前の取り分だ」

 袖の下から、袋に入ったジャムパンを出して見せる。
 半分に千切った残りで、袋の内側にはイチゴジャムがくっついている。

「……いただきます」
 黄泉千佳は受け取り、ぼつぼつと食べ始める。
 相手は、無言で空を見上げている。
 黄泉千佳は、首をすくめて訊いた。

「あのぅ……お名前は……」
「クソ名月どもには『黄泉姫』と呼ばれておる」

「あたしと同じ……本人そっくりに作られたんですよね?」
「そこの『首だけ女』もな。悪趣味なことよ」

 黄泉姫は俯いた。
「本体が強いほど、我ら『人形』の憎悪と歪みは強い。お前の本体は、なよなよしくて無力だ。お前も、生まれた時より穏やかな顔になったな」

「……あたしを助けてくれましたよね?」
「我は、三千世を生き抜いておるのだぞ。お前よりも、ずっと悟りを開いておるわ」
「……ナシロっちを好きなんですか?」

 恐る恐る聞いたが、黄泉姫は――その問いを無視した。
 そして、こう言った。

「カエル女。この闘い……クソ名月たちが勝てば、お前は現世では暮らせない。現世と魔窟を繋ぐ『黄泉の川』の支流は断たれる。我ら『人形』は、『黄泉の水』なくては生きられぬ。『魔窟』だけが……お前が生き続けられる場所だ」


「……じゃあ……あたし……」
 黄泉千佳の声はかすれる。
 余りに大きな衝撃だった。
 
 一緒に暮らしている父と母は、優しい。
 学校の勉強は嫌いだが、お弁当を食べるのは楽しい。
 玉子焼きとソーセージと、バニラアイスが大好きだ。
 『美瑛』という町で摂れたトマトは、真っ赤でとても甘い。
 
 それらが、全部食べられなくなる――。
 可愛い洋服も、浴衣も着られなくなる――。

 手の中のジャムパンを見つめ、肩を震わせた。
 幸せな生活が、終わりに近づいているのだ。


「そんな顔をするな。闘いが終われば、そこは人が住める大地に戻る」
 黄泉姫は、顔を背けたまま言う。
「だが、甘い茶菓子は無い。寝心地の良い寝具も無い。清潔なトイレとやらも無い。あるのは『希望』だけだが……お前は、そこで生き抜け。お前の持つ現世の知識は、きっと役に立つ」



 ――続く。


 ◇ ◇ ◇


 すみません。今回でも終わりませんでした。
 文字数が2200を超えたので、分割して掲載します。

 そして、『日記・エッセイの本棚』企画も立て直しております。
 よろしくお願いいたします。


 また、サポーター様先行公開作品を、現在執筆中です。
 すでに公開している『紅鴉の国(テスト版)』の続きですが、公開している一話とキャラの視点を変えた話です。

 一話も後々に修正が入りますが、主人公は『紅織月姫』。
 そして、現世から転移した、蒼き炎を操る剣術士の少年。
 彼は伝説の太刀を掲げ、紅鴉の国と民を守護することになります。

 まあ、話は繋がっております。
 彼は『黄泉月の物語』に登場する高校の、体育館裏の木に触れて転移してしまう訳です。
 少年の側近として、『雨月』と『如月』の名を受け継いだ少年少女も登場します。

 『黄泉月の物語』完結後、サポーター様先行公開分だけでも掲載する予定です。
 こちらも、よろしくお願いいたします😊

 
mamalica

1件のコメント

  • >レディブラックさま

    私は、熱を通したトマトが苦手です。
    火を通した料理の中に。原型を残したトマトが入っていると「うーん」となります(^_^;)
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