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『黄泉月の物語』外伝『水淵の姫』をこの場で公開いたします

こんにちは。

数日前から、ようやく微熱感が消えました。
気管支をやられる風邪が流行っているようなので、皆さまもお気をつけ下さい。

さて、今回は『黄泉月の物語』本編では描かれなかった外伝的短編を、この近況ノートに分割掲載します。

きっかけは、ある読者さまが『黄泉千佳』と云うキャラへの感想を記して下さったことです。
私も気に入っているキャラですし、チラッと書いてみました。

話の位置は、本編の119話。
そこで主人公の和樹と黄泉千佳のデート場面があります。

後に、女子トイレに行った黄泉千佳が敵に襲われていたことが判明します。
この襲撃場面を、書き下ろしました。

『黄泉姫VS偽水影月』と云う、性格の悪い女将同士対決です。
本編未読の方は、訳が分からないでしょうが、ご容赦ください。
長くなったので、分割掲載となります。


  ◇ ◇ ◇


 外伝 ――『水淵の姫』――



 二学期の始業式から五日後のこと。
 
 ――現世を離れなければならないんだよ。
 黄泉千佳を、そう説得しなければならなくなった。
 悩みが増え、和樹は気の重い日々を過ごす。
 
 本物の久住さんを取り返せば、黄泉千佳を現世に置くことは出来ない。
 方丈幾夜氏と日那女が現世に留まれるなら、黄泉千佳を任せられたのだろうが、彼らも現世から消えると言う。

 異郷で生み出された黄泉千佳の寿命も定かでは無い。
 全てが終り、『黄泉の川』との接点も断たれた後に、彼女が現世で生存できるのか。

 それを考慮し、『黄泉千佳は、平和になった異郷に帰す』と全員で決めた。
 心苦しいが、それが彼女のためだ。
 現世には、彼女の居場所は無いのだ。
 
 
 黄泉千佳の幸せのためだ――そう言い聞かせ、和樹は入念にデートの準備をした。
 岸松おじさんにデート代を工面して貰い、黄泉千佳が楽しく過ごせるようにデートコースを考えた。


 当日――デートは、順調に進んだ。
 映画を観て、味噌ラーメンを食べ、ウサギのぬいぐるみを買ってあげた、
 
 そして今、郊外のスイーツガーデンでケーキブッフェを味わっっている。
 黄泉千佳は始終ご機嫌で、プチケーキをどんどん消化していく。
 
 そのうちに黄泉千佳は化粧室に行き、和樹は温くなった緑茶をすすった。
 帰宅するまでには、「平和になった世界に帰ってくれないか」と告げなければならない。

 そのことで頭がいっぱいで、異変には気づかなかった。
 そう、この時――大変な事態が起きていた。




「おっトイレっと~♪」
 黄泉千佳は、歌いながら女性用化粧室に飛び込んだ。
 
 中には個室が三つ並んでいる。
 そのうち、真ん中は塞がっていた。

「どっちにしよ~♪」
 左右のドアを交互に指した後、右に飛び込んだ。

「えーと、オレンジのタルトと、ブルーベリームースと、あと何を食べよっかな」

 用を足した後に立ち上がり、機嫌よく解錠した……
 が、開かない。

「あれれれれ~?」
 ドアを引っ張ったが、開かない。
 引いても、押しても、開かない。

「……ナシロっちぃ……」
 心細くなり、思わず呼ぶ。

 そして思い出す。
 こちらの世界に来た時、自分はトイレに居たことを。
 本物の久住千佳をビルのトイレで拉致し、身代わりに捨て置かれた。
 
 あの時は、別にどうとも思わなかったが……急に不安が募る。


「すいませーん、隣の人、聞こえますか~?」
 
 壁を叩いたが何の反応も無い。
 いや、考えたら――隣から物音は聞こえなかった。

「すいません、誰か聞こえてますかっ!」

 ドアを叩き、大声で助けを求める。
 

「聞こえてるよ、黄泉千佳ちゃ~ん」
 聞き覚えのある声がした。
 間違いなく、方丈日那女の声だが――本人では無いと瞬時に分かった。
 自分と同じ、あの御神木から造られた存在だ、と――。

 声を避けるように、反対側の壁に背を付けた。
 ほぼ同時に、刃が隣室の壁を貫通し鼻先で止まった。

「ひいいっ!」
 黄泉千佳は悲鳴を上げ、顔を背ける。
「たすけてえっ!」

「うるさいね。お前の剣士様は、のんびり茶をすすってるよ。あの朴訥バカは、女子トイレには関心が無いんだねえ? ちょっと気配を読もうとすれば、敵が現れたと分かるだろうに!」

 すうっと壁をすり抜けて、姿を現したのは『方丈日那女』――
 いや、『水影月』の偽体だった。

 方丈日那女の過去世の『水影月』の身体をコピーし、日那女の記憶をも移した存在である。

 『水影月』は黒水干に烏帽子を被った姿で、壁から前半身を出していた。
 片膝を付いた姿勢で壁の中に浮いており、抜刀した刀の先端で、黄泉千佳のベレー帽を突く。
 黄泉千佳は、恐怖のあまり声も出せない。

「はははははっ! 鼻が良いか? それとも目玉か? どっちも痛いよ~?」
 
 『水影月』は哄笑した。
「この下女が! お前の剣士様を絶望に叩き落とす程度の役には立って貰うよ!」

 『水影月』は切っ先を下に向け、便器を突いた。
 便器は砕け、飛沫と化して霧散する。

 ここが異空間であることは疑いの余地が無かった。


 
 ――続く。


  ◇ ◇ ◇

 
 本編のどこかに差し込めば良かったのでしょうが、ラスボス戦まで来た今となっては、差し込む場所が見つからず。
 改訂版では、どこかに差し込むかも知れません。

 ちなみに、本編119話へのリンクはこちらです↓

https://kakuyomu.jp/works/16816700428178248114/episodes/16817330656654514254

 
 最後に、いつもの告知です。
『日記・エッセイの本棚企画』は、企画終了後に立て直し続けます。
よろしくお願いいたします!


 mamalica

1件のコメント

  • >レディブラックさま。

    微熱感が無くなったので、体のだるさも消えました。
    普通に出社して、仕事をしております。
    咳は残っていますが、もう大丈夫です。

    『黄泉月の物語』本編の方は、週末あたりに続きを公開する予定です。
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