こんばんは。
北海道の地元は、例年以上に涼しい五月でした。
温かい六月が過ごせれば良いのですが。
以下は、短期連載の外伝の続きです。
◇ ◇ ◇
『水淵の姫・三話』
二人の妖しの姫は、木の枝を編み込んだ円状の闘技場にて向き合う。
漆黒の水干と、紫の水干。
共に烏帽子を被り、長い黒髪を背に垂らす。
違いは、黒水干の姫が垂髪を項で纏めていることだ。
紫水干の姫は、膝下に達する髪を無造作に揺らしている。
枝の籠に閉じ込められた黄泉千佳は、前方で繰り広げられるであろう斬り合いを見守るしかない。
そうして足元を見て、「ううっ」と目を瞑る。
枝編みの床は、手のひら半分の隙間が随所に開いている。
そこから、小波が立つ湖が見える。
湖までの距離は定かでは無いが、二階程度の落差はありそうだ。
紫水干の姫が倒されたら、この編み舞台も消えるかも知れない。
そうなれば、溶ける湖に真っ逆さまに落ちる。
〈誰だか知らないけど、頑張って!〉
黄泉千佳は、蓬莱天音に酷似した姫が勝つことを祈る。
刀を構えた二人の姫は、身じろぎもせずに睨みあいを続ける。
身じろぎもせず、相手の出方を待つ。
枝編みの舞台は、蜘蛛の巣に似ていた。
摺り足は利かず、蹴ったり着地すれば上下に揺れる。
着地をしくじれば、爪先を引っ掛けて転倒するだろう。
「おい、草履を脱がせてくれ」
『水影月』は相手を睨んだまま、刀の切っ先を下げた。
相手の答えも待たず、草履を片方ずつ脱ぎ捨てた。
黄泉姫も、同様に草履を脱ぎ飛ばす。
両者とも、真っ白い足袋で網まれた綱を踏みしめる。
そして構え直し、相手を鋭利な眼差しで捉え会った。
編かごに閉じ込められた黄泉千佳は、見守ることしか出来ない。
救いの主の紫水干の女が負けたら、間違いなく殺される――。
ゆえに、彼女の勝利を祈るしか無い。
息詰まるような沈黙の中、二人の女の髪と装束が風に揺れる。
広い袖は、時として互いの視線を遮る。
それでも、二人の体躯は微塵も揺れない。
刀身の三倍ほどの距離を保ったまま、隙なく睨み合う。
―― 二人は同時に、網綱を蹴った。
次の瞬間には、黒と紫が絡み合っていた。
刃が交錯し、甲高い音が黄泉千佳の耳に刺さり、鳥肌が立つ。
紫水干の勝利を祈ってはいるが、それは黒水干の『死』を意味する。
だが、それは喜ぶべきことなのか。
ふと、疑念が浮かぶ。
(ナシロっちたちは、こんな恐いことしてる……?)
生きるために、相手の命を奪う。
何かが、変だ……。
「よそ見しやがって!」
黒水干の怒声が空を裂いた。
宙に静止する彼女が見えた。
「ひいっ!」
編かごの中で座っていた彼女は、さらに手足を縮めて頭を抱える。
刀が編目に当たり、刀を弾き返した。
「その綱は、我らの斬撃程度じゃ切れぬ」
黄泉姫は背後で笑う。
「我は、御神木の深部で産まれた。そなたよりも、深い深層でね。この枝は、御神木の苗木みたいものだよ。そなたは水使いだが、我は樹木使いって訳だな」
「……そりゃ、結構な話だね!」
『水影月』は、編かごから数歩後退したが、薄笑いして刀を振った。
刀は水を纏い、網かごの中の黄泉千佳を濡らすべく迸る。
炎の如き水塊が黄泉千佳の眼前に展開する。
しかし、それは黄泉千佳には届かなかった。
水塊は一滴残らず、編かごに吸収される。
舌打ちする『水影月』の後ろを、黄泉姫が取った。
「よそ見をして、我に勝とうとは笑止」
黄泉姫は、悠々と刀を片手で構える。
「我の怒りを誘うて、命を縮めるとは愚か! その首を、魔窟の山門に晒してくれようぞ!」
――続く。
◇ ◇ ◇
うわっ、三話では終わりませんでした。
次回こそ、最終回のはず……です。
しかし、ルビが触れないのは不便ですね。
黄泉姫の一人称は此方(こち)ですが、近況ノートではルビが触れないので「我」に変えました。
やはり、このエピソードも修正して本編に組み込みたいです。
そして……某番組「どうなの課」が「どうなの会」と名前を変えて他局で放送してたのは驚きました。
一部出演者も同じで、移籍と云うのは珍しいのでは?
アニメが他局で再放送、はありますけど。
今後の展開が気になります。
最後に、今日のランチの写真です。
マックで、ハッピーセットを注文しちゃいました。
おまけの中身は、コリラックマのパズルでした🧸
ハッピーセットのストローはプラでしたが、単品だと紙なのかな?
mamalica